第30話 ツァウ VS ハイリゲス

「今日は逃げないのね」


        ああ。準備は整ったからな


 私の目の前に現れた仇敵であるハイリゲス。

 皮肉交じりに声をかけるが相変わらず返事は返ってこない。

 前回までの襲撃では私に姿が見つかるとすぐに逃げ出していたが、今回は様子が違う。

 無言のまま不気味な笑みを浮かべるハイリゲスを私は訝しむ。


「どうやら今回で決着を付ける気のようね。上等じゃない!」


 昼夜問わず襲い掛かってくるハイリゲスに精神を削られ、疲労はピークに達していた。

 使用できる魔法も元がいくつあったのか分からないが、減っていることは間違いない。


 最悪のコンディションだが、負けるわけにはいかない。

 私を呪いで縛るハイリゲスを倒し、正義を為すのだ!


 心の中で気合を入れると、なけなしの魔力をふり絞り魔法を練り上げる。


「私はツァウ。正義の魔法使い! 呪いで私を縛ったあんたは許さないわ! あんたは必ず私が倒す! 『射出氷種シュートシード』」


 私は詠唱を始め、魔力を地面に流す。

 地面の中で変化を遂げた魔力が氷となり形作るのは植物の芽だ。

 地面から生えた芽は太い幹へと成長し、いくつもの枝へと分かれて氷の実を付ける。


 百を超える氷の実は熟れて更に膨らんでいき、一斉に破裂する。


 実の中から飛び出したのは氷の礫だ。

 狙うはハイリゲス。

 数百の氷の礫が破裂の勢いで射出され、ハイリゲスへと襲い掛かる!


「ちっ」


 ハイリゲスの姿が消える。

 眼で捉えきれない高速移動。

 ハイリゲスの居なくなった地面を氷の礫が穿つ。


 だが、これは予測通り。

 動きを捉えられないならば、止めてしまえばいい。


「『潜伏風爆ハイドブラスト』!!」


 私の周囲の地面が爆発する。

 あらかじめ仕込んでおいた任意発動式の風魔法だ。

 魔法を仕込んだ地面から上空へ向け突風が吹き荒れる。


 視線を巡らせば、風に煽られ宙に浮かんだハイリゲスの姿があった。


「見つけた! 『火亀燃盾ファイアータートルシールド』!!」


 炎の体を持つ巨大な亀を創造する。

 風を受けた大亀の体のあちこちから炎が大きく吹きあがる。

 空中ではハイリゲスも逃げることは不可能だ。

 身動きを封じたハイリゲスへ大亀を突進させる。


赤光しゃっこう!!」


 炎の大亀へハイリゲスが剣を合わせると大爆発が起きる。

 爆風で視界が遮られ、地面から吹きあがる風が相殺される。

 だが、これも想定内。


 ハイリゲスの奥の手はすでに一度見ている。

 だから、攻撃手段に炎に強い火魔法で生み出した大亀を選んだのだ!


「亀ちゃん! お願い! そのまま押しつぶして!」

 

 爆炎が煙る中、大亀の巨大なシルエットが動く。

 炎でできた大亀の体内には膨大な熱量が込められている。

 ハイリゲスと言えど生身で大亀に押しつぶされれば、その身を焼かれ命はない!


 大亀が振り上げた足を振り下ろす。

 地面に亀裂が走り、辺りを大きな揺れが襲う。




「ハイリゲスは……」


 杖を構えたまま大亀の巻き上げた土煙の中を凝視する。

 煙の中を動く影はない。

 私は視線を煙に向けたまま視界の端でステータスを確認する。

 呪いは――消えていない!


「らあああああああ!」


 声が聞こえてきたのは頭上からだ。

 私は破裂させずわざと残しておいた氷の実を弾けさせ、その礫を声のした方向へ飛ばす。


 視線を向ければそこには大剣を大上段に構えるハイリゲスの姿が。

 やはり殺せていなかったわね。

 

 ハイリゲスは殺到する礫を瞬時に切り伏せ、自由落下に任せ私の下へと飛び込んでくる。

 だけど、これも想定内よ!


「『雷鎧反撃リアクトボディ』!!」


 体に纏った雷の鎧。

 相手が一瞬でも私の体に触れれば、触れた箇所から電撃を打ち込むことができる。

 いくら相手のステータスが高くても関係ない。

 体内を流れる生体電流を乱すため、相手は確実に動きを止める。

 そうなれば今度こそ大亀で奴を押しつぶして――


「えっ……」


 ハイリゲスは剣を引き、何故か代わりに空いた左手を伸ばしてきた。

 私の態度に不審なところを感じ取った?

 だが剣で触れようが、手で触れようが関係ない!

 接触の瞬間、私の勝ちが確定する。


 伸びるハイリゲスの左手が私の肩に触れる。

 

「なによ、これ」


 突如襲い来る強烈な眠気。

 確かに連戦で疲れていたが、これはおかしい。


 眼の前では雷に体を貫かれ動きを封じられたハイリゲスがいる。

 体を焼かれ苦しいはずなのにその顔は、何故かいたずらに成功した子どものような笑みを浮かべている。


「ハイリ、ゲ……」


 あと少しなのに。

 大亀に命令してハイリゲスを潰せば、それで私の勝ちなのに。

 

 私の意思に反して、意識は薄れてゆく。

 ハイリゲスへの憎悪の炎を宿したまま、私は微睡の中へと深く深く沈んでいく……



☆☆☆


 気が付くと眼の前には血まみれの男が倒れていた。

 お腹には太く鋭利な物で刺されたような大きな穴が空いており、そこからは血がとめどなく流れ出ている。


 私は驚き立ち上がろうとするが、体が動かない。

 それどころか私の体は私の意思を無視し男に縋りつくと、幼子のように涙を流す。


 倒れる男の顔に視線を向けるとその顔には見覚えがあった。


「ハイリゲス! 死んじゃ嫌よ!」


 私の口から憎むべき仇敵の名前が漏れる。

 そう。私の目の前に血まみれで倒れていたのは先ほどまで戦っていたはずのハイリゲスであった。


 いつの間にハイリゲスは血まみれになったのだ?

 なぜ私はハイリゲスの前でうずくまり涙を流しているのだ?


 状況に付いていけない思考を他所に、私の目からは涙が流れ続けていた。


「ツァウちゃん。ちょっと離れててくれるかな」


 横から女性の声が掛かる。

 顔を上げるとそこには真剣な眼差しをハイリゲスに向ける修道着姿の女性がいた。

 私はこの女性を知らないはずだ。だけど、何故か懐かしさを感じる。


 女性は私の隣にしゃがみ込むとハイリゲスの傷口へ手を伸ばす。


「ハイリゲスは重症だ。僕もちょっと本気を出すから、ツァウちゃんは下がっていてよ」


 女性の手からは回復魔法の淡い魔力が漏れ出る。

 ハイリゲスの腹から流れる血の勢いが緩やかになる。

 私は女性に言われるがままヨロヨロと立ち上がる。


 少し冷静さを取り戻した頭で状況を整理する。

 どうやらここは現実の空間ではないようだ。

 どんな魔法を使ったかまでは分からないが、私はおそらく幻覚でも見せられているのだろう。


 原因は明白だ。

 私は直前までハイリゲスとの戦闘を行っていた。

 決着の直前、ハイリゲスはわざわざ武器をひっこめ私に手を伸ばし体に触れようとしてきたのだ。

 おそらくそれがきっかけとなりこの事態を招いているのだろう。

 つまり今、私は敵の術中にあるということだ。


 私は周囲の様子を探る。

 視線を動かすことはできないけれど、どこに注意を向けるかは自分で決めることができる。

 景色を確認すると、ここは見晴らしの良い広大な草原のようだ。

 辺りには枝の少ない木が点在するだけで、地平線の彼方まで膝の高さほどある背の高い草が生い茂っている。

 当然見覚えはない。


 ハイリゲスに注意を戻す。

 お腹にはまるで杭でも打たれたかのような大きな穴が空き、回復魔法である程度塞がったとはいえ未だに血が流れ出している。

 顔色は青白く、今にも死にそうだ。


「ハイリゲス、ごめん。私のせいで」


 まただ。口が勝手に心にもない事を言う。

 私の目からは大粒の涙が勝手に流れ出る。

 心の内側から悲しみの感情があふれ出してくる。

 それがとにかく気持ち悪い。


 まるでハイリゲスが大切な仲間であるかのような錯覚を覚える。冗談じゃない!

 私の中に私の知らないもう一人の私が居るかのような嫌悪感。

 ハイリゲスを見ているだけであふれ出してくる悲しみを、憎しみの炎を燃やし退ける。


 目の前で展開されている光景。

 これはおそらくハイリゲスの用意した偽の記憶なのだろう。

 私に過去の記憶がないのはもしかしなくとも、ハイリゲスがこの記憶を植え付けるために仕組んだことなのかもしれない。

 だが、騙されてやるものか。




 ふいに目の前の光景が切り替わる。

 気づけば私はハイリゲス、そして謎の女性の三人と共に草原の中を歩いていた。


 ハイリゲスに怪我をしている様子はなく私達の先頭を軽い身のこなしで歩いている。

 私の隣を歩く女性は何を考えているか分からない仮面のような表情だけれど、口元だけには笑みを浮かべている。


 次は何が起こるのか。

 私は警戒を強める。


 周囲は見渡す限りの草原で木がまばらに生えるばかりだ。

 見晴らしは良く、周囲には人工物の影も形も見当たらない。

 前を行くハイリゲスがこちらを振り返る。


                  ツァウ! そろそろ疲れてきたんじゃないか?

 

 何か話しかけてくるかと思ったが、ハイリゲスは無言でこちらに笑顔を向けるだけだ。


「何よ! 子ども扱いして。私はまだまだ元気よ!」


 いきなり話し出した私に、私自身が驚いた。

 この場面で私はなぜ独り言をつぶやいている?

 幻覚にしても不自然な私の言動に疑問を抱く。


 しかし、その思考も次の瞬間には遮られる。


『ヒュゥイ!』


「っ!?」


 甲高い動物の鳴き声を受け、頭上を見る。

 そこには私へと影を落とす巨大な魔物の影があった。

 魔物は鳥のような鋭いくちばしを有しており、私を目掛けて迫ってきている。

 幻覚の中の私は魔法の詠唱を始めるが、間に合わない。


    危ない!」


 突如、横から衝撃を受け私は吹き飛ばされる。

 何が起こったのか。

 顔を上げるとそこには魔物のくちばしに腹を貫かれたハイリゲスの姿があった。


 ハイリゲスが私の身代わりになった?

 私の中で恐怖、悲しみ、怒り。様々な感情が爆発する。


「ハイリゲス!」


 私は声を上げていた。


 襲ってきたのは三メートルの巨体を持つ魔物だった。

 馬のような体に身の丈を超す巨大な翼を持つ空を翔る魔物、グリフォンだ。

 おそらく私達の視認できる範囲の外、超上空から急降下してきたのだろう。

 グリフォンはハイリゲスの腹からくちばしを抜くと、素早く飛び立つ。

 ハイリゲスの腹から大量の血が噴き出す。


「『穿孔蕾氷バドドリル』!!」


 私は遠ざかる魔物の背中を目掛けて夢中で魔法を放った。

 グリフォンはとても素早い魔物で空中を自在に飛ぶが、重力に乗せた急下降のときのような速度は無い。

 氷柱が見事巨大な翼の中央を貫き、揚力を失ったグリフォンは地面へと墜落する。


「『火龍息吹ファイアードラゴンブレス』』!!」


 逆立つ感情に影響され次なる魔法に込める魔力が増大する。

 全てを塵へと変えるドラゴンの息吹。

 超威力の魔法が地面に伏せるグリフォンを直撃。

 消し炭すら残さず死骸を燃やし尽くす。


 どちらも私が知らない魔法だ。

 『不明の呪い』により私が忘れてしまった魔法だろう。

 現に、今見たはずの魔法をすでに思い出せなくなっている。

 



「ハイリゲス! 大丈夫?」


 幻影の中の私はグリフォンの死亡を確認する間も惜しんでハイリゲスに駆け寄っていた。


       ……ああ。問題ない


 そんなはずがない。

 ハイリゲスの穴に開いている大穴はどう見ても致命傷だ。


 ……ハイリゲスは何も言っていないのに、疑念の言葉が私の中に浮かぶ。


「どうして私を庇うのよ! 私なら魔法で対処で来たわよ!」


 私の強がりに、ハイリゲスは答えない。

 既に気を失っていたのだ。

 

 私は溢れ出る感情に身を固くする。

 私をかばったハイリゲスへの感謝と、ハイリゲスに重症を負わせた魔物への怒り、この状況でただ見ていることしかできない自身の不甲斐なさ。

 私がもっとしっかりしていればハイリゲスは傷つかずに済んだはずなのに。

 自己否定の言葉が私の中で渦巻いていくのを感じる。


 だめだ。頭がおかしくなりそうだ。

 何が真実で、何が嘘なのか。

 その境界があいまいになっていくのを感じる。


 これは本当に偽の記憶なのか。

 そんなありえない疑惑が私の頭の片隅をよぎる。


 混乱の最中、再び視界が切り替わる。

 そこには地面に横たわるハイリゲスの姿があった。

 傷口には大きな布がかぶせられており、血は止まっているようだ。

 ハイリゲスは目をつむり動かないが耳をすませば寝息が聞こえてくる。

 最初に見た場面を思い出すに、女から治療を受けて一命を取り留めた後と言うことだろう。


 私は次々と湧き上がる感情を抑えハイリゲスを睨みつける。

 ハイリゲスの目が突然、パチリと開く。


「ツァウか。今日のことはごめんな。でしゃばった真似をした」


「っ!? もう! なんで謝るのよ」


 ハイリゲスが話しているのを初めて認識した気がする。

 その声はやはりどこかで聞いたような懐かしい響きがあった。

 だが、なぜ彼は謝っている?


 目を覚ましたハイリゲスに対し、自然と悪態が口から出る。

 湧き上がってくるのはハイリゲスが無事であった安堵の喜びだ。

 私の中の混乱や怒りが押し流されていくのを感じる。

 それとともに本当に謝るべきは油断した自分なのだと、自責の念にさいなまれる。

 ……どうして私がハイリゲスに罪悪感を感じなければいけないのよ!


「……ありがとう」


 口から次に漏れ出たのは感謝の言葉だった。

 ハイリゲスは幻覚の中の私の言葉を受け笑顔で頷くと、体を起こす。


「ああ。君が無事でよかった」


 ハイリゲスの手が私の頭に伸びると、わしゃわしゃと頭を撫でられる。

 感じる手のぬくもりに自然と笑顔がこぼれる。

 しかし頭を撫でられる気恥ずかしさに気づきすぐにその手を払いのけた。


「止めて! 子供じゃないんだから」


「まあ、これぐらいは許してくれよ! なんたって、俺は命の恩人なんだぜ!」


「それとこれとは話が違うわ!」


 ハイリゲスの掌の温かさが幻覚の中の私の心を溶かす。

 そして、なぜかこのやり取りに私は心地よさを、懐かしさを感じていた。


 これは偽物の記憶のはずじゃないの?




「私の魔法は何のためにあるの……」


 言わないでおこうと抑えていた幻覚の中の――いや、私自身の感情が爆発する。


「ハイリゲスが傷ついたとき、私はハイリゲスに何もしてあげられなかった。他者を傷つけるばかりで、誰かを助けてあげることもできない。唯一の取り柄であるはずの魔物との戦闘でも足を引っ張ってしまう。私は私の時間の全てを魔法の研鑽に費やしてきた。なのに、役に立てない。私の魔法は……私は何のために存在するの!?」


 自分への腹立たしさ、不甲斐なさ。

 そう、これは過去の私が感じたものだ。

 真相真理の奥底に眠っていたが感じた思いだ。

 私の口からは悪感情がとめどなく流れ出し止められない。


 ハイリゲスは私の言葉が途切れるまで黙って話を聞いてくれる。


「そうか。ツァウは俺たちの役に立ってくれようとしていたんだな」


 再びハイリゲスの手が私の頭に伸びる。

 優しく撫でてくれるその掌を今度は払いのける気にはならなかった。

 代わりに私の頬を涙が伝うのを感じる。


「ハイリゲス。私の魔法は何のためにあるのだと思う?」


 改めて問う私にハイリゲスは優しく諭すように笑顔を向け答えてくれる。

 そう、彼はあの時こう言っていた。


「何も全てを自分でやる必要は無いんだ。俺はツァウのように魔法を使えないし、イルジィのように他人を癒やすことはできない。だけど体は頑丈だから今回みたいに身を挺して仲間を守ることができる。だからツァウも自分にできることをすればいいんじゃないか」


「でも、私は攻撃魔法しか使えないし」


「最強の攻撃魔法だろ? 今回のグリフォンだってお前の魔法で一発だったそうじゃないか。あのままグリフォンが生きていたのなら間違いなく俺たちは全滅だ。ツァウは俺の命の恩人って訳だ」


「でも、それは! 私が油断したからハイリゲスはこんな怪我を負って」


「失敗は誰だってするさ。そんな時に助け合うのが仲間だろ? 今度俺が失敗したらツァウが助けてくれよ!」


「……私が、ハイリゲスを、助ける?」


「ああ。きっと君の魔法はみんなを助ける為にあるんじゃないかな」


 そう、あの時彼が私に言ってくれたのだ。

 私の魔法はみんなを助けるためにあるんだと。


 だけど、それだけじゃない。


「でもそれは俺の意見だ。君は好きに生きればいいんだよ」


「えっ?」


 直前に言った言葉をあっさりと覆すハイリゲスに私は一瞬呆ける。

 そんな私を見てハイリゲスは笑みを深め、言葉を続ける。


「ツァウは自由なんだ。その力を誰かの為に使うのも、自分のために使うのも。 使わないのだって自由だ! そうだろ?」


「私の、自由?」


 ああ今、完全に思い出した。

 なんで私はこんなにも大切なことを忘れてしまっていたんだろう。


 魔法使いの家系に生まれ、魔法の研究に明け暮れた私はそれが当たり前だと思っていた。

 才能に恵まれ、周りからも期待されて、私が魔法を使うのは当たり前のことだと思っていた。

 だけど、そんな私にハイリゲスは選択の自由を与えてくれたんだ。

 ……その上で私はこの力をみんなのために、正義の為に使うことを選んだんだ!



☆☆☆


 意識が覚醒する。

 目の前では私の電撃に身を焼かれ、地に伏せるハイリゲスの姿があった。

 ……私の為に、またこんな無茶をして。本当に馬鹿なんだから。


 私は意識を失う直前の、ハイリゲスのあのいたずらの成功した子供のような笑顔を思い出す。

 彼はまた私を助けてくれた。

 助け合うのが仲間なのよね?

 だったら!


「私はツァウ。正義の魔法使い。自由に生きる、最強の魔法使い!」

 

 私は自身の意思を再確認するように、ゆっくりと名乗りを上げる。

 すでに夢の中で見た記憶はあいまいになっている。

 これもが私にかけた呪いの影響のせいだろう。

 だけど、この決意だけはもう忘れない。

 私は、私の意思で正義を為すんだ!


 私は姿を変え人間の姿となっているフルーホへと向き直る。

 フルーホは私の変化を感じ取っているのか、不気味な笑みを浮かべていた。


「どうしたんだい、ツァウさん。ハイリゲスは虫の息だ。一思いに殺してしまってくれよ!」


 フルーホの言葉が思考を揺さぶる。

 彼の言うことが正しいのだと脳内が叫びを上げる。

 だけど。


「私はもう縛られない! 私は私の信じることを為すんだ!」


 私は杖の先をフルーホに向け、決別を宣言する。

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