第11話

 どのくらいの時間がたったのだろう。

「どうだ。休息はとれたか?」

ふいにかけられた声で、目を覚ました。

 

 家よりもずっと快適な寝起き。

「おはようございます」

今が朝なのかはわからないけれど、私はベッドから出て、声をかけてくれたメールス様にあいさつをした。

 

 ベッドは、私が起きだすと最初からなかったかのように消えてしまった。

「また、休息の必要があれば自動的に出てくるようになっている」

神様の世界って、便利なのね。

 

 小石は、昨日置かれた場所から少しも動いていなかった。

何もしていないから、当たり前なんだけど。

まずは、これを動かすこと、なのよね。

 

 「一度、手で持ってみてもいいですか?」

「かまわぬ」

 

 石を手で持ってみる。

案外、すべすべしている。

重さも見た目どおりってところかしら。

 

 石を地面に置きなおす。

そして目をつぶって、頭の中で石の感触を思い出す。

想像の手をのばして、石をつかみあげる。

 

 確かに持った……と思った。

持ち上げて、移動させた。

 

 一連の動作を終えて目をあけると、石は微動だにしていなかった。

 

 このやり方では、だめなのかしら。

でもほかの方法、今は思いつかないし。

 

 二度、三度とくりかえす。

そのたびに残念な結果を目にする。

 

 持つのがだめなら、転がすのはどうだろう?

石の横にてのひらをあてる。

そのまま横にはらう。

 

 ……これも、だめ。

メールス様は、私をじっと見ているだけで、アドバイスはおろかダメ出しすらもしてくれない。

 

 もう一度チャレンジしようと、私は石の感触を思い描く。

こんどは、どうする?

 

 「わぁぁぁっ!た、たすけ……」

突然、叫び声が聞こえた。

「え?だれ?だれかいるの?」

 

 眼を開いて声がした方を見ると、だれかが魔物に襲われようとしていた。

あれは……ユウリ!

ユウリが魔物に?!

た、助けないと!

 

 このままじゃ、ユウリが!!!

 

 「ダメ───!ユウリ───!!」

なにか武器、武器になるもの。

「これでも、くらえ!」

 

 私は手にしていたの石を、魔物の頭めがけて投げつけた。

石は猛スピードで飛び、魔物の頭に命中し……その瞬間、姿を消してしまった。

ユウリとともに。

 

 「え?魔物は?それよりユウリは?」

 

 「ふぅん。まったくわけでは、なさそうね」

 

 メールス様のものではない声がした。

 

 「ヘイスト、乱暴ではないか」

「メールスのやりかたって、まだるっこしいんだもん。あんなんじゃ、いつまでたっても使えるようにならないわよ」

 

 「まだる……」

「この子の場合、荒療治の方が効果あるんじゃないの?最初に覚醒したときだって、魔物に襲わせたでしょ?ロケイースに夢を見させたって聞いたわ」

 

 「それはそうだが。いつ、どのように発動するかわからないんだぞ。暴走するかもしれぬのに。慎重にもなるさ」

「暴走したらしたで、あんたで対処できるでしょ?万一の時はあたしらに警報飛ばせばいいし」

「だが……」

 

 「それでも、どうにもならないときは、スノウクロア様が対処してくださるでしょうし」

「うぅむ……それはそうだが」

  

 もしかして、さっきの魔物って。

ヘイスト様が?

 

 「あ……の。さっきの魔物は?」

「あ、あれ?あれはあたしが見せた幻よ。リアルだったでしょ?」

 

 やっぱり、幻。

よかった……ユウリがほんとに襲われてたわけではないのね。

 

 「それより、これ、どうしたのよ?もしかして、あんたがこれ出してやったわけじゃないでしょうね?メールス」

ヘイスト様が指さした先に転がっていたのは……頭くらいの大きさのごつごつしただった。

 

 「わ、我が出したのは、こぶし半分ほどの丸い石だぞ」

「じゃあ、これは、あんたがやったことなのね、ユーリ」

 

 「ま、まさか」

「でも、あんたしか考えられないわよ。メールスが出したのは、丸い小石ひとつだけって言うし。でも、それは見当たらなくて。かわりにが転がっているとなると答えは一つ。ユーリが石を変異させたってこと」

 

 「石を動かすどころか、石を変異させたのか」

「でも、私が投げたのは、頭の中の想像の石で……」

そう。

ユウリが襲われてるのを見て、慌てて、本物の石を持っていると勘違いして想像の石を投げたのだ。

 

 ユウリを助けなくちゃ。

そのことで頭がいっぱいになって。

おなかの底が熱くなって。

 

 じんわりとした温かさが、左耳の後ろから体中に広がっていく。

 

 「ヘイストのお節介も、たまには役に立ちますのね」

また、違う声がした。

もうひとりの女神……大地神だわ。

 

 「うるさいわね、アイガータ。結果が出れば、それでいいのよ」

「幻覚で結果が出なかったら、どうされるおつもりでしたの?火獣でも出現させましたの?」

「その時はその時で、考えたわよ!そんなことより、あんた、何しに来たの?野次馬しに来たわけじゃないんでしょ?」

 

 「もちろんですわ。わたくし、あなたみたいにヒマではございませんもの。ときに、メールス?」

 「なんだ」

 

  「さきほどケアスオーノとスロオイアスとも話したのですが、わたくしたちもユーリの修練を手伝ったほうがよろしいんじゃないかしら?」

「アイガータたちも、か?」

 

 「ええ。ユーリが小石を岩に変異させたようですけど。それって自然界ではありえないことでしょう?ヘイストは火を自在に操りますけれど、火を雷に変化させることはできませんわ。わたくしも大地をつかさどる以上、地形を変化させることはできますが、そこに自在に植物を生やすことはできませんもの」

 



 

 


 

 

 

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