4.出会い

第11話 人間達

 ランダム転移で行きついた見知らぬダンジョンの奥深い階層は、ケータにとって戦えば確実に死ぬような危険な魔物だらけでした。


 そんな中、ケータとギプスは生き延びる為、毎日、死に物狂いで実戦トレーニングを行い、事実、何度も死ぬかと思う瞬間がありながらも、何だかんだで何層か浅い階層へと渡ることが出来たのでした。


「ブギィィィーー!!」

「よっしゃぁ!!」


 オークが断末魔の叫び声を上げ、ボフっと霧となり、魔石を落として消え去ると、ケータが、ガッツポーズを見せました。


「ハッハー! オーク1体なら、もう余裕ですネー!」

「ふっふーん、2体相手でも行けるぞ」


 ギプスの声に、ケータは胸を張って見せました。実際、今のケータならばオーク2体くらい1人で倒してしまいそうです。


 ここまで来るのに、かなりの月日が経っていて、ケータの背は伸び、死に物狂いのトレーニングの成果によって、身体能力は、かなり向上していました。


 今のケータは、まだ子供っぽい顔つきですが、身長はそこそこあって、かなり成長した大人一歩手前の子供という見た目です。


 服装は、最近宝箱から出たばかりで丁度良いサイズの上下揃いのシャツとパンツに革の胸当てを着けています。以前着けていた小手は壊れてしまって捨てました。


 相変わらず宝箱から靴が出ないので、自作のわらじを履いていますが、最近は器用に編み込んでブーツのような形状のものを作り上げています。


 あとは、余裕のサバイバル生活を送りながら、目標のダンジョン出入り口を目指すだけですが、相も変わらず筋トレは続けている毎日です。


 オークの落とした魔石を拾って、岩場の多い地形を進んでいると、ケータが何かに気付いたようで、立ち止まって遠目に見える林の方を眺めました。


「う~ん、この気配は、人間達かな? こちらへ向かって来るみたいだ」

「ハッハー! いつものように、人間達が来る前に、遠ざかるですかー?」


 これまでにも、何度も人間達の存在を察知してきましたが、ケータとギプスは、人間達とは関わらないよう、逃げるように遠ざかってきました。


 ケータのような子供が1人でダンジョンの中を歩いているなんて、普通じゃあり得ないことなので、ひょっこり顔を見せたならば、面倒ごとになるのは容易に想像がつきます。


「う~ん、走っているようだ。移動速度が速いな。下手に見つかっても嫌だし、隠れてやり過ごそうか」

「了解ですネー!」


 ケータは、近くで隠れられそうな場所へと素早く移動を始め、ギプスもふよふよと後に続きます。


 ケータは、身を隠しつつ相手の状況を窺うのにちょうどよさそうな岩場を見つけると、ギプスと共に岩の陰へと身を潜めました。


 そして、岩場の陰からそうっと様子を覗き見ていると、遠目に5人の人間達が走って向かって来るのが見えました。彼らは、何かを気にしているようで、何度も後ろを振り返りながら走っています。


「魔物に追われているみたいだね」

「もうすぐ魔物が来るですネー」


 ケータとギプスは、小声で話すと、彼らを追っていると思われる魔物のようすを静かに覗き見ます。


 人間達の後ろを付かず離れずの距離を置いて追いかけていたのは、全身に黒いマダラ模様の入った1体のゴブリンでした。


 人間達とゴブリンが去って行き、見えなくなったところで、ケータとギプスは一息ついて顔を見合わせました。


「ゴブリン1体に追いかけられてたのかな?」

「ハッハー! そのようですネー!」


「今まで見たゴブリンとは、少し違う感じだったね。黒いマダラ模様のゴブリンだったけど、ゴブリンの上位種かな?」

「う~ん、あんなゴブリン、ギプスは知らないですネー!」


「ギプスでも知らないことがあるんだ」

「ハッハー! ギプスは知ってることしか知らないですネー!」


 そんなふうな話をしてから、ケータとギプスは、再び岩場の多い荒野の中を歩き出しました。



 そして、しばらく歩みを進めていくと、再びケータの足が止まりました。


「う~ん、また人間の気配がする。今度は魔物と戦っているようだけど……」

「また隠れるですかー?」


「……なんか変だな。人間の気配が2人、いや3人かな。オークと戦っているようだけど、なんか少なくないか?」

「3人ですかー? 確かに少ないですネー! 普通は7人か8人でパーティーを組んでいるですネー!」


 ギプスが言うように、人間達は、だいたい7人か8人でパーティーを組んでダンジョンへ挑みます。帰還玉が8人まで登録できるため、ある程度の階層を超えると、自然とそれくらいの数で挑むようになるのです。


 ちなみに、浅い階層では、魔物が弱いことと帰還玉を使うことがほぼ無いため、それぞれの理由で様々な人数のパーティーが組まれます。ソロもいれば、10人以上の集団で活動する人達もいるのです。


「オークにやられちゃったのかなぁ」

「ハッハー! ほかの魔物かもですネー!」


「う~ん、ちょっと様子を見に行こうか」

「ハッハー! 行ってみるですネー!」


 難しい顔をしながらも様子を見に行こうと言い出したケータに、ギプスは反対することもなく、2人はオークと戦う人達の方へと静かに駆け出しました。



 ケータとギプスは気付かれないように、遠目に3人の人間が見えるくらいのところまで近づくと、岩場に隠れてようすを見ることにしました。


 そこでは、剣を持った戦士風の女性が、オーク1体と真正面から戦っていました。その戦闘から少し離れたところに、倒れた女性とその女性を介抱するかのように振舞うローブの男性が見えました。


「ハッハー! なんとかオークを倒せそうですネー!」

「そうだね……」


 ギプスとケータの見立て通り、戦士風の女性が優勢でオークと戦っていて、やがて大きく膝をついたオークを袈裟懸けに切りつけると、オークはボフっと霧となり、魔石を落として消えてゆきました。


「1人、怪我をしているみたいだ」

「怪我の1つや2つ、ポーション使えばあっという間に治るですネー!」


 ギプスの言う通り、戦闘で負った傷くらいであれば、ポーションを飲めばすぐに治ってしまいますが、彼らは怪我をしている女性にポーションを飲ませるようなことはありませんでした。


 倒れていた女性は、何とか立ち上がろうとしましたが、うまく立ち上がれないようです。


「ポーション持ってないのかな?」

「使い切ってしまったかもですネー……」


「大丈夫かなぁ……」

「もう少し、ようすを見るですネー!」


 ケータとギプスがそんな話をしながら見ていると、戦士風の女性とローブを着た魔法使い風の男性が、左右から肩を貸して怪我した女性を立ち上がらせると、3人はようやく歩き出しました。


 しかし、すぐに立ち止まり、怪我をした女性を地面へ下ろして寝かせました。


「う~ん、なんか、非常にまずいのでは?」

「ハッハー! そのようですネー!」


「彼らは、どうなると思う?」

「回復魔法が使えるのなら、魔法で治せばいいですネー!」


「いやいや、使えるならもう使ってるでしょ?」

「魔力が無くなったかもしれませんネー! そうであれば、魔力が回復してから魔法を使って治すですネー!」


「なるほど」

「ですが、回復魔法が使えなければ、足手纏いの怪我人を置いて行くかもしれないですネー!」


 ケータとギプスが、そんな話をしながら見ていると、戦士風の女性と魔法使い風の男性が身振り手振りを交えて言い争うような感じになってきました。


「う~む、何か喚いてるみたいだな」

「ハッハー! ここはギプスに任せるですネー! ギプスイヤー全開ですネー!!」


 ギプスイヤーは、遠くの音を聞き取ることが出来るスキルです。似たようなスキルはあるようですが、ギプス曰く、一味違うらしいです。


「怪我人を無理にでも連れて行くか、休ませるかで揉めてるですネー!」


 ギプスの解説が始まると、すぐに彼らの状況が分かりました。2人は言い争うのを止め、しゃがみ込んで怪我人の顔を覗き込みます。


「怪我した女性が、自分を置いて行けと言い出したですネー! もう自分は助からないだろうと言ってますネー!」

「そんな……」


 ギプスの解説に、ケータは悲し気な顔になりました。


 ここからは遠くてよく見えませんが、戦士風の女性と魔法使い風の男性も、おそらくケータと同じような顔をしているのでしょう、怪我人の女性の顔を覗き込んでいました。

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