第2話 協力者

 僕は目を覚ました、のか?


 わからない。


 目を開けた感覚はあるが、暗すぎて何も見えない。


「気が付いたか、少女よ」


「誰だ? え?」


 普通に声を出したつもりだったが、自分の声が甲高い。


 それこそまるで、少女のような声だった。


 急いで喉元を触ってみると……。


 ちょっと待て、喉仏が出てない。それに、喉を触る自分の手もなんだが小さい気がする。


「何をしている?」


「なあ、少女と呼んだのは僕のことか?」


「そうだが、何か問題でも?」


「いや……」


 やはりそうか。僕の見た目は少女のものらしい。体を確かめた限り、その言葉に嘘はなさそうだ。


 そのうえ、肉体の感覚がはっきりしている。夢ということもなさそうだ。


 どうやら僕は、生き残ってしまったらしい。少女の体で……。


 だが、体が少女のものになったんじゃ、奴らの目的通り、消されたのと同じじゃないか。


 こんなところにいても仕方ない。


「助けてくださりありがとうございました」


「どこへ行く」


「……」


 行くアテなんてない。僕一人、生きてたってしょうがない。


 そもそも何も見えないんだ。


 どこへ行ったって同じ。


「痛っ……」


「どこを見ている。ああ、そうか。人間は明かりがないと見えないんだったな」


 ボフッと音がすると、僕らのいる場所が明るくなった。


 どうやら、明かりを出してくれたらしい。目深にフードを被った人の近くから、明かりが届いてくる。


 しかし、見えるようになってわかったことは、ここは僕の知らない場所ということだ。


 洞窟のような一室。家具と呼べるようなものはなく、かろうじて、僕が横になっていたベッドのようなものくらい。


「ここは?」


「ようやく会話する気になったか。ここは、人間の言うところのダンジョンだ」


「ダンジョン……。それじゃあ、あなたは?」


「ワタシか? ワタシは魔物に崇められる神。今は格を下げられ、邪神や亜神と言ったところか」


「邪神……」


 フードを脱いで現れたのは、猫のような目をした、野生みあふれる人だった。


 こげ茶色の髪が、猫の耳のような、特徴的な癖でまとまっている。


 一見しただけでは、邪神とは思えないが、空気の重さから、その力を感じ取ることはできる。


 僕じゃ勝てない。


 魔物に崇められる神ということは、助けられた訳ではないのだろう。


「それじゃあ、あなたが僕を裁くんですね」


 僕の問いかけに、邪神は、キョトンとした顔になった。


「裁く? ワタシがか? ワタシに、そのような権限はない。格を下げられたと言ったろう。魔物の神とはいえ、そんなつもりはない」


 そういう話じゃないのか。


 覚悟を決めたつもりだったけど、肩透かしを食らった気分だ。


「えっと……。それじゃあ、改めて。助けてくださりありがとうございました。失礼します」


「待て」


「感謝しかできませんが、止めないでください。僕にはやらないといけないことがあるので」


 行くアテはないが、やることはある。生きているなら、やるべきことがある。


「きみの家族を殺した者達への、復讐か?」


「そうだと言ったら?」


「きみの力。デスゲームは魔物の同士討ちには使っていても、人間に対して使ったことはないのだろう?」


「関係ありません。僕はできる事をやるだけです」


「そうか。だが、感謝しているなら、せめてワタシの話を聞いてからにしてくれないか?」


 それもそうか、と思い、僕は邪神の顔をまっすぐ見つめた。


「いい顔じゃないか。取引しよう。ワタシは神だ。魔物の神で、格を落とされたとしても、神は神。人間よりは格が上だ。ワタシと組んで、人の在り方を悔い改めさせる気はないか?」


「……」


「果たして、きみ一人の力だけで、すぐにでも目的を果たすことが可能か? 対象を探し出し、誘い出し、スキルの効果範囲に閉じ込めておくことはできるのか?」


「…………」


「様子はワタシが神に伝える。きみは自分の力を発揮するだけでいい。悪い話じゃあないだろう?」


 確かに、魔物は人間に虐げられてきた。悩み苦しみ、資源や注目稼ぎとして使われてきた。


 必要な時に必要なだけ使われて、家族ごと消された、僕と同じ。探索者に虐げられてきた存在……。


「さて、どうする? 無論、一人でやるというなら止めはしない。目的自体は同じはずだからな」


「……。わかった。やってやるよ。しかし、いいのか? 僕も人間だ。裏切るかもしれないぞ?」


「構わない。その目を見ればわかる。迷いはないのだろう?」


「ああ。大切な家族もいないんだ。もう、探索者やあいつらなんて、どうなってもいい。僕、いや、俺は、全てぐちゃぐちゃにできるなら、神だか邪神だか知らないが、力だって借りてやるさ」


「そう言ってくれると思っていたよ」


 人間的な礼儀もあるのか、邪神はスッと手を差し出してきた。


「ワタシはべフィア」


「アベ・ジン。よろしく」


「よろしく。さあて、まずは手始めに、ダンジョンで暴れる人間に試してみようか。近くに人が居るみたいだ」


「すぐ行こう」

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