○○○会議

「手応えはどんな感じだった?」

「いつも通りできたよ。多分、赤点を超えてると思うよ」

「その言葉が聞けて安心したわ。数日前の旭だったら完璧とか理解とか言って、私たちを混乱させていたものね」

「うっ、ごめん」


数学のテストは100分と長丁場だったので、凄い疲れた。ぶっちゃけもう帰って寝たい。


「まだ一科目目よ?命の削り合いはまだ続くんだから、しっかり気合を入れ直しなさい」

「は、はい。ありがとうございます。シェーラ先輩」


真面目モードのシェーラ先輩は本当に頼りになる。


「試験官として≪冥府の日輪ラストサン≫様を見てた感じは全く問題はなかったよ?」

「佳純先生にそういってもらえると安心できます」


今までのテストと違って、しっかり手を出せる所に手を出せたというような感覚だった。もちろんできたと感じるところは少なかったけど、それでもかき集めたら赤点は回避できたと思えるようなデキだったと思う。


ただ、


「なんで君らがここにいるの?」


昼休憩で≪堕ちた雌豚ルシファー≫が僕に関わってくるし、そのたびに陽キャ達が僕に舌打ちしてくるから居心地が悪いったらありゃしない。食事時に『聖剣』を抜くぞなんていう脅しはしたくないし、クラスの皆に忖度して僕は便所飯にしていた。


それなのに、なぜ三人は僕と平然と話をしているのだろう。前例があったので、テスト期間だったら使われなさそうな体育館のトイレに移動した。しかも、周りに付けている≪境界を超える者クロスオーバー≫がいないか確認した。


それなのになぜ?


「ふん、あっくんごときの行動パターンなんてイノシシよりも簡単に捕捉できるわよ」

「その頭脳をもっと社会のために使ってください」


例のごとく、変態は僕の思考を読んだらしい。三人ともここに来るとかどうなってるのだろうか。


「まさか、≪暖炉の聖女ヘスティア≫にベストポジションを取られているとは思わなかったわ」

「ふん、いつまでも冥府の花嫁ペルセポネにいいようにされてたまるかっての」


僕の丁度後ろの個室は佳純先生がいるらしい。その隣に詩。で、問題児シェーラ先輩はというと、


「なんで男子トイレにいるんですか?」


男子トイレにいた。


「男子トイレには個室が三つしかないでしょ?それなら真ん中を取ってしまえば、あっくんがどっちに来ようともお話ができるのよ」

「仮にですけど、僕が来なかったらどうするつもりだったんですか?」

「それを考えてドキドキしてたわ」

「そっすか」


変態の思考は理解できない。とりあえず、ペーパーの芯の部分に盗聴器が隠されていたので、スイッチオフにしておく。


バン!


「「「「!」」」」


男子トイレが無造作に開かれた。誰かが来たようなので流石に≪境界を超える者クロスオーバー≫も黙った。


「くそったれ!山井のくせに調子に乗りやがって!」


(おっとこの声はうちのクラスの平野君のようだ。複数足音がしたからこの感じだとクラスのみんなで来てるのかな。わざわざ遠いところまでご苦労なこった)


「だ、だけどよ。もし『聖剣』を抜かれでもしたら、大変な目に遭うぜ?俺なんてママにおねしょしたと思われたんだから…」


(川村君はお母さんのことをママと呼んでいるのか…)


どうでもいいことを知ってしまった瞬間だった。


「どうかしたか?」

「…いや、なんでもない。でも、実際山井のせいで俺たちは酷い目にあったよな。なんとかやり返してやろうぜ」

「そうだな…」


藤見君が川村君のママ呼びを流した。そして、僕への逆恨み計画を実行するようだ。とりあえず僕の文房具を教室のゴミ箱に捨ててやろうとしているらしい。確かにそうなったら困る。だけど、


(本人がここにいるなんて夢にも思っていないんだろうなぁ)


シェーラ先輩が僕に仕掛けていた盗聴器を再起動して計画の行方を録音する。こんな形で役立つとは夢にも思わなかったよ。


変態たちに感謝…はしない。どっちも犯罪だし。


「とりあえず教室に戻ろうぜ」

「おう!これであかねの目も覚めるだろ」

「だな、俺のおかげでな」

「ああ、俺のおかげでな」


三人が出て行ったのが聞こえた。三人ともなんて薄い友情なのだろうと思った。それにそんなことをすれば≪堕ちた雌豚ルシファー≫からの評価はどん底に落ちるだろう。


「こんなことしてる場合じゃない!」


とりあえず、僕はダッシュで教室に戻って、筆箱を保護しないといけない。


「待ちなさい」


いつの間にか個室から出ていたシェーラ先輩が僕が出てくるのを待っていたらしい。


「シェーラ先輩も聞いてましたよね?筆箱を隠されると、僕が困るんですが」

「そんなものは私が貸すから大丈夫よ。それより一緒に男子トイレから手を繋いで出ない?≪冥府の日輪我が君≫と連れションをするのが夢だったのです」

「その夢は一生叶わないので、諦めてください。って!本気でこんなことをしてる場合じゃない!」


僕がシェーラ先輩の願望エゴを無視して男子トイレを出ると、意味深に壁に背中を預けて腕を組んでいる詩がいた。


「≪冥府の日輪ラストサン≫様の筆箱なら大丈夫よ。チリが教室に着く前に≪暖炉の聖女ヘスティア≫が教室に着くのが早いもの」

「あっ、そうか」

「ええ、この馬鹿」

「え、酷くない?」


流石佳純先生だ。あいつらも先生のいる前で愚行は行わないだろう。ただ詩の様子がおかしい。ここまで脈絡のない罵倒は初めてだ。


「≪暖炉の聖女ヘスティア≫には出し抜かれた上に、教師の立場を使って≪冥府の日輪ラストサン≫様からの評価を一番に得るのも納得できないわ。≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫には夢だった連れション童貞を奪われたし、私って≪冥府の日輪ラストサン≫様にとって一体なんなのよ」


珍しい。今までは詩がほとんど一番だったのに、今回は≪暖炉の聖女ヘスティア≫と≪知恵の鉄女ミネルヴァ≫に良いところ取りされて、怒っているようだった。


「ふふ、≪冥府の花嫁ペルセポネ≫様もNTRされる気分を味わうのがよろしいかと」

「うるさい変態」


ここぞとばかりにシェーラ先輩が詩を攻め立てた。そういえば詩が誰かに敗北感を味わっている姿を見るのは初かもしれない。


なんというか、こう、ぐっとくるものがある。


「≪冥府の日輪ラストサン≫様が欲情してくれるなら一生敗北者でいます!」

「台無しだよ」


心を読まれたんだけど、そういうのを求めていないということを詩には気づいて欲しい。すると、シェーラ先輩が僕の肩をポンポンしてきた。


「肉〇〇が欲しいんですよね?」

「帰れ」


休み時間なのに精神的に超疲れた。

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