それはささやかな悪意のような

「いやいやいや、まさか先輩も学校に潜り込むなんて・・・」

「うん。ホントに凄いね・・・」

「いや!何褒めてるんです?あれって私の事を信用してないって事じゃないですか!メチャ不快です!で、なければもうストーカーですよ、蒼さんの」

ス、ストーカーって・・・

「何が『一日3回はカウンセリングルームに』ですか!聞いてなかったフリして、適当にやり過ごしましょ」

一二三さんはプリプリしながら、校舎の方に歩いて行った。

「ちょ、ちょっと待ってよ!やっぱり九国さんにはちゃんと・・・」

そう言いかけた時、視界の端に見慣れた姿を捉えた。

「あ・・・山岡さん」

彼女は私を冷ややかに一瞥すると、そのまま立ち去ろうとした。

「待って!あの・・・話を聞いて!」

そう呼びかけると、立ち止まりゆっくりと振り向いた。

「あの・・・前の事だけど、私・・・あなたの好きな人だったと知らなくて・・・」

山岡さんは聞こえるように深々とため息をつくと言った。

「もうそのことはいい」

「いいって・・・じゃあ、許してくれるって事?」

「そんな言い方されたら私が悪者みたいじゃない。もういいよ!」

そう吐き捨てるように言うと、彼女は歩いて行った。

「はあ、あの娘ですね。蒼さんに辛く当たるって言うグループの1人」

いつの間にか隣に来てた一二三さんが呆れたように言ったので、私は返事をする代わりに小さく頷いた。

入学当初は仲が良かった。

私と好みの物が似ていたことも有り、話しが苦手・・・俗に言う「コミュ障」の私にとって数少ない気楽に話せる人だった。

それなのに・・・

「でも、嫌いって言う割に何だかんだ言って蒼さんの事ずっと見てましたよ。変なの」

「そのくらい、私が嫌なのかもね」

「そうなのかな・・・ま、とにかく行きましょ。そろそろ授業も始まるし」

あ、そうだ!時間。

時計を見ると、もう5分でお昼休みが終わる。

私たちは慌てて教室に戻った。


久しぶりの高校生活で不安だったのはブランクによる勉強の遅れだったが、九国さんがしっかりと教えてくれてたお陰で、抵抗なく戻ることが出来ていた。

そのため授業もむしろ間が空いたことで、勉強という物を新鮮に見ることが出来るようになっていた。

そして、休み時間になるとやはり一二三さんは大人気だった。

すでに机の周りは女子に囲まれており、男子も割り込もうとしていたがそれがままならないくらいだったのだ。

九国さんがいるお陰で人が分散されているが、そうでなかったら一二三さんはクラスメイトの対応だけでエネルギーを持って行かれていただろう。

でも、どこか楽しそうな一二三さんを見ながら私はそっと立ち上がった。

いつも私とばかりで申し訳ない。

彼女ももしかしたら仲の良い子が出来るかも知れないのだ。

そう思い、一二三さんに気づかれないように教室を出た。

学校は当たり前だけど、何も変わっていない。

みんな楽しそうだ。

私は・・・以前学校に居たときと比べ、色んな事が変わった。

でも、その分気づいた事や得た物も多かった。

そんな事を思い、ホッと小さくため息をついたとき。

「あ、斎木さんだ」

背後でポツリと声が聞こえた。

この声は・・・

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