第19話 ジョブチェンジ

 ケータとギプスに別れを告げた後、ジェニファー達は、案内人37号を先導に転職神殿の奥へと進んで行きました。


 残されたケータとギプスは、初めて来たからということで、案内人28号に、この転職神殿についていろいろと教えてもらいました。


 転職神殿では、上級ジョブや派生ジョブへジョブチェンジすることが出来る転職の間があるほか、ダンジョンの宝箱などで手に入れたアイテムの性能などを鑑定できる鑑定の間や、転移ポイントである転移の間などがあるそうです。


 また、転職神殿の敷地内には魔物が入ってこれないように、特殊な結界が張られていて、さらに休憩を望むならば安心して休めるように、パーティー毎に休憩用の部屋を用意してくれるといいます。ただし、水や食料などは、自分達で用意する必要があるとのことです。



「ハッハー! さっそくジョブチェンジを試してみるですネー!」

「ジョブチェンジかー。なんかワクワクするな!」

『畏まりました。転職の間へご案内します』


 さっそく転職を試みることにしたケータは、案内人28号に先導されて、ワクワクしながら転職の間へと向かいました。


 神殿内部は、明り取りが上手く取られているようで、光が白い石壁に反射していて神殿の中の見通しも良好です。


「ほかに人はいないようだね」

「ハッハー! それはどうだか分からないですネー!」


「えっ? 人の気配は感じられないよ?」

「ケータの言う通り、人の気配は感じないですネー! けれど、ジェニファー達の気配も感じないですネー!」


 ギプスの言葉に、ケータは、はっと目を見張りました。


「本当だ! ジェニファー達の気配が無い。あっ、でも、もう帰還玉でダンジョンの外へと帰ったんじゃないの?」

「ハッハー! ケータは、まだまだですネー! ジェニファー達と別れてすぐに彼女たちの気配は消えたですネー!」


「ほんと!? 全然、気付かなかった!」

「ハッハー! ギプスは気付いていたですネー! そして、それは転職神殿の不思議だと思うですネー! 案内人28号、そうですネー?」


 ギプスは、案内人28号に確認するように尋ねました。


『ご推察のとおりです。神殿内でつまらない諍いが起きないように、パーティー同士が邂逅しないようにしています』

「そうなんだ。すごいね」


 案内人28号の回答に、ケータが感心しきりに言いました。


「ハッハー! この迷路のような通路も転職神殿の不思議ですネー!」

「えっ!? そうなの!? 28号、ほんとにそうなのかい?」

『そのとおりです。——』


 案内人28号によると、これまで神殿内に入ってから既にいくつもの分岐を通ってきましたが、これも転職神殿側がパーティー同士を別離させるための手段なのだというのです。


 おそらく、ジェニファー達は、このことを知っていたため、転職神殿に入ってすぐにお別れを言ってきたのです。


 真っ白な通路をしばらく進むと、案内人28号は、とある扉の前で止まりました。樹木のような装飾の施された木製の扉です。


『転職の間に着きました』

「ここが、転職の間かー。なんかドキドキしてきた」

「ハッハー! 楽しみですネー! さっそく中へ入るですネー!」


 ギプスに促され、ケータは扉を開けて転職の間へと入りました。転職の間の床には不思議な魔法陣が描かれていて、その中央にバスケットボールほどの透明な球体がうっすらと青白い光を放ちながら浮かんでいました。


「うわぁ……、なんか凄いな……」

『ジョブチェンジを希望される方は、部屋の中央に浮かぶ転職クリスタルに触れてください』


 ケータが、転職の間のようすに目を見開いていると、案内人28号が、ジョブチェンジの案内をしてくれました。


「ハッハー! ケータ! ジョブチェンジするですネー!」

「う、うん……」


 ギプスに促され、ケータは、部屋の雰囲気に飲み込まれながらも中央へと歩みを進めて転職クリスタルの前で立ち止まりました。


 そして、ケータが、しばし中央に浮かぶ転職クリスタルを見つめてから、意を決したように触れると、転職クリスタルが眩い光を放ちました。


 光が収まると、ケータは自身の両手をジッと見つめ、何かを噛み締めるように手を握ったり開いたりしました。


「ヒャッハー! ジョブチェンジ成功ですネー!」

「うん、何だか体の中に力が漲る感じだよ」


 ギプスが、すいーっとケータの正面へと空中を泳いで行き、ジョブチェンジの成功を全身を使って喜ぶと、ケータも笑顔で返しました。


「新しいジョブは、筋トレポーターですネー!」

「えっ? 何でわかるの?」


 ギプスが、ケータの新ジョブを当てて見せると、ケータは、驚いた顔をしました。以前、ジェニファー達からジョブチェンジをした後の職業は、本人にしか分からないと聞いていたからです。


「ハッハー! 以心伝心、ケータの事ならだいたい分かるですネー!」

「う~ん、ギプスだしなぁ……。まぁ、いっか」


 ギプスの謎の洞察力?に対して、ケータも長い付き合いで慣れているのでしょう。あっさりとしたものです。


『筋トレポーターというジョブは、聞いたことがありません。かなりレアなジョブかと推察します』

「えっ? そうなの?」


 案内人28号の言葉に、ケータは、思わずといった表情で問い返しました。


『私のデータにございませんので、レアなジョブの可能性が高いです』

「ハッハー! さすが、ケータですネー! 毎日筋トレ頑張って来たかいがあったですネー!」

「えっ? 筋トレのおかげ?」


 毎日の筋トレの成果と言われ、ケータは少し戸惑い気味です。


「細かいことは、どうでもいいですネー! さっそく筋トレするですネー!」

「いや、気になるでしょ?」


 なんだかんだで、ギプスの一声で、今日も突然筋トレをすることになりました。

 転職の間で突然筋トレを始めたケータを整然と見つめる?案内人28号が、すこし疲れたように見えるのは気のせいでしょうか……。


「そうだ。28号さん?」

『……はい』


 ケータが、筋トレしながら呼びかけると、案内人28号は、若干の間を置いてから返事をしました。


「せっかくだから、ジョブについて教えてもらえるかな。ギプスやジェニファー達に聞いているんだけど、改めて教えてもらいたいんだ」

『畏まりました』


 ケータの頼みに、案内人28号は、どこか嬉しそうに承諾し、ジョブについて話し始めました。


 案内人28号の話では、ジョブは人々に与えられる恩寵で、ダンジョン入口にある職業神殿にて望めば、その者に合ったジョブを授かることが出来るといいます。


 ただし、体の成長が未熟な子供の場合は、ジョブを授かることは稀なことで、誰でもジョブを授かることのできる15歳を成人と定め、15歳となった年に職業神殿でジョブを授かるのが望ましいとされているそうです。


「あれ? 俺は5歳の時にポーターになったんだけど?」

『15歳に満たない子供がジョブを授かることも稀ですがあります。ただし、体の成長が未熟なため、限られたジョブしか授かることが出来ないでしょう』


 話の途中で、ケータが、自身の経歴のことで疑問を投げかけると、案内人28号は稀なケースだと答えました。


 ケータが、そっか、と筋トレしながら微妙な顔で言うと、案内人28号は、ジョブについての説明を続けました。


 ジョブの恩寵は、主にジョブ特性という形で現れるといいます。例えばポーターならば、ジョブ特性はポーターバッグで、既成のバッグをポーターバッグと定めて容量拡張や重量軽減を付与することが出来るという特性です。


 そして、ジョブ活動によりジョブの練度が向上すると、神殿の転職の間でジョブチェンジが出来るようになり、新しいジョブを授かることが出来ます。


 このとき、過去のジョブで得たジョブ特性は無くならず、新しいジョブで得たジョブ特性が追加されるというのです。それゆえ、ジョブチェンジした方が、多くのジョブ特性を得ることになるため、誰もがジョブチェンジを目指すのだといいます。


「なるほど。ジョブチェンジって凄いんだね」

「ヒャッハー! ケータのジョブ特性も増えたですネー! ジョブ特性を最大限に発揮するためにも、しっかり練度を向上させるですネー!」


 ケータが、ジョブチェンジの有効性について理解を深めて呟くと、ギプスが何だか意味深な言葉を投げかけるのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る