つならの島

久住ヒロ

1. 『ツナラ』

 5年前、夫が失踪しました。

 警察にも届けは出していますが、夫の行方はいまだにわかっていません。


 このような場に投稿するような話じゃないのはわかってます。

 ただ、どうしても知りたいことがあり、今回お便りを出させていただきました。みなさんの知恵をお借りできたらうれしいです。


 夫は会社員です。食品の流通を取り扱う仕事をしています。

 さまざまな業者の方とやり取りをする機会が多く、週末にはいつもどこかの地方に出張していました。

 出張する場所はまちまちです。しかし、よほど大事な仕事を任されていたのか、夫はいつも楽しそうに仕事をしていました。

 ある日、私は夫とリビングで寛ぎながら、バラエティ番組を見ていました。

 その番組の中で『地方の美味しいグルメ』をランキング形式で紹介するコーナーがあったのですが、番組を眺めていた夫はふとこんな言葉を漏らしたのです。


「でも、ツナラには敵わないよな」


 ツナラ。初めて聞く言葉です。

 ツナラってなに、と訊ねると、なぜか夫はバツが悪そうな顔になりました。


「そのうち、食べられる機会はくるよ」


 結局、それ以上のことはなにも教えてはくれませんでした。


 その頃からでしょうか。夫の様子が変わったのは。

 寝ていると妙なことを口走るようになったのです。

 何と言ったのか、きちんと聞き取れなかったのですが、たしか、こんな感じの言葉を寝ているあいだ、繰り返していたはずです。


 ツナラ ツナラ ツナラ


 次の朝、目を覚ました夫に聞いてもなんのことだかわかっていない様子でした。

 でも、なぜか寝言を言ったあとに目覚めた夫はとてもすっきりした顔をしているんです。


「なんだかすごく幸せな夢を見た気がする」


 それからも夫の寝言は続きました。


 そして5年前の夏、突然夫はいなくなってしまいました。

 テーブルにこんな書置きだけを残して


『よばれたのでいきます』


 それっきり夫はいまも帰ってきません。


 お願いします。

 どうか心当たりがある方は教えてください。


 ツナラとは、いったいなんなのでしょう。


 夫はなにを口にしてしまったのでしょう。


 夫はなにに呼ばれてしまったのでしょうか。

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