第28話

 「……邪魔をするぞ」

突然、空中から声がした。

この声は───

 

 「スノウクロア様!!」

全能神が、どうしてこんなところへ?

「ス、スノウクロア様、だって?」

ユウリのお父様がきょろきょろと周りを見回す。


 「ユーリ、よく頑張った」

「……ありがとうございます。ですが……」

「わかっておる。今は、その件で参った」

 

 「?どういうことですか?」

「こやつが、どうしても連れて行けと申すのでな。自分だけでは次空が違って行かれぬゆえ連れて行けと申すのだ」

「こやつ、ですか?」

 

 「うむ。スーニア、しばし支えてやるゆえ、出てまいれ」

「ありがとうございます」

言葉とともにあらわれたのは、全身真っ黒な、ゆったりした服を着た長身の人。

 

 たしかスーニア様って、死と再生の神様だったわよね?

もしかして、ユウリを連れに来たの?

「ああ……ちがうちがう。ユウリに関わることではあるが、おれの用事は、その逆」

 

 「逆、ですか?」

「そう。おれは確かに死の神だ。ただし再生の神でもある」

「あ……もしかしてユウリを!生き返らせて?」

 

 「そういうこと。本来なら手出ししてはいけないんだけどね。おまえさんたちが撃退っつーの?あのイシュールとかいうアホンダラの悪だくみを打ち砕いてくれたから、そのお礼ってことで。同じ死と再生を司る神らしいけど、あんなやつが俺と同じだなんて思いたくもない。ああ、もう神ではないか」

 

 「そんなこと、できるんですか?」

「できるよ。あんた、さっきまでヘイストたちの力を借りて戦ってただろ?」

「ええ。はい」

 

 「あれと似たようなことをね。だからあんたには手伝ってもらう。特別に今回一度きりしか使えない力だから、そのつもりで」

「わかりました。なにを、したらよろしいのですか?」

 

 「ちょっとこっちに来て、おれの前に立って」

「はい」

私は言われた通りスーニア様の前に立った。

 

 スーニア様は私の顔をじっと見つめ……ニヤッと笑った。

「いい目をしてるね。あんたなら大丈夫」

そういってわたしのおでこ、眉と眉の間をのばした人差し指でツンとついた。

 

 あたたかい何かが、私の身体に広がっていく。

ヘイスト様たちの時とは違い、ゆっくりとゆっくりと。

「両手をひろげてごらん」

 

 広げた両手がポオッと光りだした。

「その光で、ユウリの全身を包んであげて」

「はい」

 

 わたしはユウリのそばに行き、手のひらをユウリに向け、光が全身にいきわたるよう動かした。

頭の先からつまさきまで。

そして、ユウリの姿は光のまゆに包まれた。

 

 みんなが見守る前で、光は一瞬輝きを増し、徐々に薄くなっていった。

 

 光が消えたベッドの上のユウリは、さっきと同じ姿勢で寝ていた……でも、ほほがうっすらとピンク色になっている。

「ユウリ!」

ユウリのお父様がベッドのユウリに声をかける。

 

 「ユウリ!」

わたしも声をかけた。

「ユウリ!」「ユウリ様!」

 

 様子を見ていた人たちも、つぎつぎと呼びかけていた。

「……ぅ」

「気がついたか!」

 

 ゆっくりと目を開け、何度かまばたきをする。

「あれ?どうしたの?みんなも、父様まで」

「よかっ、よかった、ユウリ」

ユウリのお父様が泣き崩れる。

 

 「父様?どうしたの?あ!それより、あいつは?イシュールを倒さないと……って、確かぼく、ユーリをかばおうとして刺され……え?」

「イシュールは、いなくなったわ」

 

 「いなく……じゃあ、倒せたの?倒せたんだね!」

「うん。ユウリがかばってくれたおかげで……倒すことができた。ありがとう、ユウリ」

「ぼくじゃないよ。ユーリが頑張ったから……ところで、ぼく、確かに刺されたと思うんだけど、全然痛くないんだ。ユーリのお父様たちが治癒魔法使ってくださったのかな?」

 

 「それは……」

わたしは返答に困った。

ちゃんと説明した方がいいのだろうけれど。

 

 「私が説明しよう」

涙がおさまったらしい、ユウリのお父様が片手をあげた。

「ユウリ。単刀直入に言おう。きみは、刺された時に、一度死んだ」

 

 「え!ぼく、死んだんですか?」

「もちろん、刺された直後は息があった。クラウディウスさんたちが必死に治癒魔法を施してくれたが、いかんせんかなりの深手で……出血が多くて命をおとしたんだ」

 

 ユウリは驚いた顔をしている。

それはそうだわ。

だれだって、一度死んだと聞かされたら驚くに決まっている。

 

 「じゃあ、だったら、ぼくはどうして」

「スノウクロア様とスーニア様が、救ってくださった」

「スノウクロア様が、ここにいらっしゃったのですか?」

 

 「私には姿が見えなかったが、ユーリが言葉を交わし、なにかを授かってユーリが術を施し、こうやって生き返ったというわけだ」

「スノウクロア様たちが……」

「あのね、なんでも『お礼』なんですって。イシュールを撃退した」

 

 「ねえユーリ、スノウクロア様たちって、まだここにいらっしゃるの?ぼく、お礼が言いたい」

「まだ、いらっしゃるわ。見守っていてくださったみたい……立てる?」

「うん。大丈夫」

 

 ベッドから起き出たユウリをともない、わたしは神たちの近くに行った。

「スノウクロア様、そしてスーニア様。ほんとうにありがとうございました」

「よいよい……頑張ったな、ふたりとも」

 

 「ありがとうございます!あ……でも」

「気になることでもあるのか?」

「あの……よろしかったのでしょうか?」

 

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