女子(中身おっさん)バイカー北海道へ行く

@omakafe29

第1話 おっさん転生する

日曜日は死ぬほど大嫌いだ。


サンちゃんが多すぎて道が混むからだ。

サンちゃんとはサンデードライバー…つまり休日にしか運転しない人を指す。


俺は鈴木光太郎(45歳)

仕事に忙殺されたせいで今だに独身でバイクが恋人という痛いおっさんだ。

週一回のラーメンバイクツーリングが唯一の癒しであり楽しみである。


今日も行きつけのラーメン屋を目指して愛車ハーレーソフテイルファットボーイで

公道を爆走中!もちろん制限速度は守り安全第一で運転中だ。


「しかし、暑いな。春も終わりに近いからかな。」


ヘルメットのバイザーを上げて空を見上げる。

梅雨入り前の5月の終わりの中、暑い日差しが照り付ける。


交通事故というのは自分が気を付けていても巻き込まれる時がある。

それは公道に出る限り常に付きまとう物なのだが、まさか自分が当事者になるとは。


何時もの道で油断したのもあるのだろう、赤信号で停車した時にスマホを確認していると大きいブレーキ音と同時に背後から強い衝撃が走る。


『ドンッ!』


一瞬の事で分からなかったがどうやら何かに追突され宙へ飛んでいるらしい

幼少の頃からの今までの人生が走馬灯の様に思い出されてゆく。

薄っすらと見えたプ〇ウス。やはりお前か!と思ったのも束の間、着地した瞬間に

視界が途切れる。


「…。」


一面暗闇で死んだのか気絶しているのか全く分からない。

それよりバイクは無事だろうか?まだローンも残っているし何より今年の夏は絶対に

北海道ツーリングへ行くのだと決めている。


1年前から会社と交渉して8月のお盆休みを勝ち取ったのだ、こんな所で躓く訳には行かない、なんとしても北海道へ行くんだ。


任意保険には加入しているし停車からの追突だ、割合は10対0になる筈

それでバイクを直せば今年の夏の北海道には間に合う…。


「…。」


色々と考えていたらいつのまにか目が覚めていた。

見慣れない天井が目に入る、周囲の様子を伺うとどうやら個室の様だ。

腕には点滴が繋がれてる、匂いもどことなく薬品の様な香りがする。


(ここは病院か。)


とりあえず意識が戻った事を医者に伝えなくてはと重い腕を持ち上げ

頭の横にあるナースコールのボタンらしきものを押す。


(体が凄く重いな、筋力が落ちているのか。)


体の調子が普段と違う事に戸惑いつつ動かない部分が無いか確認を行う。

とりあえず全身は動くみたいだ、脊椎の損傷は免れたらしい。

しばらくすると若い女の看護師と年配の男の医者が個室に入ってきた。


「気分はどうですか?」


「…っ。」


医者に問われ答えようとするが喉が渇いてかすれた声しか出ない。


「君、すぐにご家族に連絡して。」


医者が側に居た看護師にそう指示すると急いで部屋を出て行く

医者はそのまま触診を始め俺の体に異常が無いか確認する。


「先生、ご家族には連絡しました。直ぐに来られるそうです。」


看護師が戻り先生も触診を止め少し安堵した表情で


「うむ、体に異常は無い少し水を飲むかね?」


看護師がコップに水を注ぎ口に持って来てくれる。

久しぶりの水なのか物凄く美味しく感じ一気に飲み干す。

落ち着いた所へ医者が問いかけてくる。


「長い間眠っていたけど意識ははっきりするかい?」


「はい、少しだけ。」


と答えるが自分の声が妙に高い気がする、気のせいか。

その後は先生といくつかの質問を受け答えている間に時間が経ち

俺と同年代の中年の男女が息を切らせて部屋に入ってきた。

男はスーツ姿で背が高く180㎝位はあるだろうか、女も背が高く170㎝程こちらはジャケットにジーパンのラフな姿。二人共スラっとしていてモデルの様な体型だ。


その男女は俺の顔を見ると言葉にならない声を上げていきなり抱き着いてきた。

顔を涙でぐしゃぐしゃにした中年の男女に驚いてしまっている。


「ちょ、いきなりなんだアンタ達は?」


力強い抱擁に精一杯抵抗しながら中年の男女に問いかける。

中年の男女は少し離れ俺の顔を心配するような眼差しで口を開く。


「ハル?何言ってるの?あなたのお母さんとお父さんだよ。」


「はっ?」


中年の女がそう言うと男も力強く頷く。

ハルって誰だ?俺は鈴木光太郎(45歳)バイクが恋人だ。

いやいやそんな事はどうでもいい、何か状況がおかしい。

混乱した頭を整理しているとすかさず医者が話を切り出す。


「起きたばかりですからまだ少しだけ記憶が曖昧なのでしょう。少し落ち着いてからお話をすると良いかもしれません。」


そう言うと父と母という人を先生が部屋の外へ連れ出し色々と説明をしている。

残った看護師さんが俺を心配そうに見つめ気が付いた様に櫛と手鏡を取り出す。


「寝起きだから髪がクシャクシャだね、梳いてあげるね。」

「髪…だと?」


悔しいがここで俺は異常事態に気付いた、残念ながら俺に髪はほぼ無い筈なのだ。

視界が塞がる程の髪の量は当の昔に尽きている…言ってて悲しくなる。

同時に渡された手鏡を見て確信した。


「なんじゃあこりゃぁ!!」

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