第5話 スキルの活性化

 スキルの活性化だと!?

 俺は思わず大きな声を上げた。


「スキル!? 俺にスキルがあるのか!?」


 この世界には、多種多様なスキルが存在する。


 例えば……。

 火魔法や回復魔法などの魔法スキル。

 剣術や筋力強化のような戦闘スキル。

 鍛冶や調合などの生産スキル。


 こういったスキルを持っている人は、出世しやすい。

 冒険者になったり、鍛冶師や薬師になったりするそうだ。

 スキルは生まれつき持っている人もいれば、長い修行を経てスキルを手に入れた人もいる。



 転生する前のことだが、俺は女神様とスキルについて話し合った。


『私のネコちゃんを助けてくれたお礼です。何か特殊な能力をつけてあげましょう。戦闘に強い能力はどうでしょう?』


 転生先は魔物が生息する世界だから、戦闘に役立つスキルがオススメだと女神様は教えてくれた。

 しかし、俺は戦闘スキルに魅力を感じなかった。


『戦闘ですか……。うーん、荒っぽいことは苦手ですね。出来ればもっと穏やかな能力の方が……』


『では、物作りなんてどうですか? 日本人は物作りが得意ですよね?』


 女神様の提案『物作り』に、俺は強くひかれた。

 会社ではエンジニアとして働いて、毎日パソコンに向かいストレスが多かったのだ。


 手を動かして物を作る。

 何か楽しそうだ!


 次の人生では、のんびりと手を動かして物作り!


『物作りでお願いします!』


『では、最上級の生産スキル【マルチクラフト】を使えるようにしましょう。【マルチクラフト】は何でも作れるスキルですが、材料は用意して下さいね」


『わかりました! ありがとうございます!』



 ……というような会話が、俺と女神様の間で交されたのだが、転生してみると俺はスキルなしだった。

 スキルの鑑定をする神官に、何度か確認してもらったので間違いない。


 だが、ネコネコ騎士のみーちゃんは、俺のスキルを活性化すると言う。

 それはつまり、俺にスキルがあるということだ。


「みーちゃん。俺にスキルがあるのか? 神官に確認させたけど、スキルはなかったぞ」


「女神様が言うには、転生者にスキルを付与すると、上手く動かないことがあるらしいニャ」


「そんなことがあるんだ!」


「けど、心配ご無用! ゴム無用! コレを食べれば、眠っていたスキルが活性化するニャ!」


 みーちゃんは、ベルトにぶら下げたポシェットから、サクランボを取り出した。

 大ぶりのサクランボで、日本のスーパーで売っていたアメリカンチェリーに似ている。


「チェリー?」


「そうニャ! これは神のチェリーニャ! これを食べれば! ノエルのスキルが活性化するニャ!」


 それは凄い!

 だが、さっきから何か引っかかる。


 チェリー……。

 チェリー……。

 あっ!


 つまりチェリーボーイ!?


「貴様ー!」


 俺はみーちゃんに襲いかかり、ガッツリ首を絞め左右にブンブン振り回した。


「な、何をするニャ!」


「何が神のチェリーだ! 俺をチェリーボーイだとバカにしてるのか! そうなんだな! DTをバカにするな! 清い体をバカにするな!」


「ち、違うニャ! バカにしてないニャ!」


「ウソつけ! さっきも『心配ご無用! ゴム無用!』とか……挑戦か!? 全異世界のDTに対して挑戦状を叩きつけるのか!?」


 この猫野郎は、絶対に俺をバカにしている。

 間違いない!

 俺は確信を持っているのだ。


「うううう、うるさいニャ! この拗らせ童貞野郎! 前世と合わせて何年童貞ニャ!」


「だ、だ、だ、だ、黙れ!」


「黙らないニャ! 二十九才で死んで、転生して十三才だから四十二年童貞ニャ! そんなことだから、童貞拗らせるニャ!」


「黙れーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」


 地獄だ!

 地獄がここにあった!


「四の五の言わずに食べるニャ!」


「むぐっ!」


 俺とみーちゃんはもみ合いになったが、みーちゃんが強引に神のチェリーを俺の口に押し込んだ。

 口の中に爽やかな甘味が広がる。


「美味しい……んん!」


 何か強いショックを感じて頭がクラッとなった。

 一瞬だけ俺の体が金色に光る。


「なんだ!? これ!?」


 俺は驚いて自分の体をさすったり、叩いたりした。


「ジッとするニャ。ネコネコアイで確認するニャ……。うむニャ! 無事にスキルの活性化が済んだニャ」


「これでスキルが使えるようになったのか?」


「そうニャ! ノエルが希望していた物作りスキルだニャ!」

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