第19話

 °・.*·〇·………………………………·〇·*.・°




 誰もいないと思っていた部屋に

 ため息が聞こえ…


 驚き振り返ると…


 部屋の入口に

 数日前に我が家を訪れた

 オスのうさぎが立っていた




「驚かせてしまったか?」


 そう言いながら

 ゆっくりと近づいて来る



 城にいるんだもの王族関係者よね?

 年の近い王子様の従者とか?



 何者だろうかと思案していると

 目の前まで来てジッと覗き込んで来る



「私が何者か、思案しておるのか?」


 ‪Σ( ˙꒳​˙ ;)ハッ!


 言い当てられ

 思わずコクコクと頷いた


 すると彼は片眉を上げニヤリと笑う



「私は、この国の第5王子だ

 下々の者はまだ顔を知らなくて当然だ

 …気にする必要はないぞ」


「へ? …第5…王子?」



 今の王様には7人の王妃との間に

 5人の王子と2人の姫様がいらっしゃる


 第5王子は6人目の王妃の子


 確か来年、成兎の儀を行うはずで…

 私の一つ下の17歳


 お顔は成兎の儀の際に

 お披露目される予定のはずで…



 確か庶民の間でコッソリ言われてる

 あだ名は冷酷王子…



 私は慌てて王子と距離をとり

 床に両膝を着き頭を下げた



「申し訳ございません王子様」


「ん?…どうした?」


「大変失礼な態度を…」


「…何かしたのか?」


「本来ならば、私などが顔を上げ

 直接会話するなど許されません」


 床板の繋ぎ目を見ながら話していると

 視界に王子の靴先が入って来た



「……立て」


 王子に促され

 今更だけど顔を見ないように

 俯いたままゆっくりと立ち上がる



 すると王子の柔らかそうな白い手が

 目の前に差し出される



 同じように白くても優義ユウギの手は

 もっと節々がしっかりしていて

 大きくて男らしい……なんて

 こんな事ですら優義ユウギを思い出してしまう



 王子の手をボーッと見ていると

 その手が伸びて来て重いドレスのスカートを

 摘んでいた左手首を取られる


 グイッ


 そのまま勢いよく引かれ

 彼の胸の中に飛び込むような形になった



「 !? 」


 驚いて思わず顔を上げる


 第5王子は優義ユウギより背が低く

 顔を上げただけで唇が触れそうになる


 慌てて身を引くも

 王子の手が腰に回されすぐに引き戻された



「 !? 」


 驚いたけど今度は

 顔を上げないように顎を引く


 すると反対の手で顎を持ち上げられ

 王子と目が合う


 人間ならキスされそうな距離だけど…

 我々にはその習慣がないことに安堵する



 明るい茶色だと思っていた王子の瞳は

 黒い輪郭に金と緑の入り混じる

 美しい瞳だった


 金色の瞳は王家の印だ…


 その迫力に思わず息を呑む



「その程度の事で…可愛い奴だ

 愛実アミ、お前がする事ならば

 私は何でも許してしまいそうだ」


「……え?」


 心なしか王子はウットリとした表情をし

 顎を持ち上げた手はスルリと頬を撫でる



愛実アミ、お前はこの世で一番美しい…

 喜ぶがいい、お前を私の第一妃に

 迎えることにしたぞ」


「……ぇ…」


 我が耳を疑った



「あぁ、不安そうにするな…

 本当に可愛い奴だな

 何も心配は要らないからな」


 そう言いながら

 頬を撫でる手は動いたままで…



 気分が悪い…

 王子様じゃなければ払いのけていた



「お前は今からこの城に住むのだ

 そして年明け、私は成兎の儀の後に

 すぐにお前との婚姻の儀を執り行う」


「えっ!? 」


「もうお前はこの城の住人だ

 ただ…婚姻の儀が終わるまでは

 自由にはさせてやれない」


「…あのっ!」


「くれぐれも兄達には会わぬように…

 お前を奪われたくはないからな」


 腰を抱く王子の手に力がこもる



「この部屋で静かに過ごすのだ…

 必要な物は全て揃えてあるから

 安心して、楽に過ごすがいい」





 絶望…






 目の前が真っ暗になった…



 その後の話は何も聞こえなかった



「両親は? 一緒に来たんです…」


「…もう帰らせた」


「……は、話を…」


 声が震える…



「もう両親に会いたいのか?

 一つ上と聞いていたが、まだ子供だな」


「私は…何も聞いていません」


 お父様、お母様…

 ……私は売られたの?



「…寂しいのならば呼びつければ良い

 私も常にそばには居られないからな…

 そうだ、歳の近い者をそばにつかせよう」


「っ……違いますっ! 寂しいとか…」


「あぁ、お前は怒っても美しいな」



「な、何を!」


 私の腰を抱いたままの王子が

 首元に顔を寄せて来た



「 !? …王子っ?」


 スンスンと鼻を鳴らして匂いを嗅いでいる

 これは我々うさぎの求愛行動のひとつ…



 ゾッとした…


 これから王子が何をしようとしているのか

 分かってしまった



「王子様…やめてください」


 なるべく冷静に声を発するも

 顔を上げた王子の目は

 金色の光がギラギラと揺れ

 もう止められないことを察した




 優義ユウギ

 優義ユウギ……



 助けて……





 〇.*・。┈┈┈┈┈┈┈。・*.〇





「はあっ…はあっ…」


 ギシッ ギシギシッ


 まだ仄明るい静かな部屋に

 荒い呼吸音とベッドの軋む音が響く…



 第5王子は冷酷な王子と噂されている

 他者への愛情は薄く興味も示さない

 その王子が私に興味を示した

 逃げられるはずがない…



 王子が果て眠るまで

 毎日繰り返される


 コレは兎同士の交わり…


 誰もが教科書で学ぶ知識

 その範囲から出ることも無く

 子を成す為の繁殖行動…


 我々うさぎは繁殖力は高くない

 だから子を成すまで何度も繰り返す


 王家の血筋を絶やさぬ為の行為

 喜んで受け入れるべきなのだ

 コレは必要な事なのだから…



 ただ、 なだけ…

 私が、 なだけ…



 王家へ嫁ぐことを望む者は沢山いる…

 コレも喜ぶべき事なのだ

 何度も自分に言い聞かせた…



 私がなの

 を知っているから


 私は優義ユウギを知っているから…



 気持ちよくもなんともない

 むしろ吐き気すらする行為に

 毎日耐えるしかないなんて


 ただの地獄…


 子を成せば終わる

 でも嫌だ…嫌だ…



 優義ユウギ

 どれだけ優しく抱いてくれていたのか

 愛してくれていたのかを

 こんな形で知ることになるなんて…



 助けて……優義ユウギ





 °・.*·〇·………………………………·〇·*.・°





【地球:優義ユウギのアパート屋上】


 愛実アミが帰って ひと月が経つ

 いなくなってから

 愛実アミを想って作った曲を

 SNSで流すと思いがけずバズった


 仕事は順調


 もっといい場所に引っ越そうかとも考えた

 だけど愛実アミが好きなこの景色を

 俺も見ていたかった…



「月が…綺麗だな…

 愛実アミ、お前はそこで何してる?」


 まだ明るい空に浮かぶ月に問いかける



 俺のこと見てるか?

 …忘れてないか?


 見てるなら帰って来いよ…

 お前がいないと何もかもが色を無くす



「……はぁっ…」


 気づくとため息ばかりついてる…



 一度も帰って来ると言わなかった…

 一度も「またね」と言ってくれなかった


 たぶん、もう会えない…


 そんな絶望感に飲み込まれまいと

 毎日ここに来て愛実アミを想う



「…はぁっ……」



 ドンッ



「ぅわぁああ!!!」


 パラペットがあるとはいえ

 屋上の淵で後ろからの衝撃にはビビる


 久しぶりにデカい声出したな…



「って誰だよ!」


 …と振り返る





「えっ…おまっ…」


 目の前にいたのは

 ひと月前に月に帰ったはずの



 俺の愛実アミ



「ただいま優義ユウギ、戻って来ちゃいました♪」


 少し首を傾げて、口角を上げて笑う

 その瞳には涙をいっぱいに溜めて



 俺の愛実アミ



 気づいたら手を伸ばし口付けていた


 理由なんかない

 身体が勝手に動いていた



「っ…んんっ…♡」


 待ちきれず舌で唇を割り

 温かい愛実アミの中を味わう



 愛実アミの身体から力が抜けるのを感じ

 まだ未練が残る唇をゆっくりと離す



 顔をまじまじと見て

 丸い目を覗き込む



 愛実アミだ…



愛実アミ…」


「ゅぅ…んっ…」


 再び唇を重ねた




 〇.*・。┈┈┈┈┈┈┈。・*.〇




 屋上で何度もキスをして

 止まらなくなったから

 急いで愛実アミの手を引いて部屋に戻った



 帰って来た理由も聞かず

 ただ再会を喜んで

 ひと月前と変わらずお互いを求め合った




「んっ…優義ユウギぃ」


 俺は愛実アミを確かめるように

 手の平で、指で、唇で、舌で

 愛実アミを隈なく愛撫なぞる…



「はっ……キツ…」


「はぁ…んっ…んんっ優義ユウギっ…」


 愛実アミの奥に触れると

 何度も快感が込み上げ

 どこかに冷静さを残していないと

 すぐに堪えきれなくなる



「っ…愛実アミ


「はぁっ…優義ユウギ

 …あんっ…あっ…もっとしてぇ」


 なのに愛実アミは甘い声で応える

 何度も俺を呼び、何度も俺を誘う…



「ぁああんっ…気持ちいいよぉっ♡」


 細い腕を首に絡ませしがみつく

 小さな躰全身で俺を受け止め応える



「んっ…イきそぅっ…優義ユウギぃっ」


「ハァッ…俺もっ…ハァッハッ愛実アミぃ」


 互いの激しい呼吸音も

 重ねた唇から漏れる声も

 躰が触れ合う音も

 絡み合う水音も

 たったひと月過ぎただけなのに

 ひどく懐かしく感じる



 愛実アミの仰け反る腰を抱え

 深く唇を重ねる



「んっ…んっ…あっ…あぁああっ♡」


「っ…くっ…はぁ…うっ!」


 愛実アミの中で長く脈打ち果てる



「はぁ…… はぁ〜♡」


 大きく息をついて

 腕の中で目を瞑る愛実アミ


 

 ひと月前、どうしてこの手を離したのか

 ずっと後悔していた…


 愛実アミのすべてが愛おしくて仕方がない

 愛実アミといると自分の中の感情に

 度々驚かされる




 お前の代わりなんていない


「もう二度と離さない…」


 そう呟きながら愛実アミの丸い額に口付け

 そのまま眠りに落ちた






 〇.*・。┈┈┈┈┈┈┈。・*.〇



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