カタリ・カタリ

サネユキ

第1話 オカルト研究同好会


七回目の告白による悪魔の降臨、廃ホテルに棲まう女の亡霊、禍島の社に隠された秘密の扉…。

 「オカルトの聖地」ことI県禍島(カシマ)市。この街のすべての謎を解くこと、それこそが、我が禍島高校オカルト研究同好会の重大な責務である!


「あちぃ…」

「はぁ、まだ5月なのに暑すぎですよ…」

「あぁ…たしかに暑い。そう言えば聞こうと思ってたんだけど、」


5月とは思えないほどの日照り。本来であれば放課後部活をする時間、わたしたち3人は中庭にうずくまっていた。


「なんで俺らは草刈りなんかやってんだ?」

そう聞いたのは2年の竹内先輩だ。竹内先輩は頭が良くて、所謂優等生として有名な先輩だ。また、整った顔立ちでイケメンだ。しかし女子はあまり近寄らない。なぜなら…


「何を言っている!竹内会員!オカルト研究同好会の活動であると説明しただろう!」

「説明なんて…されてねえよ!!お前がいきなり中庭に呼んだんだろうが、イサム!人のこといきなり呼び出してなんの説明もなく3時間も草刈りさせてんだぞ!?」

 竹内先輩の幼なじみで、同じく2年。そしてこのオカルト研究同好会の会長・松田勇先輩。大のオカルト好きで、学校では変人扱いされている。声が大きく主張が激しい。何考えてるかはよくわからないけど、悪い人じゃない…はず。男性だけど髪はボブで頭にはちまきみたいなヘアバンドをいつも巻いている。

「梅谷さんも中庭に呼ばれただけだよね?」

「あっはい。わたしも…そうですね。」

 竹内先輩の言う通り、わたしも中庭に集合としか伝えられていない。もう分かってるとは思うけど、わたしはそんなオカルト研究同好会に所属している1年生・梅谷由以。ちょっと変わった部活だけど、なんやかんや言いながらもこの場所は嫌いじゃない。

「梅谷会員にも伝えたはずなんだが…。仕方ない、もう一度伝えようじゃないか。この草刈りの真意を!」

「イサム、そういうのいいから。」



 このオカルト研究同好会は昨年までは天文気象部として活動していたらしいけど、当時1年生だった松田先輩が半ば強引にオカルト研究同好会へと変えてしまったらしく、色々あって顧問はいない。本来であれば、部として扱われるものが同好会になったのはそのせいらしい。


 「これは学校から与えられた、いや、オカルトが私達に与えた試練だ!この禍島の謎を解明することこそが私達の重大な責務、社会貢献の一環である、とどれだけ論じようとあのマルハゲの御老体には響かないというのだぞ!?謎を解明するためには時間と活動費が必要だ。オカルト研究同好会の活動時間が短すぎる!『同好会は週に一度の活動まで』などといったふざけた規則のせいで、私達の研究は一向に進まない!この同好会の活動を『部活動』として承認される他、私達に道はない!!」

 とても話が長いのは松田先輩の特徴の一つだ。

「でも、それって草刈りと関係あります…?」

少し顔を伺うと、待ってましたと言わんばかりに松田先輩は口角を上げた。

「…部活動に昇格するために必要なことがなにかわかるか?」

「えっ、たしか部員が5名以上であることと、あと…実績?」

「そのとおりだ梅谷会員!しかし、実はもう一つ条件がある。私達に足りないのは①部員と②実績。そして、③学校への貢献だ!言ってみれば大会での結果などはすべて学校のネームバリューに直結する。故に、玉遊びをしているだけの活動を『部活動』と呼ぶことができてしまうのだよ。」松田先輩はグラウンドのサッカー部をわざとらしく見た。

「だから、草刈り…ってわけか。イサムらしいけど…。でも、1日やったくらいじゃ効果はないんじゃ…まさか」

「そんなことは重々承知である!だからこれから毎週、部活の無い日は草刈りに従事する!!」

 そう言うと松田先輩は来週からの予定表を見せた。活動のある水曜日と日曜日以外に「草刈り」の3文字が書かれている。竹内先輩が露骨に嫌な顔をしたのが見えたので、わたしは思わず笑ってしまった。


 数十分が経過した。暗くなった校舎に松田先輩の叫び声が反射した。

「な、何だようるせえ!!イサム、声がでけえんだよ!」

「そ、そうですよ!心臓飛び出るかと思いました…!」

 松田先輩は、こちらの声なんか聞こえてないように視えた。

「これは一体…!」

わたしと竹内先輩が近寄ると、何かを拾っているのが視えた。

目を凝らす。あれは…箱?

 松田先輩が持っていたのは小さな立方体だった。

「なんだ、ただのおもちゃじゃないか。」

竹内先輩が呆れていると松田先輩が口を開いた。

「…これ、何で出来てるんだ?プラスチックじゃない。こんな石、見たことがない。」

わたしはちょっとドキッとした。岩石にとても詳しい先輩が見たことない石なんて想像もつかなかったからだ。

「なんか、光ってね?」

竹内先輩が指さした。

 たしかに、立方体のなかからかすかな光が漏れ出しているように見える。それは、わたしだけの錯覚だと思っていたけど、どうやら3人がそれを事実として把握しているようだった。

「もしや、宇宙のオーパーツではないか…?」

松田先輩が怪訝な目で立方体を眺めている。

「これに最も近い石を見たことがある。そう、それは隕石だ。しかしなにかが違う。こんな物どうやって作ったんだ?」

考察している松田先輩の顔を覗き込む。その顔には今までにないほどに輝いた好奇の目が有った。

「とりあえず、部室に持っていくことにする。明日、我が研究室で調査しようではないか!」


 今日あった不思議な出来事を思い出しながらわたしは眠りについた。これが何かの始まりであるということを、わたしはどこかで分かってしまっていたのかもしれない。



 朝、学校につくと見るからに怪しい松田先輩の姿があった。UFOの被り物をしながら、ティッシュを配っていた。

「な、何してるんですか?」

そう聞くと松田先輩はこちらに気づいた。

「おぉ!梅谷会員!よく来てくれた!君も手伝ってくれ!」

「いや、その一体何を…」

「何をって決まってるじゃないか!部活動にするための条件①部員集めを行っているところだよ。」

「まさか、ティッシュ配りで勧誘…?」

「もちろん!さぁ手伝ってくれ!」

そんな予備校みたいな勧誘の仕方しても…と思ったが甘んじて受け入れた。

すると、利発そうなショートの女子が、通りかかった。わたしはその女子を知ってることに気づいた。やめた方がいいと声をかけるよりも早く、松田先輩はティッシュを差し出し「オカルト研究同好会は、君を待っているぞ!」といつもの調子で話しかけてしまった。するとその女子は松田先輩の顔を睨みつけ、

「オカルトなんて、下らないことを公衆の場で騒ぎ立てるのはやめてください。迷惑です。」

と面と向かって言ってきたのだ。

「んな…」

 松田先輩は硬直していた。私にとっては自業自得としか思えないけれど。

 先程の女子は遊馬宙(ゆうまそら)という一年生。オカルト嫌いなことで知られている。まァそれしか知らないけれど。

 「部員は…諦めましょうか。」

そう言うと、松田先輩は静かに頷いた。


 さて、放課後になり旧天文気象部が活動していた第4地学室についた。と言っても名ばかりの物置である。旧校舎の隅っこに位置する四畳半程度の部屋がオカルト研究同好会の砦だ。

 「さて、諸君らはこの石の正体がわかったかな?」

「わかんねえよ。ただの風化した玩具だろ。」

竹内先輩がそっぽを向くと松田先輩は勝ち誇った笑顔を見せた。

「残念。正解は未知の隕石だ!!」

「はぁ?そんなわけ…」

「昨日家で調べた。やはり、この石の立方体は人工物ではない。」

「いやいや…」口を挟もうとしても先輩は話すのを止めない。

「こんな石、この世界には存在しない。どの組成とも一致しない。全くわからない、未知の石だ!」


 先輩が石を高く持ち上げると、突然あたりが薄暗くなった。それは、先程と何が変わったのかは言葉にできないが、明らかに違うと言える違和感。

「な、何だあれ?」竹内先輩が動揺している。


先輩の指差す方向を目でなぞる。


 窓の向こうから巨大なひとがたの化け物がこちらを見ていた。


 



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