第17話 新たなる者

「本当に行くのか?」

「クエスト受けたからね!」


 ライオスはまだ気にしているようだ。

 ダンジョンの怖さを知っているからだろうな。ランクSになるまでどれだけの年月をかけたのかは私には分からない。

 だが、大変だったということは理解しているつもりだ。それでも、私の好奇心は止まらない。

 この世界のことを隅々まで知りたい。そのためにはダンジョンだって攻略したいのだ。


「危なかったら俺を頼ってくれ」

「うん。頼りにしてる」


 私は笑って言った。


「もちろんヴォルフも頼りにしてるからね」


 私はヴォルフの背を優しく撫でる。


「おう」


 ヴォルフは頷く。

 こうして会話をしている間も進んでいる。

 出る時に地図をもらったのでそれを見ながらだ。距離的には今日中にはつけそうだ。

 

 しばらく歩いていると、ネコ耳が生えている女の子を見つけた。

 スライムに囲まれて困っているみたいである。


「ライオス、あれ……」


 私はまだ気づいていなさそうだったライオスに、声をかけた。

 すると、一瞬で動き出し剣を鞘から抜いてスライムを倒していった。

 スライムは核を壊せば消えるらしい。

 私もヴォルフから降りて駆け寄った。


「なにがあったの⁈」


 私はネコ耳を生やした女の子に聞く。

 女の子は白髪のロングヘアーで、服装は動きづらそうなふわふわの丈の長いドレスだ。


「な、仲間に置いていかれましたの……お前は使えないやつだって……それで落ち込んでいたら……う、うわああーん!」


 女の子は泣きじゃくった。

 仲間に置いていかれた、か。それは、十分泣く理由となる。

 一緒に旅をしていたのだろう。しかし、使えないと言って置いていくのは、許されることではない。

 しかも、こんなに可愛い子を。しゃがんでいるからちゃんとした身長は分からないけれど、私の腰までの高さしかない。

 この子を置いていくだなんて信じられない。

 少しの間泣いたらすっきりしたようで、女の子が顔を上げ


「お見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございません……」


 と言った。


「謝ることないよ。ね、名前教えてくれるかな?」

わたくしはニコと申します。ネコの獣人ですわ。先程は助けていただきありがとうございます」


 ニコはライオスにお辞儀をした。


「無事だったのなら良かった」


 ライオスは微笑んだ。

 その時、ニコの目がハートになった。物理的にではなく精神的なものだ。顔も赤くなっている。

 これは、惚れたかな。

 まあ、自分を助けてくれた相手だし、かっこいいからなあ。

 

「あ、あの、お名前は……」

「俺はライオスという」

「ライオス様……」


 ニコは名前を大事に呟いた。


「ニコはどこに行く予定だったの?あっ、私はセリナ。こっちがヴォルフね」

「雑に紹介すんなよ!」


 ヴォルフのツッコミが入った。

 最近よくしてくれるのでありがたい。


「セリナ様とヴォルフ様ですね。覚えましたわ。わたくしは、わたくし達はこの先のダンジョンに向かうはずだったのです」


 一度、話すのをやめた。

 俯いて、深呼吸をして前を見て話し始める。


「ですが、道中で言い争いになってしまい、わたくしだけが仲間から外されました。仲間だと、そう思っていたのに、お荷物だと思われていたのは悲しいですわね……」


 ニコは泣きそうな声を出している。

 それほど、悲しかったのだ。自分が大切にしているものを否定されるという気持ちは痛いほど分かる。

 かといって、その気持ちを全て分かってあげることはできない。

 私にできるのは、黙って話を聞くぐらいだ。


わたくしという回復役がいなくなった仲間のことが心配ですわ」


 置いていかれたというのに、心配までしている。

 なんて優しい子なのだろう。

 

「あれ、今、回復役って言った?」

「ええ。わたくし、ヒーリングというスキルを持っていまして、腕が切り離されていてもくっつける程度ならできますわ。足もですけれど」


 さらっとすごいことを言われたような?

 切り離されても治せるってすごいことでは?それなのに使えないって言ったの?

 えっ、ニコの元仲間ってどれほどの実力があるの?

 他に回復役がいなくてもいいってことなのか、自分達はケガをしないと力を過信しているだけなのか……

 どちらにせよ、なんてバカなことをしたのかと少し同情する。

 ニコの優しさを踏み躙って大変な間に合っていないといいけれどな。

 それはそれで因果応報ってやつなのかなあ。

 そうだ、一つ思いついた。


「ねえニコ。私達と一緒に来ない?回復してくれる子がいると心強いからさ」


 私はニコに向かって言った。

 だってそんなすごいスキルを持っている子にいてほしい。

 正直、回復薬だけでは不安だし。


「よろしいのですか?」

「うん。それに……」


 私はニコに近づき


「ライオスと仲良くなれるよ」


 と言った。

 すると、ニコは耳をピンっと立たせ


「一緒に行きますわ!」


 と、私の手を握ってきた。

 ライオス効果だな。恋心を利用するみたいで悪いけれど。

 来てくれるならそれは嬉しい。


「ふふっ、これからよろしくね」

「よろしく」

「よろしくな」


 私が言うと、ライオスとヴォルフも合わせて言った。

 ニコは笑った。

 泣いているところしか見ていなかったので、笑えるようになって良かったなと私は安心した。

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