第3話

 妻はその後も毎月妊活をしていたが、俺たちの間に子どもができることはなかった。俺は健康だし、妻も何も問題がなかった。こういう夫婦の場合は、避妊をしなければ約半年程で80%が妊娠し、1年なら90%とさらに確率が高くなるらしい。俺たちになぜ子どもができないのかわからなかった。不妊治療もしたけど、結局はうまく行かなかった。


 三十五歳くらいになると、妻は精子バンクで精子を買って出産したいと言うようになった。白人男性の精子が欲しいそうだ。アジア人の男性だと相手がどんな顔かわからないが、白人だったら目が二重で鼻が高いなど、ある程度の外見は保証される。青い目の子どもだと困るから、目の色は茶色を選ぶと言っていた。正直言って俺はそんな子どもを育てる気にはなれなかった。


 妻は精神的におかしくなっていたと思う。俺の協力が足りないと責めるようになっていた。


「もう離婚しよう」

 俺は言った。

「嫌よ!聡史には子どものお父さんになってもらわないと!」

「嫌だよ…自分の子どもじゃないのに、かわいいと思えないよ」

「私の子どもだったらかわいいでしょ?」

 俺は首を振った。

「もう、やめない?こんな生活、全然楽しくないよ」

「じゃあ、私に相手が見つかるまで待って!見つかったら離婚しよう」


 妻はその後、新しいパートナーを探し始めた。出会いを求めて大企業で派遣として働くようになった。職場やネットを活用し、独身で、ある程度の学歴と身長、外見が揃った男性には自らアプローチをするようになっていた。妻はまだきれいだったから、相手はすぐに見つかったようだ。


「子どもができたら結婚するんだ!」妻はまるで小学生の子どもが虫でも捕まえようとしているかのように言った。

「ああ、そうなんだ」俺は呆れるしかなかった。


 俺は妻が男とデートしている間、位牌に向かってつぶやいた。


「俺はお前がいるからもう子どもはいらない。何でお前が生まれて来てくれなかったのかなぁ。ごめんな。あんな女が母親じゃなかったらなぁ…学生結婚でも全然よかったのに。子どもがいても、今の会社にしか入れなかったしな。せっかく働いて稼いでも、あの女が使っちゃうだけだし…何のために働いてんだかわかんねぇよ。あほらしい。俺は子どもだけ欲しい。奥さんはいらない。もう、一人でいいや。もし、ママと離婚したら、二人で暮らそうな」


 俺は笑いながら言った。そして、心の中で一人になったら犬でも飼おうと決めていた。


 妻は平日の夜も男と会うために出かけるようになった。いろんな人と関係を持ったりしたら、誰の子どもなのかわからないのではないかと疑問だったが、俺には関係なかった。

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