第8話 邂逅

(君は……あの時の!)

「なんで、君が……!?」

 混乱しているロキが絞り出した言葉。

「なんで……ですって?それは、貴方をココで見つけたからよ!」

 痛みに耐えながら、彼女はロキを睨み付けた。


「クッ……!昨日、貴方があの場所に現れなければ、私はもう少し──」

 彼女はそこで口を閉じて、一呼吸置いてから。

「殺せ!」

「いきなり、なにを……!?」

「貴方に見付かり目撃者の排除に失敗、逆に手傷を負わされた……私は貴方に負けたって事だ!私は拷問や辱しめを受けるぐらいなら、死んだ方がましだ!」

「……!!」

 彼女は睨み付けながら語った、そんな彼女の姿を見ていたロキはあることに気がつく。


「でも、君は震えてるよ?本当は、死にたくないんじゃないの?」

「……!?」

 ロキは、そんな彼女に優しく問いかけた。

「死ぬのが……死ぬのが、怖くて悪いの……」

 目をそらし、震えながらの小さなその呟きは、ロキの耳にしっかりと届いた。


「私だって……私だって……死にたくないわよ……でも……どっちになろうと地獄じゃない!!待ってるのは地獄しかないじゃない!!」

 最初は小さな声だったが、堰を切ったように涙を流してロキを見て、彼女は嗚咽混じりの涙声なみだごえで叫んだ!


「私の友達の一人は、一昨日アナタ達に殺された!私もその子も他の子だって家族を人質に取られ、戦いたくないのに……死にたくないのに戦場へと駆り出される私達の気持ちが貴方にわかる!……戦えなくなったら、慰みものされるかもしれない恐怖が貴方にわかるっていうの!」

「……!?」

 最後は泣きながらの訴えであり、それは彼女の抱える恐怖やみなのである。……そんな彼女にかける言葉が分からず視線を反らして口をつぐむしか出来なかった。


(この子もこの戦争のせいで大切な友人を殺されたのか!そして、自分の身に降り掛かるかもしれない怖れ……この子だけでも助けたい!そしてこんな腐った国を滅ぼしたい!)

「俺は、君を殺したくない!」

「拷問や辱しめを受けて、アナタ達の慰みモノに成れってこと!」

「違う!俺は……俺は君と──!」

(俺は、彼女とどうしたいんだ?)

 最後の言葉は、出てこなかった。


「何?貴方の性奴隷に成り果てろってことなの!」

「違う、そんなんじゃない!」

「だったら何よ!」

「……!?わからない……」

 彼女の言葉に息が詰まる気持ちで、その言葉を絞り出した。

「わからない?……わからないってなによ!……ッ痛!」

「!?」

 激昂して一歩前に足を出した瞬間、痛みが戻ったかのように彼女がその場にうずくまる。


「ごめん、俺がケガをさせてしまったから……」

「近寄らないで!?」

 近付いてこようとするロキを彼女は拒絶の言葉を吐いて睨み付ける。


「安心して、ただ手当てするだけだから……」

 ロキはそう言いながら、手に持つ銃を地面に置き、手を上げて彼女に近寄って応急処置を行った。


「礼は……言わないわよ……」

「俺がケガをさせてしまったんだから、お礼は必要ないよ……」

 それを最後にロキは黙々と彼女を手当てした。


「……」

「……」

 手当ての最中、お互いに目を合わせず無言が続くなか、彼女はロキの事を見ていた。

(私は敵なのよ、それなのに……なんでこの人は……?)

 そんなことを彼女は思うのだった。


               続く

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