真の仲間じゃないお嬢様にTS憑依したが、超越種達に祝福されたので世界を燃やす旅に出ることにした

甘辛メロン酢

第1章 黒い炎に焼かれて

第1話 黒鳳凰の祝福(極)

 ――お前は堪え性がない、と言われる事が多かった。


 否定はしない。

 実際、同じ仕事が2年続いた事はなかったし、好き勝手に生きているという実感はあった。

 

 だがそれで不幸だったか? と言われれば間違いなく否だ。

 堪え性がないとは、良く言えば「自分を大事に出来る」という事である。


 例えばブラック企業のサービス残業。

 仕事場の人間関係のもつれ。

 無能な上司からの理不尽な指示。

 こんな事に必死で耐えても、良いことは一つも無いと分かりきってる。


 だから俺はすぐに辞めて次に向かった。

 堪え性はなくても、無駄に行動力だけは合ったのだ。


 おまけに精神も図太かったようで、辞めるときには汎ゆる権利を行使した。

 労基署の考査が入ったのも一社やニ社ではない。

 自分で言うのもなんだが、(社会的な意味で)割といい仕事をしたと思う。

 もちろん普段は調子こいている正社員共が、慌てふためく姿は気持ちよかった。

 

 そうして最終的には実家に帰り、週3日だけ働くスローライフを始めた。

 空いた時間は趣味のゲームと小説で過ごす。けっこうな幸せな生活だった。


 ――そんな風に生きていたからだろうか。


 ストゼロ4本を決め、頭にガツン! と痛みが走った時も

 あ~これヤバイんじゃね? としか思わなかった。

 どうやら俺は他人に酷使されるのは御免でも、自分の行動で死ぬのは納得できるタイプだったらしい。


 最後は体の中でバチバチに弾けるアルコールと、急激に全身へ広がる冷たさ感じながら意識が落ち――



 ――気づいたら、俺は巨大な鳥の前に居た。




 ◆◆◆◆◆◆




「えっ、炎まで黒いガラルファイヤー!!?」


 硬い石の床から身を起こして、目の前の鳥を見上げる。

 鳥は黒くてデカイ。その上、全身から黒炎を吹き出していた。

 赤い瞳でジッとこちらを見ている様は、まるで闇の不死鳥のよう。何もかも焼き尽くしてしまいそう。


 しかも俺がいるのはボウボウと燃える知らない部屋で、足元の大理石には銀髪碧眼の美人が映っていた。なんじゃこりゃぁ!!?


「なんなのコレ? まさかどっきり??」

『ほぉ、まさか自力で蘇生するとは。少しはやる者がいるではないか』

「鳥がしゃべったっ!!?」


 状況から考えるに、どうも俺は女になっているらしい。

 更に喋り始めた鳥が混乱に拍車をかける。渋い声だ。ブルァァァ!! って叫びだしそう。


「この超常現象、やはり夢? でもそれにしては熱気がリアルね……」


 おまけに何故か言葉がお嬢様っぽく変換されてしまう。

 こんなこと普通はあり得るはずが無い。

 しかし肌を焼くような熱は余りにもリアルだ。試しに頬を抓ってみても痛い。


 認めたくないが、この非常識な状況は夢じゃないらしい。

 確か俺はストゼロ(500ml)を4本決め、そのまま死んだはずなのに。

 一体何が起こっているんだ?


『――ふむ、まだ生き返ったばかりで頭が混乱しているという所か』

「あの、すみません。これってどういう状況なのでしょうか?」


 それでも言葉は通じそうなので、恐る恐る鳥さんに説明を求めてみる。

 相手のプレッシャーがすごいせいで、自然と敬語になってしまう。

 流石にここで「おい、鳥野郎!!」なんて言える無謀さはなかった。チクショウ、俺が物語の主人公なら言えただろうに。そして燃やされただろう。ボウボウと。


『――そう言えば名のりがまだだったな。では特別に教えてやろう。我は世界最強の一角にして誇り高き鳥族の頂点「黒鳳凰ブラック・ホウオウ」!! お主が祝福を願いし「召喚の儀」に応じた偉大な存在である!! ……コケコッコォオーーーッ!!! 』

「鳴き声がニワトリぃいいーーーッ!!!!!!」


 黒い鳥は名乗れたのが嬉しかったのか、コケコケと鳴き始める。

 頭の中に早朝から騒ぐニワトリが浮かぶ。思わず突っ込んでしまったが、しかし返ってきた答えは全く意味が分からないものだ。


 祝福を願いし? 召喚の儀? ゲームかな?

 ならむしろ俺の意識を元の世界に召喚して欲しい。出来ればマジチン付きで。


「でも(ゲームなら)普通は黒い鳥って『闇の不死鳥ダーク・フェニックス』よね。黒(ブラック)って余り聞かない気がする……あっ」

『な、何を言うか! 黒こそが至高、何者にも染まらぬ孤高の色ぞ!! それに闇だと闇属性になってしまうではないか。黒くても炎は炎属性でなければならぬ!!』

「あっ、はい」


 おっと、混乱しすぎて思ったことが自然と口から漏れてしまったようだ。

 だが偉そうにワンテンポ置いていた黒い鳥は、急に早口になって否定を始めた。


 ……この挙動、間違いない。この黒い鳥は中二病のボッチだ。

 俺にも経験があるからよく分かる。でもブラック・ホウオウってダサくね? 個人的にはダーク派だ。燃やされそうだから言わないけど。ダークチキン・ニワトリ!!


「まっ、まぁ黒って最高ですよね! 私も黒は好きだなー(棒)」

『うむっ!! やはり分かるか!! それでこそ召喚に応じた甲斐があると言うものよ。お主も闇の炎などと言う輩がいたら、きっちり殺しておくのだぞ? 大事なことだ』

「そんなに???」


 否定すると不味そうなので、空気を読んで話を合わせる。

 俺の賛成がよほど嬉しかったのか、黒い鳥は全身で喜びを表すかのようにバサバサと羽ばたき始めた。


 いやどんだけ黒色にこだわりあるんだよ? 熱風が飛んできてめちゃ熱い。

 このままだと話が終わる前に、俺が燃え尽きてしまいそうだぞ。


『――それでは我が祝福を与えるとしよう。心して受け取るが良い』

「いや別にいらな……うわっ、炎が身体に入ってくる!!」


 何やら鳥さんがピカーっと光ると、黒炎が俺の体に吸い込まれる。

 一瞬、燃やされる!? とビビったが、意外なことに熱さは感じなかった。

 むしろ周囲の熱もカットされているのか、急激に身体が冷えていく。


 そして同時に脳内に直接、アナウンスのような声が響いた。


 ――ピロリロリン!!

 ――黒鳳凰の祝福(極)を獲得しました

 ――効果1:敵討伐時、生命力が5%回復します

 ――効果2:炎属性耐性(無効)を取得しました

 ――効果3:固有クラス(黒炎の魔剣士)を取得しました

 ――効果4:黒鳳凰への挑戦権(2年以内に倒さないと死ぬ)を取得しました


 それはまるで文言だった。


「ちょっ、なにこれ? なんか『2年以内に倒さないと死ぬ』って聞こえてきたんですが?」

『――うむ。やはり我の祝福を持つ者はでなければな。やる気のない奴に祝福を与えてもつまらんだろう?』

「ええぇぇ……」


 効果は4つもあるようだが、その内容がヤバイ!!

 最初の3つはまだしも、最後で台無しである。幾らなんでも余命2年はデメリットが重すぎるだろう。これでは祝福じゃなくて呪いだ。


「これ無かったことに出来ませんか? 2年で死亡はきついかなって」

『――もちろん駄目だ。というか与えた祝福は取り消せん。では、そろそろ我は消えるとしよう。コココ、我の居場所に辿り着くのを楽しみにしているぞ!!』

「いや待って場所は!? どうしたらまた会えるの??」

『ではサラバだ!! ――コケッコォオオーーーーー!!!』


 しかも祝福を与えて満足したのか、黒い鳥野郎はさっさと消えてしまった。

 バサっと優雅に翼を広げ、コケコケ言いながら黒い炎を撒き散らして姿が薄れていく。その姿は無駄に神々しい。


「ちょ、ちょっと待ってヘルプ!! せめてどうやったらまた会えるかだけ教えて!! ……おい待て黒ニワトリ!! このヤリチンやろう!! ああああああああ!!!」


 俺は必死に引き留めようとしたが無駄だった。

 おかげで肝心の再会方法が不明のままだ。鳥頭なのか? いや鳥だったわ。

 後に残ったのは祝福(呪い)を押し付けられた俺と、未だに燃え続けている部屋だけ。


「……嘘でしょ? これからどうしろっていうの?」


 それでも俺は何とかしようと頭を捻って考える。

 最終的に思いついたのは、もしかしたらゲーム的なステータスみたいのがあるんじゃね? ということだった。


「ならここは『ステータスオープン』とか? ……うわ本当に出た」


 試しに定番の文言を唱えてみると、眼の前に半透明のウィンドウが出現した。

 見た目はコンビニ7-11の空中ディスプレイっぽい。指で突くと上下にスクロールできたので、中をざっと流し読みする。


************ ステータス *************


【基本情報】

 本名:アビスリン・フラム・アチチバーン

 種族:人間族 性別:女 年齢:17

 称号:アチチンバーン公爵家の長女

 職業:黒炎の魔剣士Lv1


【能力一覧】

 生命力:10/90 魔力:10/60

 物攻力:9 物防力:5 俊敏性:6

 精密性:3 魔攻力:8 魔防力:5


【技能一覧 残りSP:0】

 取得:〈黒炎放出〉

 固有:〈炉心溶爆メルトバースト


【その他一覧】

 黒鳳凰の祝福(極):討伐時生命回復、炎属性無効、特殊職業、余命2年


********************************


 どうやら俺はアビスリンという人物になっているらしい。


「……これって【ぼくのぞ】の登場人物じゃね?」


 俺はその名前に思い当たりがあった。2年前にやったゲームのキャラだ。

 確か長い銀髪に碧眼のカッコイ系美少女で、体の方もドスケベボディ。胸と尻が大きくて、専用のエロ装備まで用意されていたキャラである。試しに自分の胸に手を伸ばしてみると、そこには大きなタワワが2つ実っていた。


「うーん、とするとココはゲームの世界ってこと? でもゲームには『黒鳳凰の祝福』なんて出てこなかったわよ? つまり今の私は何らかの原因でしてしまったアビスリンということ?」


 敢えて口に出してみたが、恐らくゲームの世界なのは間違ってはいないだろう。

 でなければステータスなんて出てくるはずがない。


「本当にゲームの世界なら、スキルも使えるはずよね……」


 そこで俺は試しに近くに落ちていた剣を拾い〈黒炎放出〉スキルを発動してみる。

 刀身から溢れた黒い炎は、まるで巨大な火炎放射器のように吹き出し――


「あ、やばっ。天井崩れちゃった!!」


 ――元からボロボロだった天井にトドメを刺して、みごとに建物を崩壊させた。


 俺はダッシュでその場から逃げ出した。




 ――――――――――――――――――――――――――――


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