第20話 最初のボス

 そうして、二階は何もなく終わり三階はハムスターの量が増えていたけれど、先程と同様に対処した。

 四階にはモルモットがいて少々手こずった。なんとか対処したので無事だ。

 モルモットも、もふりたかったのだけれどね。このダンジョン、モンスターというよりもふもふが出てくる。

 だが、喋る意思は持っていないようだ。喋ることができるのなら説得することだってできるのに。命令するのもあまりいい気にはならないし。

 そんなこんなで、ついに五階へとやってきた。


「ここが五階だね」

「気を引き締めるんだぞ」

「了解!」


気を引き締めろとは言われたが、私は飛び出した。見つけてしまったからだ。

 とても、とても大きなものを……


「おい、あれって……」


ヴォルフがそれを見て言った。

 それとは、全長40〜45センチはありそうな巨大ネズミである。


「あ、あんなの見たことありませんわ!」


私も初めてだ。あんなに大きなネズミを見るのは。

 噛まれたら一瞬でアウトだと察しのつくあの歯。きっと、あのネズミは毒を持っているだろう。物語に出てくるモンスターはそういう特性を持っていたからな。

 私も詳しくは知らないのだが。

 ここを切り抜けないと先には進めない。

 慎重にいかなければ。

 そんなことを考えていたら、思いがけないことができた。


「分裂した、だと⁈」


そう、ライオスが言った通りネズミが一匹増えたのである。

 まさか、増えるとはなあ。

 一匹でも苦労しそうだと思っていたところだったというのに。


「ど、どうしよう⁈」

「今までと同じようにはできないか?」


ライオスに言われた。

 確かに今までの方法と同じにできるかもしれない。


「やってみるよ」


私は呼吸を整え


「『止まれ』」


と言った。

 しかし、私のスキルは通用しなかった。

 いや、正確に言うならば一匹は止まった。

 その一匹だけしか止まってくれなかったのだ。

 

 そのせいで……


「ぐあっ」


ライオスが噛まれてしまった。


「ライオス⁈」

「気にするな!危ないから集中しろ‼︎」


ライオスにそう言われたので私は集中することにした。

 ニコが駆け寄っているのも見えたので大丈夫だろう。


「セリ、お前の思う通りに動いてみろ」


ヴォルフはそう言ってくれた。

 そんな間に、また一匹増えていた。

 けれど、私は一つの突破口を思いついたのだ。成功するかは分からない。

 失敗してしまえばそこで終わる。

 一発勝負。そこにかけるしかない。


「ヴォルフ、駆け回って‼︎壁まで全速力で!」

「……そーいうことか!」


一度考えたみたいだが察してくれた。

 今からやろうとしていることは単純。

 三匹に増えたからこそ思いついた。


「うわあーー!!」


 私は威嚇するように声を出す。

 ヴォルフは全速力で、私の言ったとおりにしてくれている。

 私は落とされないようにしがみつく。

 ライオスとニコは避難している。

 というか、そちらに行かないようにさせているのだ。私が大声を出しているのにも意味はある。

 注目させるため。惹きつけるためだ。


 その時は、突然きた。

 壁にものすごい音で衝突する音がした。

 それは、ネズミたちがぶつかる音だった。

 二匹は頭をぶつけあい、もう一匹は壁にぶつかったのだ。

 巨大ネズミは消えていた。


 こんなに思い通りにいくとはな……

 思い通りにいってくれたのは嬉しいけれど、少し複雑だ。

 自分の力で動物を倒してしまったのだから。もふもふではないけれど、飼育員としては、少しねえ。


「セリナ、良かったな」

「セリナ様もヴォルフ様もお強いのですね!」


ライオスとニコが笑っている。

 

「うん、ありがとう。ヴォルフ、助かったよ」

「セリが考えてることが分かったからな」


ヴォルフが自慢げに言った。

 分かってくれて本当に助かった。

 

「ん?セリナ様がお二人に⁈」

「え?どういうこと?ってうわぁ⁈」


ニコがそう言うので隣を見ると、私と全く同じ姿のなにかがいた。


「なにこれ⁈えっ?二重に聞こえるし⁈」

「あれなんじゃね?あの巨大なやつのスキルが使えるようになったとかさ」


ヴォルフが言った。

 そういうことだったのか。

 私にそのスキルが宿ったということ?

 もしかして、倒すとスキルが宿るというシステム?

 

「それは……これから先もそうなるのではないか?ボスを一体倒すごとに誰かにスキルが宿る、ということなのでは?」


ライオスが顎に手を添えて言う。

 

「そうなったらわたくし達はもっと強くなれますわね!」


ニコも賛同した。

 これから先、どれだけ強いボスが出てくるのかは未知数である。

 しかし、頑張ればなんとかなる。そう思いたい。

 

「とりあえず休んで、また進もうか」


 私が言うと、賛成してくれたので休憩することとなった。

 


 

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