第13話 柘枝村 Ⅱ

 予想と反して出版社からは、すぐに回答が得られた。

なんでも1週間ほど前に柘枝村つみのえむらの住民と思われる記述がある話について、

『自分も同じような経験をしているが、それはM県とY県の県境では、無いのか?』という問い合わせがあり、他にも面白いネタを持っているような口ぶりだったので、なにかで使えるかと作者に問い合わせた。

ということだった。

 では、新しい情報を手に入れられたのか尋ねると、確認して連絡しようとしたが、繋がらなかった。

あなたがたは、何か情報を持っているのか?

と逆に尋ねられたので、今は何もないが、何か知ったらお礼に教えると伝えた。

他にも柘枝村について調べている人がいて、同じようにこの本にたどりついたのかと少し驚いたが、それ以上詮索は、しなかった。


 そこからキャンプ道具を購入し、1週間くらいは、山で生活できるくらいの装備を整え、三人の長期休みを利用して、M県とY県の県境あたりに行くことにした。

幸い亮と聡は、本当の兄弟のように仲が良かったので、本来の目的を忘れそうにそうになりながら、親子3人で山中でのテント暮らしを楽しんだ。

4回目か5回目の探索の時、深い渓谷に架かる古いつり橋を見つけて走った聡が、足を滑らせて怪我をしてしまった。

亮と二人で助けたが、どうやって戻ろうか。

と困惑しているとき、

「聡ちゃん?」

と若い女性が声をかけてきた。

「えっ。曜子ちゃん?」

「どうしてこんなところに?」

どうしての発言は、二人同時だった。


 聡が曜子ちゃんと呼んだのは、都築が聡を小学校へ入学させるからと、柘枝村を出て御剣みつるぎ家を訪ね、そのまま聡を預けていなくなったので、その後聡を育ててくれた家の娘だった。

安寧が、聡の実の父であることを告げ、曜子に礼を言う。

そして、聡が幼いころを過ごした拓枝村を探していることも、正直に伝えた。

話しを聞き終わると曜子は、

「私達家族は、今その村で生活しています。この近くですから詳しいお話しは、村で伺いますね」

曜子の道案内で亮が聡に肩を貸し村へ向かうことになった。

「荷物は、後で村の者に取りに来させますから」

という曜子の言葉に甘えることにした。


「えっ?おかあさん?」

瑠奈と杜若とじゃくが顔を見合わせる。

「そうだ。曜子さんも環と瑠奈の実の母親の珠緒さんも柘枝村の出身なんだ」




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