第12話 積もる話をしました

 私たちは応接室を借りて、三人で話を始めた。


 落ち着いた感じの調度品が揃えられた素敵な部屋だった。


 イチさんという方がお茶を淹れてくれたが、私は何だか無性に喉が渇いていて、お水を頂くようお願いしたところ、たっぷりとお水も用意してくれた。


 少々はしたなかったが、私はお水を三杯ほど立て続けに飲み干してから、話を始めた。


「シエルさん、ソフィアはどうしたのかしら?」


 私は先ほどからソフィアの姿がないことが気になっていた。


「ソフィアはエドワードに嫁ぎました。エドワードは国王になっています。ソフィアは王妃となり、王女と王子を産んでいます」


 私は驚きを隠せなかった。ソフィアが私にシエルを譲ってくれようとでもしたのだろうか。


「それは驚いたわね。エドワードが王になったのはさて置き、まさかソフィアさんが。あなたたちは恋人同士だと思っていたのだけれど……」


「いいえ、それは違います。私はエドワードの素行を問題視したパルマ家から密令を受けて、学園に入学したのです。ソフィアとペアになるのは最も重要な使命でした」


 何てことかしら。二人の邪魔をしないよう努力していたのに。でも、ソフィアには受け入れられる話ではなかったはずだ。


「ソフィアは傷ついたのではなくて?」


 満面の笑顔で、いいパートナーに出会えてよかったと喜んでいたソフィアの顔が思い浮かんだ。


「はい、物凄く傷ついたはずです」


 アナスタシアが代わりに答えた。


 シエルが驚いてアナスタシアを見ている。


「アナさんはシエルさんのペア魔法のパートナーかしら?」


「はい、ソフィアの後釜でパートナーになりました。私からシエル様に申し込みました。もう十年になります」


 私は二人の関係に違和感を感じた。


「なぜ同級生なのにシエル様って呼んでいるの? お二人はご結婚されてはいないのかしら?」


「シエル様は私の雇い主なのです」


「部下ってこと? 十年間も?」


「はい、学園にいるときからですので、ちょうど十年です」


 シエル、悪いやつだ!


「シエルさん、女の子の気持ち、分かっているの!?」


 私はシエルを思わず睨んだ。


「ア、アナにはエルザ様の石化を解いた後に、結婚を申し込むつもりでしたっ」


 シエルが慌てて弁明した。


「シエル様っ! ご自分のお気持ちを偽ってはなりません!」


 一瞬びっくりして固まっていたアナスタシアが、我に返って叫んだ。


「いや、しかし……」


「イチさんに聞きましたっ。魔族は晩婚化が進んでいるらしく、二十六でも全然大丈夫だそうです。私、魔国でいい男をみつけますから、ご心配なくっ」


「どういうことなの? シエルさんには好きな女性がいらっしゃるの?」


 そんな女性はいなかったように思ったが、私が眠っていた間に好きな女性が現れたのであろうか。


「いえ、そんなことはない、です」


「ほら、私のことは好きではないのです」


「いや、そういうわけでは……」


 何だかシエルの歯切れが悪い。十年前の聡明で大人びた感じが無くなってしまっている気がする。


 シエルにもう少し色々と突っ込みたかったのだが、何だか先ほどから眠くて仕方がない……。


 まずい、意識が……


「あ、エルザ様っ、どうされましたかっ!」


「イチさんを呼んできますっ」

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