第20話 初めましてのオフ会
店内に入るとその一団はすぐに見つかった。ファミレスのテーブル席を三つか四つに渡る団体だったということもあり、元々が分かりやすかった事もあるが、彼ら彼女らが思い思い身に付けた缶バッジやキーホルダーが否応にも彼らを目立たせていた。
恐らく神無利かざりのグッズなのだろう。テーブルに人形を乗せていた場所もある。黄色い物を持ち寄った集団はそれを見せ合い、談笑に花を咲かせている最中だった。
男女比は、八対二といった所だろうか。やはり男性の数が多いらしく、女性は何人かずつで固まり各テーブルで均等になる様に振り分けられている。年齢層は幅広く、学生と思えるような若い層から俺とさほど変わらずか、それ以上に見える人もいる。
何も知らずに彼らを見ると、何の集まりかと首を傾げたくなる事うけ合いだった。
座席にはカラフルな色合いの紙袋が多く置かれている。どこかのショップでグッズ巡りをしてきた後だったのかもしれない。スマホを取り出し、オフ会を募集していた時のスケジュールを確認してみると案の定その通りだったとわかる。
連絡を取り合った相手のハンドルネームを今一度確認し、集団へと近付いていく。一つのテーブル席に目星をつけ、尋ねた。
「すみません。この中に『焼きとりんぼ』さんという方はいらっしゃいますかね。取材を受けて貰えるという約束なんですが」
名刺を渡しながら聞き出そうとすると、ざわざわとして各テーブルが騒ぎ始める。妙な反応を見せた事にすこし戸惑っていると、向かいのテーブル席から手が伸びる。
「ああ、記者さんですね。こっちです」
歳のほどは二十そこそこ。今風の若者といった茶髪の男が手を招いて受け入れた。同席する面々の反応を窺うに、取材の話は彼の独断による物だろうなと察しがつく。
突如として現われた記者は快く思われず。驚き、戸惑い、反感を買いそうにもなる。
「なんで、いい機会じゃんか。かざりんがおっちょこちょいな事はみんなも知ってた話だろ。今回も配信で上手く話せなかっただけだって。記事で取り上げてもらってさ、悪い印象を消していかないとダメじゃん。守っていかないと。俺らで力になろうよ」
焼きとりんぼの必死な説得が効を為したのか、周りの面々も渋々ではあったが徐々に取材を受け入れる姿勢へ変わっていく。各テーブルにお願いして回っていた土村に手で合図し、謝意を示しながら席へとつく。
自然と対面の席になった焼きとりんぼが指折り数えながら言う。
「ええっと、写真はなしの方向で。名前もダメっすよ。ティアラーのメンバーの名前だったら使ってもらってもいいですけどね」
用意してきたカメラをテーブルに置いて、条件を呑む意志をみせる。撮影チャンスを逃さないようにする為の保険でもあった。そうっと手を離し顔を向けると、それぞれが順にハンドルネームを名乗っていくので顔の特徴と共にメモを取り始める。
どれもが変わった名前のハンドルネームばかりだったが、彼ら彼女らはお互いの名を間違えることもなく器用に使いこなす。SNS上だけではなく現実の世界でも繋がりがあったのか。それともこのオフ会自体、初めてではないのかという印象を受けた。
「それでは、話を聞かせて貰えますかね。この会はどういった集まりなんでしょう」
「俺らはティアラーなんすよ。かざりん。ああ、神無利かざりを応援する為にSNSで募集かけて募った、彼女のファンっすね」
基本的には、焼きとりんぼが答える形になっていた。言い漏らしや補足できない事があった場合は周りから声が飛んでくる。当たり障りのない質問を一通り済ませた後にいよいよ本丸、本題に入る。
「人を殺してしまったという神無利かざりの事故配信は見ていましたか?」
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