それは懐かしい暖かさのような

 学校に戻りたいという提案に、九国さんは顔を強ばらせた。

「お嬢様。それは承服出来かねます。今後は出来れば人目を避けて頂きたく」

「それは分かってる。でも・・・ずっとここに隠れてても、いつか見つかりそうな気がする。それに私が表に出てた方が雄大さんも姿を現しやすい気がする」

「それはそうですが。ただ、お嬢様を常時お守りするには・・・」

九国さんの言い分ももっともだ。

と、言うか正しい。

でも・・・私はどうしてももう一度雄大さんと話したかった。

屋敷に顔を出していたときの彼が、心の底から悪人だったとは思えない。

ものすごく変な言い方だが、自分を餌にすることで雄大さんと話せるのでは?と思っていたのだ。

あと、九国さんとの繋がりが深まり、安心感を得たせいだろうか。

私の中に以前の生活への渇望感が芽生えてきていた。

多少無茶をしてもきっと九国さんと一二三さんが守ってくれる。

そんな気持ちもあった。

九国さんは当然ながら難しい顔で天井をずっと見ていた。

変なこと言って困らせてしまった。

そんな後悔が浮かんできたその時。

「先輩。復学、ありじゃないです?」

一二三さんが場違いなまでの明るい口調で言った。

怪訝な顔をする九国さんに彼女は続けた。

「だって、確かに斎木さんの言うとおりここも必ずバレますよ。そうなると少人数のこの家よりも、開けた学校の方がむしろラビットも手を出しにくい。『木を隠すなら森の中』じゃないけど。クラスメイトから味方を作れば色々役立ちそうだし。どちらにせよ、私や先輩が常時守る事は変わらないわけだし。後・・・斎木さんの将来もありますしね」

「将来・・・」

九国さんはそうつぶやくと、さらに眉間に皺を寄せて今度は少し俯いた。

そうか・・・確かに今まで考えても居なかったけど、私は将来があるんだ。

あの夜以来、状況に流される事ばかり考えていたけど、ふと冷静になるとこのまま学校を退学になれば、将来はどうなるんだろう・・・

九国さんはそれからしばらく無言で考えていたが、やがて静かに顔を上げた。

「分かりました。E・A2にお嬢様の復学の件を進めるよう話をします。ただし、私が必ず何らかの形で常時お側に付きます。それで多少学校生活に不自由が生じても。そこはご理解頂けますでしょうか?」

「うん、それは大丈夫!」

「分かりました。では・・・」

そのやり取りから後は早かった。

そこから僅か2週間で私は再び、学校に戻ってきたのだ。

そして、一二三さんも転校生、しかも同じクラスになっている所にE・A2の力が垣間見えるような気がした。

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