7

 翌日、三人はアルバニアが事前に調べていた近くの村へと向かっていた。


「もうそろそろ見えてくるはずなのですが……」


 言葉の後、更にもう少し先へ進むと三人の視界には村が見え始めた。


「ペペ様。あちらがサイストという村です」


 魔王城からそう遠くない場所にあったそれは本当に小さな村。魔物も素通りしてしまいそうな規模の村だった。


「出来る限り付近がよろしいと仰っていましたので、規模よりそちらを優先させて頂きました。もしお気に召されないのでありましたら別の場所もご用意しておりますのでそちらへ案内させていただきます」

「いや、ただ試すだけだし人間がいるなら全然ここでいいよ」

「人間の有無は既に確認済みです」

「それじゃあ行こうか」


 そしてペペを先頭にした三人はその村の入り口へと向かう。

 村の入り口には数頭の馬と馬車が止まっており、奥の方では何やら鎧に身を包んだ数人の騎士集団が揉めている様子。


「口答えはいい。さっさと出せ!」


 一人の男を先頭にした騎士集団の前には、相対するように一人の老人を先頭にした村人が怯えた様子で集まっていた。


「ですから騎士様。もうこの村には我々が食べる分しか残っておりません。今の分だけでも足りるかどうか……」

「えぇい! 残ってるのなら全て出せ!」

「ではわしらはどうやって生きてゆけば良いのですか?」

「そんなの知った事か」

「隊長!」


 すると一人の騎士が感情を剥き出しにして怒鳴る先頭の男へ小声で何かを伝えた。隊長はそれを聞くと村人らとは真逆を振り返る。

 それに合わせ他の騎士は振り返りつつ隊長の前を開けた。


「何だ? お前らは?」


 隊長の視線の先にいたのはペペと一歩後ろに立つアルバニア、ルシフェル。


「貴様に用はない。さっさと消えろ」

「何だと? 我々が誰か分かってその口の利き方をしているのか? 我々はあの勇者クラガン・ズィール様の治めるクラガン帝国より直々に命を受けているラルハラ王国よりここら一帯を任されているサンザ国の騎士だぞ!」

「(いや、それはもうただの下っ端じゃん。クラガンとは親戚の親戚ぐらい、いやもっと遠い存在なんだよな)」

「フッ。ビビッて声も出ないか。口ほどにもない奴め。今なら土下座ぐらいで許してやる」


 何も言わないペペに対し既に勝ち誇ったような表情を浮かべている隊長。


「ペペ様。この無礼者は私が処理してもよろしいでしょうか?」

「うん。よろしく」


 後ろからのアルバニアの小声に釣られてペペも小さな声で返事をした。

 それを受けたアルバニアは一度頭を下げるとペペの前へと出た。


「ほぅ。中々に良い女だ。仕方ないお前が――」

「黙りなさい。これ以上ペペ様にその汚い声を聞かせるなど無礼にも程があるわ」


 アルバニアは強い口調でそう言いながら空へ向けた掌の上(少し浮かせた状態で)野球ボール程度の魔力の球体を作り出した。

 一方、隊長はアルバニアの言葉に剣を抜く。


「何だと! 女だからと言って容赦はし――」


 隊長の言葉は恐らく聞いていないのだろう、彼が口を動かしている間に手をひっくり返すアルバニア。掌がしたを向くと魔力の球体は真っすぐ地面へと落ちて行き、バウンドすらせずそのまま水に落ちるように呑み込まれていった。

 するとその瞬間、隊長を除く騎士全員を足元から突き出した棘が鎧を貫通。辺りには血が飛び散り、一斉にかつ一瞬にして騎士は貫かれ立ったまま息絶えた。

 突然の出来事に隊長は言葉を失ったまま剣を手放し尻餅をつく。その表情はもう先程までの強気なものではなく、隅々まで恐怖に染まっていた。


「ば、バケモノ!」


 剣と共に威勢までも落としてしまったようでその声は震え怯えていた。


「化け物? それは違うわ」


 そんな隊長とは対照的に余裕に満ちた声のアルバニアは、そう言いながら指を気持ちよく鳴らした。音の後、人差し指と親指の上には小さな炎が灯るように出現。


「あなた達人間が弱すぎるだけよ」


 言葉を口にしながらその炎を握り手を内側へくるりと回すとそれを隊長へ投げるように手を開く。

 するとその直後、隊長は赤黒いの炎に抱かれた。燃え盛る炎は一瞬にして肉体を燃やし、骨を貪る。隊長はあっという間に灰と化した。

 そして短時間で騎士を片付けたアルバニアはペペの方へ振り返ると少し横にズレ、頭を下げながら邪魔者を掃除した道を差し出した。


「お待たせして申し訳ありません。掃除は終了致しましたのでどうぞお通り下さい」


 棘が引いたことで両側に騎士の屍が転がる道。その先には眼前の光景に最初とは違った恐怖で怯えた様子の村人達の姿があった。


「ありがとう」


 そしてアルバニアに一言お礼を言い一歩目を踏み出すペペ。するとそれに合わせるように風が吹き、隊長だった灰を掃除するよう綺麗に吹き飛ばした。

 しかしそんな事は気にも留めずその道を通りペペは村人たちの前まで足を進めた。

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