湖の神さま

 足元には月の光を銀色に照り返す白い玉砂利。私はそれを1つ拾い上げ、大きく息を吸った。


「ざっけんなっ!!エロ神!!今どき村のために命投げ出すアホがどこにおるんじゃーい!!時代錯誤も甚だしいわっ!!あんな村知るかー!!」


 ヤケクソだった。だってまだ恋もしてないのに死にたくない。思い切り振りかぶって投げた小石は、小さな音を立てて水中に吸い込まれ、水面に大きな波紋を作る。

 

 すると、湖の水が急に盛り上がり、中から大きな蛇が現れた。


「いてぇっ!不法投棄反対!」


 青い目と銀色に光る鱗の喋る大蛇は、しきりに身を捩って悶えている。そして大蛇はそのままザブザブ水を掻き分けて岸に近づいてくる。


「ご、ごめんなさい!えっと、エロ神さま……?」


「違うけど?」


「あ、間違えた。神さまですか?」

 

「だから違うよ。人間が勝手にそう呼んでるだけ」


「え、じゃあ、うちのお祖母ちゃんは?」


「お祖母ちゃん……?そういえばちょっと前に君みたいな白い着物着た女の人来たねえ。こんな村も頭固い旦那もうんざりだって言うから、こっそり逃がしてあげたよ。何回もそういうことあって僕もうんざりだよ。初代の奴はあの村の娘と結婚したみたいだけどさ」


「そうなんだ」


 動揺のあまり普通に会話しちゃってるけど、今衝撃の事実を知ったよ!?神さま代替わりするの?お祖母ちゃんどこ行ったの!?


「君のお祖母ちゃんは都会でブイブイ?いわすって言ってたね。ブイブイって何?」


「いや、知らんが」


 あ、つい地が出てしまった。昔、私をからかってきた男の子達もボコボコにしてから悔しくて泣きながら帰ったもんね。


「で?君はどうする?なんでも叶えてあげる。ここが嫌なら逃がしてあげるし費用も全部用意するよ」


「いいんですか!?神さま何も得してなくない!?」


「いいのいいの。僕、初代の縁故でさ。この地域担当で給料は上から出てるから。を護るのが仕事だよ。君も村人だろ?」


 うわぁ~。そういうシステムだったんだ。公務員みたいな感じ?


「あの……じゃあ、お願いがあるんですけど」


「なあに?」


「私、さっきはムカついてあんなこと言っちゃったけど、本当は家族も村も嫌いじゃないし。一緒に戻ってみんなを説得してくれません?1人で戻ったら心配するでしょ?ほら、災害が酷くなるとか疫病が流行るとか」


「君優しいね。その辺はなんとかするよ……ちょっと待ってて」


 神さま (?)は一度水から出て、その大きな体をブルリと震わせた。雫と銀色の鱗が月光を照り返し、妖しいほどに光る巨体は、見る見るうちに小さくなっていく。

 そうして気がつくと、私の目の前には長い銀の髪と青い目を持つ、こんな田舎では絶対にお目にかかれないイケメンが立っていた。

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