第4話

「おっ、ここだな」



 目的地は意外と近かった。そこまで広さを感じさせない林だったが、昼間だというのに薄暗く、木々の隙間から木漏れ日はあまり入らないようなところだった。



「昼でこの暗さだったら、夕方はもっと暗いだろ。よくお子様はここを通ろうなんて思ったなぁ」


「確かに、そんなに木々が密集しているわけでもないのにかなり暗いですよね」



 それぞれに感想を漏らし、まずは林沿いに歩いてみることにした。左手の道はよく見ると行き止まりで柵がしてあったので、右手の道を歩く。大体三分ほど歩けば林は住宅街になり、どうやらこの道が通常の通学路のようで、飛び出し注意の看板などがいくつか見受けられた。

 とりあえずは本来であれば被害者が歩むはずであった通学路を歩いてみる。住宅街の中を抜け、大きな通りにまで出てくるのには大人の足でも程々に時間がかかる。そこから、被害者の家の方面に歩いて行く途中に、被害者が失踪したという路地があった。



「ここが現場か」


「大人が通るには少し狭いですが、子供なら十分に通り抜けられますね。抜けてみますか?」



 麻倉の問いに頷いた嘉内は、路地に足を踏み入れた。大人だと普通に歩くのがやっとな通路だ。通路の先はそれなりに向こうで、途中横に抜けれそうな道もない。やはり二人のうち一人を連れ去り、目撃されないままにこの場を去ると言うのは人間が行うには難しい犯行のようだ。時折肩をぶつけながらも通路を抜ければ、その先には田んぼが広がっていた。



「この辺りで田んぼなんて珍しいな」


「そうですね。この辺結構都会だと思ってたんですけど……。あ、あそこがさっきの林ですね」



 麻倉が指差した方を見れば、先ほど見た林が畦道あぜみちの先にある。住宅街を通って大きく迂回してこの場所まで来たが、林を抜けて畦道を通り抜ければ、五分から十分ほどは時間短縮になっただろう。



「なるほどなぁ、お子様があの林を抜けたくなる気持ちわからんでもないな」


「かなりの近道ですからね。そりゃあ子供だって楽して帰りたいでしょうし」



 路地から林へ、子供達が通った道を辿る。

 田んぼの間にある畦道には、特に気になるものなどは見受けられない。ここに地蔵の一つでもあれば、それが原因かと調査できるが、当然ながらそんなものすらもない。

 しばし畦道を歩き、辿り着いた林は先ほど学校側で見た時よりもなぜだかより薄暗く感じた。



「……やっぱり、原因は林の中か?」


「ここまで特に気になるものもなかったですしね。入りますか?」


「うーん、私有地だったら不法侵入になるよな? ここの所有者誰か調べられるか?」


「確認します」



 麻倉が確認の電話をする間、嘉内はとりあえずは林に入らず周辺を歩き回る。林の中は鬱蒼としていて、ほとんど手入れがされていないように感じる。畦道近くに獣道のようになっているところを確認し、子供達が日常的にここの林を通っているのだろうということが察せられた。


 少ないながらも日常的に利用しているようなところで、十年に一度のスパンでしか失踪が起こってないのは何故だろうか。理性もない怪異であればわざわざ十年に一度のスパンを守らなくてもいいだろう。となると人為的な意図が絡んでいる可能性が高い。考えられるのは子供を生贄にしているという説が濃厚だろうか。それなら周期が決まっているのにも納得できる。だが、宮内庁の調査で神関連の案件ではないということが確定している。となると何に対しての生贄か、嘉内がそう思考を巡らせていると、通話が終わった麻倉から声がかかる。



「嘉内さん、わかりましたよ。ここの林と田んぼは同一の所有者でした。近所にお住まいらしいので立ち入りの許可取りに行きましょう」


「あぁ、そうだな」



 元来た道を戻る麻倉の後を追うべく、嘉内も林に背を向け歩みを進める。一瞬、背後から視線を感じたような気がして振り返るも、当然ながら誰もいない。



「どうかしました?」


「……いや、なんでもない。行こう」



 麻倉の問いに緩く首を振った嘉内は、僅かながらの気味の悪さを胸に抱きながら林を後にした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る