絶対忘れちゃいけないやつ その1
昼食を食べ終えた青仁の横で、当然のように異常な量の昼食を食べ続けながら、梅吉は共に頭を悩ませていた。
「やっぱ今の俺ら、外見だけは最高に美少女な訳じゃん?流石に二人だけだとナンパされまくって地獄みたいになるだろ」
「ふぁふふぁれをはふぉふんふぁよ」
「口に物を詰めたまま喋るな」
「……お前はそう言うけどさ、現実問題誰を誘えば良い訳?オレらの知り合いがアテになると思うか?」
「アテにならないから困ってんだよ。でも行きたいじゃん」
「だよな。夏なのにプール行かずに終わるとかありえねえし」
とはいえこれといって深刻な話題ではなく、ただの遊びの話なのだが。まあある意味深刻な話題ではあると思う。なにせ、上記の通り解決策がまるで思いつかないのだから。
二人は毎年この時期になると、大体どちらともなく行きたいという話になり、おあつらえ向きに近場に結構大きな屋外プールがあることも相まって、基本的にそこに突撃しているのだが。残念なことに、今までと今年で決定的に違う点が存在している。
そう、去年はただのむさいDKの集いにすぎなかったそれが、今年はキラキラJKの集いになってしまったのである。
つまりは、先日謎茶番を繰り広げる羽目になった一件のような、ナンパ野郎吸引装置の爆誕してしまうのだ。何故そうも自信を持って言えるか?大体毎年今年こそは女の子達と楽しく遊ぼうとナンパを試みてチキって事故っている為である。
つまり悲しいかなソース:俺であった。
「やっぱ緑じゃね?俺が知ってる中で一番まともに女子と話せる非リアだぞ」
とはいえ実の所この話題には、既に最適解が存在しているのだが。ナンパを避けたいなら脇に男を適当に配置しておけば良いのである。そしてこの手の物が出来そう(当社比)な男と言えば、二人の周囲では緑が該当している。
まあここで即座に頼まず二人でうだうだと話しているということは、この案にも欠点があるということなのだが。
「そうだけどあいつ引くほど泳げないじゃん。プール行っても楽しくないだろ」
「だよなあ。なんであいつ、学校のプールレベルの場所で溺れられるんだ」
「今年なんかビート板掴んだまま沈んでってたぞ」
「そういえばそんなこともあったな。あれマジで意味不明だった」
流石の二人も、相手がどう考えても楽しめなさそうな所に誘う気は無いのだ。というか普通に可哀想過ぎるだろう、泳ぐどころか放っておくと沈んでいくタイプをプールに連行するのは。
「でも一応当たって砕けろ精神で聞いてみないか?」
「えー。聞くだけ無駄じゃね?まあでもそれ以外正直アテがないもんな……聞くか」
とはいえ緑以外に候補者がいないことも事実であり。多分断られるだろうなと思いつつ、二人は緑に誘いをかけたのだが。
「あー。別にいいぞ。まあこっちもちょっと条件付きだけど」
思いの外あっさりと承諾されてしまった。
「えっお前泳げないのに良いの?」
「天変地異の前触れ……?」
絶対にノータイムで拒否が飛んでくると思っていたのに、と二人して逆に真顔になる。あの緑なのだ。あらゆる運動に適性を持たず、大体いつもボロ雑巾と化し、「他は五取れるのに体育だけ万年三なんだけど」とか最悪の発言をしているあの緑である。
「おいなんだよ天変地異の前触れって。ちょっと酷くねえか。たしかに俺は泳ぐつもりないし、多分一生浮き輪に埋まったまま流れるプールに流されてるか陸にいるかだと思うけど」
「やっぱそうじゃん」
「言ったろ、条件付きって。俺にも色々あるんだよ」
流れるプールに定住する男子高校生(浮き輪にしがみついている)と木陰で荷物番をしている男子高校生(女子小学生をガン見している)の想像がつきやすすぎて嫌だが、どうやら天変地異の前触れでは無いらしい。なら一体その条件はなんなのだと問えば、緑はそれはもう緑らしい答えを語った。
二人と緑の住んでる地域は、同じ県内とはいえそれなりに離れている。今回の目的地であるプールは二人にとっては大して遠くない場所だが、緑からすれば電車を乗り継がなくては辿り着けない場所らしい。
そんな中、緑の妹が友達と一緒に件のプールに行きたいと言い出したそうなのだ。とはいえいくら複数人とはいえ、小学生だけで不慣れな電車に乗らせるのも、プールに行かせるのもはばかられたらしく、丁度暇をしていた緑に白羽の矢が立ったそうなのだが。
「俺は男だから、流石に更衣室とかにはついていけないし。あとああいうとこの目玉のスライダーとかも俺は無理だしさ。だから正直、俺以外にも付き添いで誰か欲しかったんだよ」
「なるほどな。つまりお前は妹含めロリの水着が見たかったと」
「別に妹以外の子には興味無えし、心配なのは本当だぞ?!」
「いや心配してることについては全く疑ってなかったんだけど。お前何勝手に自爆していってんの?てかそこは嘘でも良いから妹の水着は目当てじゃないって否定しとけよ」
つくづく終わっている危険人物ではあるが、妹及び妹の友達を心配する心自体は真実だろう。その辺りは二人だって疑っていない。まあ妹の水着に下心マシマシの視線を向けているとは確信しているが。
「だって妹の水着は見たいし……」
「そこで開き直っちまうからお前はダメなんだよ。もうちょっとブレーキとかかけねえわけ?」
「えっこれでも大分ブレーキかけてるつもりなんだが。あんたらだって巨乳の女の子の水着姿とか見たいんだろ?それと似たようなもんだし、ブレーキ踏んでる範囲だと思うんだけど」
なんて思っていたら、適当に青仁が投げつけた問いかけが、大分よろしくない真実を白日の元に晒してしまった。
「……」
「……この話やめようぜ、青仁」
「そ、そうだなー!」
「お、おい俺ってそんなにやばいのか?!なあ!!!!!!」
緑が喚いているが、二人揃ってなかったこととして扱う。
つくづくヤバいやつとは思っていたが、まさかブレーキが壊れており本人はむしろ全然踏んでるつもりだったとか、そんな現実直視したい訳がないだろう。見なかったことにするに決まっている。
「で、お前のその条件ってのは別にオレとしては全然構わないけどさ、それで行くとオレらがお前の妹のお着替えシーン見ることになっちゃうけど良いのか?」
実のところ、こちらの方が実害が出そう、的な意味で梅吉にとっては死活問題なので。誰だって嫌だろう、こんなしょーもないことで命を狙われるとか。
「全然死ぬほど嫌だけど、俺はあんたらの巨乳原理主義者としての性癖を信じてるからさ……あんまこういうこと言いたく無いけど、小学生レベルの発育じゃあ、あんたらまるで興味湧かないだろ?だからまあ、ギリ、マジでギリ許せるかなって」
「何も間違ってはいないんだけど、それでもギリってのがめちゃくちゃ怖いんだけど」
「緑さあ……」
思いの外真っ当な思考に、二人は頷きながらも苦い顔を浮かべた。別に梅吉と青仁は緑のような性癖異常者では無いので、小学生のメリハリに乏しい体なんてどうでも良いのである。それこそ普通に「子供だなあ」としか思わない。というか第一、どうこうするだけの棒が失われて久しいのに、どうしろと言うんだという話でもある訳で。
……それでもギリギリな緑のヤバさにもツッコミを入れたい所だが、ひとまず置いておくとして。
「でもさ、正直そこは嘘でも人間性って言って欲しかった」
真っ先に信頼されるのが人間性ではなく性癖というのは、人間として如何なものではないか。そう問いかけたのだが。
「だってそれは……ちょっと胸に手を当てて考えてみろよ」
「おっぱいがでっかい。最高。いつでも揉める揉み揉みfreeおっぱい」
「でもこのおっぱいが自分にくっついてるのは普通に邪魔かも」
「バカしかいねえや」
無事、青仁共々梅吉の人間性に信頼がないことが判定してしまった。とはいえ都合の悪いことからは積極的に目を逸らしていく人生を送っている為、今回もそうさせていただいたのだが。なんだか緑からの視線が痛い気がする。
「つーか、あんたら普通にプール行くんだな。そういう方向性の躊躇は無いの、個人的に意外なんだけど」
「躊躇?なんの話だ?」
「なんかあったっけ」
躊躇。一体なんのことだろう。まるで心当たりがないのだが、と首をひねっていると。
緑が不思議そうに、問いかける。
「いや、プールってことは水着じゃん。流石に学校の水着着て行ったら目立つし、ちゃんとしたの買うんだろ?俺だったらそういうの、大分抵抗あるなって……もしかしなくてもあんたら、なんも考えてなかったな?」
「あっ」
「あっ」
青仁と顔を見合わせ、間抜けな声を挙げた。
確かにそうだ。完全に忘れていたが、流石の梅吉もスクール水着で学外の遊び百パーセントのプールに突撃する度胸は無い。そしてこれは、青仁も大体同じようなことを考えていると思われる。
つまり、互いの水着姿(notスクール水着)が拝めるということだ、と。
「……」
「……」
何故こんな重要事項が頭からすっかり抜け落ちてしまっていたのだろう。ナンパ対策とか退屈な方向性に頭が回っておいて、よりにもよってそんなことを忘れてしまうなんて、もしや自らの脳は劣化しつつあるのだろうか。
とはいえ気がつけたのだから構わないだろう。たった今、自分の頭を疑うよりも優先すべき事項が発生したのだから。
すなわち、如何にして自分に被害が及ばない形で相手に自分好みの水着を着せるか、である───!
「あの。あんたら、急に黙り込んでどうしたんだ?」
揃ってスマホを取り出し、猛烈な勢いでスマホを操作する元男子高校生現女子高生コンビに、緑のあきれた視線が突き刺さった。
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