第17話 穏やかな日々

 聡の足が治るまで滞在するはずだった柘枝村だったが、亮も聡もいつの間にか伴侶にしたい女性を見つけて、自然とその家で暮らすようになり、元の世界へ帰ることが難しくなってしまった。

 安寧やすしは、相変わらずスクナの屋敷で、スクナの弾く琵琶の音色に聞きほれながら、現代の出来事や自分の見解などを語っていた。


「あなたは、最初から亮や聡が、こうなることを狙っていたのですか?

スクナ様。

だから、部外者の私たちにあんなにこの村の秘密を教えてくださった」

安寧がスクナに向かって恨めし気に言う。

「落とし子の親子に年頃の健康で気立ての良いおのこ。

そなたらの世界では、『カモがネギをしょって来た』と申すのであろう?」

スクナがしわがれた声でしれっと言うと

ふふふ。と安寧が笑って、

「そういえば、ここへ来た時からずっと『落とし子』という言葉を使っておられますが、それは、どういう意味ですか?」

「ほほう。そなたは、みずからの事を知らなんだか。

スメラミコトのお子達が相争あいあらそうて深い山中へ落ち延びられたり、または、罪咎つみとがを着せられて流されたりした所で生まれた皇子みこの子孫のことよの」

「なんと」

躑躅つつじはの、が双子の弟ゆえ落とし子がわかるのじゃ。

我らは、おっかさまが、権力争いの犠牲になってむごいめにあわれて生まれた忌子いみごゆえ、躑躅は、自ら腐ってしもうた。

そなたら親子には、誠に申し訳ない思いをさせた。

ゆえに、ここにおってこののち穏やかに過ごされよ」

「それは、元の世界へ帰ればまた、躑躅に狙われるということでしょうか?」

「やも、知れんて」

はっとため息をつき

「おっかさまにもお分かりになれんことでの」

と辛そうに言った。

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