追いかけてこないモモンガ 3
泥まみれのエイミーと別れて、ライオネルは教室へは戻らずに医務室へと足を向けていた。
「おや殿下、授業はどうなさいました? さぼりですか?」
医薬棚の整理をしていたウォルターが揶揄ってくるがライオネルはそれを無視して黙って彼に近づく。
「調べてほしいことがある」
声を落として告げると、ウォルターの顔から笑みが消えた。
「……何かありましたか?」
「あるのかもしれないし、気のせいかもしれない。今はまだ、何の情報もないんだが……」
ライオネルは短く、先ほどの中庭でのエイミーの様子を告げた。
ウォルターは顎に手を当てて考え込む。
「中庭で泥、ですか……。確かに妙ですね」
「ああ。それに……関係があるのかどうかはわからないが、以前、エイミーの足元に割れた植木鉢が転がっていたのを見たことがある。あの時は気に留めなかったが、思い返してみればあれも妙だった。何故中庭の、エイミーの足元で植木鉢が割れていたんだ? あの時あいつは専門棟へ向かう途中だった。植木鉢なんて持ち歩くはずがない」
「そうですね……」
「あいつの近辺に変わったことはないか?」
「私の耳には入っていませんが……、教師が駆けつけてきたのなら、何か知っているでしょうね。探ってみましょう」
「頼む。俺が動くと、必要以上に大袈裟になるだろうからな」
「ええ、殿下はしばらくおとなしくしておいてください。情報を集め次第報告します」
ウォルターが請け負ってくれると、ライオネルはホッと胸をなでおろして医務室から出ていこうとして、扉のところで振り返った。
「なあ」
「はい?」
「……なんでもない」
何かを言いかけて、ライオネルは首を横に振ると今度こそ部屋を出ていく。
そして、自分の教室へ向かう途中、ふと足を止めて、窓から中庭を見下ろした。
中庭では、教師たち泥を片付けている。
(……エイミーが、追いかけて来なくなったなんて……そんなことをウォルターに言ったところで仕方がないだろうに)
今日はよく晴れているというのに、ずきりと、ライオネルの頭の芯が鈍い痛みを訴えた。
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