第35話

 いきなりアイリスがベラルーシにはアイドルになれないと言って来た。

 続けて、セシリアもレナが歌が下手過ぎて話しにならないと言う話しをする。

 

 「練習しても駄目そうなの?」

 「アレは論外だ! プロデューサーも見て聞いたら分かる」


 「レナの方も?」

 「駄目ですね。

  ずっと練習をしてたのに、音程もリズムも全く駄目でした」


 二人に教育を任せるのが早かったとかそういう次元の話しではなさそう。

 一度見てみるまでは何も分からないし、二人にはベラルーシとレナを連れて来るよう頼んだ。


 「マリルゥが教えていたリリィはどんな感じ?」

 「順調よ。

  戦闘面だけで見れば、山にあるダンジョンでも一人で行っても平気なくらいよ」


 「それは凄いな。

  アイドルの練習もやってみたのかな?」

 「そっちも問題ない。

  と言うか、そっちに関しては私の方が学ばせて貰ってるわ。

  だって、あの子アイドルに真剣なんだもん」


 マリルゥがそんな風に言うなんて、よっぽどな気がする。

 それならと思い、マリルゥにもリリィを連れて来て貰う事にした。

 僕はアサギに部屋へ来るようにと通信で伝える。


 しばらくして、全揃ったので、まずはベラルーシの歌から聞いてみる事にする。

 アイリスが教えたであろう可愛らしい歌を口ずさみながら、華麗に踊る。

 手足も長いし、ダンスに関しては凄くいいんじゃないか?


 問題は歌声だけど、だんだん本人も恥ずかしくなって来たのか、トーンと一緒に声も小さくなっていった。

 選曲が悪いのかもしれないし、可愛く見せようと言う努力が逆に足を引っ張っているのかもしれないな。


 次にレナにも歌を披露してもらう。

 セシリアの言っていた様に音程もリズムもめちゃくちゃだった。

 でも、振り付けはちゃんと出来ている。

 音程は兎も角、なんで歌の方だけリズムが狂うんだ?


 最後にリリィにも同じように歌って貰う。

 トントントンと軽くリズムを取った後、衝撃が走った。

 カチッとスイッチを切り替えたみたいに、普通の少女からアイドルへと変わった。

 

 声の通りもよく、振り付けも軽やかで華麗に舞い、見惚れてしまう。

 そして、何よりも表現力が高い。

 リリィが歌い終わると、みんな拍手をしていた。


 「リリィは言う事なしだね。

  ベラルーシには選曲を変えて練習してみよう。

  レナはじっくり時間を掛けて伸ばせるところをのばして行こうか」


 折角なので、城にある広いスペースを使ってステージを召喚する。

 練習用のスタジオみたいな感じにしたので、大きな音を出しても外に音が漏れなくなっている。


 リリィは練習する必要は無さそうだけど、本人がやりたいと言ったので、マリルゥも一緒に参加する事になった。

 

 ベラルーシとアイリスの練習を見てみると、案の定可愛くみせる為の練習を行っている。

 そして、アイリスの振り付けはキレがあって跳ねたりする可愛らしい動きが多い。

 高身長のベラルーシが同じ事をしてもキレもないし、間延びしてしまうから高く飛んだ李跳ねたりも出来ない。

 まあ、身長差を考慮していなかった僕も悪いかな。


 なので、振り付けは同じでも可愛らしさよりも、格好良さとセクシーを全面に出していく様にアサギと一緒になってアドバイスをしていく。

 アサギは舞いも少し出来るらしく、踊って動きで伝えたりして、だんだん良くなっている感じがしてきた。


 歌に関しても、アイリスと比べるとかなりキーが低いので、1オクターブ下げて歌って貰ったりして、試してみる。

 これならいっその事、ラップとかやってみるのもいいんじゃないかな。

 そう思ってはみたものの、ラップやレゲエとかR&Bの事はあまり知らない。

 なので、アゲハに頼んでみると、いくつか選曲して持って来てくれた。

 キシンが転生する前に居た世界で流行っていた曲をこの世界の言語に書き換えて録音したものらしい。


 聞いて見ると格好いい感じの曲が流れる。

 アイリスとベラルーシも気に入った様で、しばらくこの録音データを使って練習するように頼んだ。


 レナの方も様子を見に行く。

 ひたすら振り付けは完璧だけど、歌がずれたり音もよく外す。

 僕から見てもどうすればいいのかわからないな……。


 「レナさん、唄っている時に、色々な事考えているんじゃないですか?」

 「うん、ちょっとだけ」


 アサギのアドバイスに成程と思ったけど、打開策は見つからない。

 なので、レナの考えている事を聞く事から始めた。

 しかし……。


 「傷……病、夢、幻想、儚い、愛情、憎悪、獣、血、骨、抵抗、抗う」


 レナの考えている事がなんなのか分からない。

 そして、こんな事考えていたらリズムがずれるのも納得だ。

 振り付けの方は体が覚えるくらい練習したのだと考えるとやる気はあるみたいだし、なんとかして歌も唄える様にしてあげたい。


 「メッセージ性の強い曲ならイメージに入り込んで余計な事を考えなく出来るかもしれませんね」

 「それじゃあ、試してみるか」


 レナにはアイリスとセシリアの作った曲を覚えて貰い、それをセシリアと合わせて唄って貰った。

 少し良くなった気がするけど、感情移入していないせいか、あまりよくない。

 そこで、僕の居た世界で流行ったアニメソングなどを聞かせてみると、レナの反応に変化があった。


 反応があったのはやっぱり独特な世界観の曲で、自分から好きな曲を選んで覚えてくれた。

 すると、真面に歌が唄えるようになる。

 かなり個性的な歌に縛られてしまうけど、悪くない。


 なので、今後は自分で作詩して貰って、表現力の高いリリィに作曲をしてもらうと提案した。

 一応、気に入った音楽をアゲハに録音してもらって、いつでも聞けるようにレコーダも付けて渡した。


 リリィとマリルゥの様子も見に来たけど、何一つ問題が無い。

 問題点としてはまだ戦闘に慣れていない事かな。


 「コゼットさん、確か新しくグループを作ってアイドル達だけでライブを行える様になったんですよね?」

 「そうだけど、グループをどうするのかまだ迷っているんだ」


 「それなら、ダンジョンに行かないグループを作ってみませんか?」

 「ダンジョンに行かないグループか。

  どういうメンバーにするつもり?」


 「私と、リリィさんと、アゲハさんなんてどうですか?」

 

 ん-。

 確かに、リリィを無理に戦闘メンバーに加える必要は無さそうだし、それもいいかもしれないな。

 それにしても、アゲハか……キシン族はたぶんアイドルにはなれないと思うけど、一応試してみるか。


 アゲハに契約書を渡してサインしてもらう……。

 やっぱり駄目だった。

 ん? 契約書のサインは凄い長い名前が書かれている。

 型番か何かだろうし、一応本名って事かな?


 でも、待てよ?

 試しにアゲハ名義でサインをして貰うと、アイドルとして契約が出来てしまった。

 それじゃあ、早速のいつもの能力の付与とマスコットの能力を決める。


 能力はアイリスと同じ魔力操作、マスコットにはレナと同じ魔力補給を着ける。

 アゲハに魔法を使ってみる様に伝えると、両手で狙いを定めて魔法を放つ事が出来た。


 アゲハの魔法はよく分からないけど、真っ黒で四角い箱が宙に浮いている。

 アゲハの意思で動かせる様子で、攻撃命令をだすと、レーザーみたいな攻撃を放った。

 属性は分からないけど、召喚魔法って事になるのかな?

 

 アゲハもアイドルになれた事だし、アサギの言っていたグループも組んで見る。

 特に変わった様子はないけど、アサギからメンバーの居場所を感じ取れると教えて貰った。

 リーダーは勿論アサギで、グループを組んだ事はリリィにも伝えた。


 これで長期間僕がファーブルを離れても、残ったメンバーでライブ活動をする事が出来るようになった。

 僕もまだまだ忙しいし、もう一つグループを作っていてもいいかもしれないな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る