13

 それから王城を後にしたペペらが連れて行かれたのは、円形闘技場。中央の舞台をぐるり囲み背凭れの無い一本線のような席が等間隔で並んでるだけの観客席が設けられていたが、当然ながらそこは全て空席。

 その中でも一際広々とした空間が設けられた場所があり、そこにクレフトとペペの姿はあった。そこに並ぶ、王座程ではないが他の席に比べれば座り心地は十分そうなハイバックチェア。

 ペペは辺りを見回しながら歩みを進めると最後は欄干に手を付け中央を見下ろした。


「このような血生臭い見世物を好むとはな」


 クレフトの事前情報と雰囲気からペペは内心で悪い意味の意外性を感じていた。


「そうではない。ここは年に一度に行うサードン王国騎士団主催の催しの為、造られたものじゃ。毎年、騎士団員による戦闘トーナメントを基に様々な催しが執り行われておる」


 すると無人だった中央へ登場のアナウンスも歓声も無い中、ルシフェルとミシェルが左右から姿を現した。二人は既に始まっていると言わんばかりに真剣な眼差しを互いへ向け合っている。


「最低限の実力は見極めねばな」

「ではルシフェルにはそのように伝えましょうか?」

「あぁ」

「かしこまりました」


 一歩後ろでアルバニアは会釈をすると観客席の端、少しでもルシフェルへ寄るように縁際まで足を進めた。


「ルシフェル! 抜いちゃダメよ」


 アルバニアの声にルシフェルは無言のまま下緒を鍔へ鞘が抜けないように結び始めた。

 そして斬る事の出来ない刀をミシェルへ。


「お前は抜け。殺す気でなければ意味がない」


 騎士道に反するからなのかミシェルは眉を顰めた。


「安心しろお前らはまだペペ様の傘下ではない。俺を殺したとこで問題にはならん。最もそんな事、気にする必要はないがな」


 するとそんなルシフェルの挑発に怒りに身を任せミシェルは剣を抜いた。そしてその切先を突き刺すように向けた。


「ここでアンタを殺してアイツにどんだけ自分が自惚れてるか思い知らせるのもいいわね」

「ここの犬はよく吠えるようだな。どうやら主人がその程度という事らしい」


 その言葉にミシェルの顔付きが更に変わる。より真剣味を帯びた表情はミシェルというよりサードン王国騎士団団長としての怒気だった。


「今の言葉、撤回しなさい!」

「させてみろ。力づくでな」


 言葉にならない怒りの声を漏らすと、ミシェルは地面を一蹴。ルシフェルへと向かっていった。

 そして振り下ろされた剣と鞘に納まったままの刀が激しくぶつかり合いながら刃を交えた。


「フッ。中々の煽りだ」


 開戦から早々に激しい斬り合いを見せた戦いを眺めながらペペは感心した声で呟いた。


「貴様はどちらが勝つと思う。やはり自分のとこのか?」

「確かにミシェルはこの国でも屈指の騎士だが、だからと言ってこの世の全ての存在に勝っているという訳では無い」

「ほう。傲慢は持ち合わせていないようだな。だが例え視界をくれてやったとしても勝つことは叶わんだろう」


 クレフトはそれ以上、競い合うような事は言わずただじっと繰り広げられる戦いへと目をやった。

 煽りが効いているのだろう、初めから怒涛の攻めを展開するミシェルの一撃一撃は全てが重く、鋭い。だがそんな彼女をものともせず、ルシフェルは片手の刀でその全てを捌いていた。表情に一瞬の乱れすら見せず、更には一歩たりとも動いてすらいない。

 そんな悠然とした態度のルシフェルに対し、ミシェルはより一層深く眉を顰めた。

 そしてミシェルはそんな憤りを叩きつけるように剣を振り下ろした。それは今までで一番力の籠った一振り。

 だがその一振りをこれまでと変わらないと言うようにルシフェルは受け止めた。交差する剣と刀越しに向き合う二人。無表情と怒り顔が数秒睨み合うようとルシフェルは顔色一つ変えずミシェルを押し返した。


「くっ……」


 大きく退き間合いが開くと二人は静寂に包み込まれるが、数秒を待たずしてミシェルは最初へ巻き戻ったかのように地を一蹴。だが突進するようなミシェルをに対し、今度はルシフェルも地を蹴ると二人は瞬く間にぶつかり合った。

 タイミングを合わせミシェルは剣を横一閃。

 だが剣は空を斬り、もうそこにルシフェルの姿はない。力の入っていたミシェルの双眸が僅かに瞠る。


「なっ!」


 そんな彼女だったが、一瞬見失ったルシフェルの気配を感じ先に顔を振り向かせた。

 丁度、着地したルシフェルは一足先に振り返り始め――ミシェルも剣を振るいながら体を背後へ。先に攻撃を仕掛けられたはずだが、ルシフェルはその場でしゃがみ剣を躱した。

 そして構えた刀を鎧越しの脇腹へ。彼女の体は堪えようと試みるが、抵抗空しくそのまま吹き飛ばされてしまう。それがその一刀の威力を物語っていた。

 地面に何度か体をぶつけながら殴り飛ばされたミシェルだったが、最後は上手く態勢を整え着地するような状態で数センチだけ滑り止まった。

 そんなミシェルへルシフェルは悠々とした足取りで近づいてゆく。


「この刀すら必要ないのか?」

「そうやっていつもすぐ天狗になるわけ?」


 一瞬、顔を顰めるが余裕だと言わんばかりに煽り返すミシェル。

 そんな彼女へルシフェルは刀を振り下ろした。鞘に納まっていながらも鋭い一振り。

 するとミシェルはその刀を剣ではなく素手で受け止めた。


「そろそろ抜いた方がいいんじゃない?」


 煽り口調のミシェルがもう片方の手で構えた剣はレーザーポインターのように煌めく。

 だが透かさず一手先にルシフェルは足を突き出し、それを剣で受け止めたミシェル。刀から手を離しそのまま蹴り飛ばされた。しゃがんだ状態のまま地面を滑り強制的に距離が開く。

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