第27話 世界の歪み

「お帰り皆。よく帰ってきたね」


 帰ってきたルフ達に村長や女性達に囲まれて生還を喜ばれた。男達は誇らしげにルフ達の活躍を言い、ルフは心が恥ずかしさでくすぐったく感じた。ノマール祭の為に保管されていたであろう赤い金属を、使われた手を彫刻した祭壇の上に村長は皆で獲得したコアを置く。すると、コアは暖かな光を放ち、まさしくルフ達が見た太陽の映像と似ている光景にやはり、ケラー教は何かしら太陽について知っているとルフは確信した。


 昨日と同じく広場にはご馳走が並んでいた。ベルやソフィアは女性達と料理や裁縫のお話をしていたり、アランは男達と武器について話していたり、ローは子供達と遊んでいる。それぞれで楽しんでいる姿が見られてルフは嬉しくて口角が上がる。


「ルフくん。ちょっといいかな」


「うん、大丈夫だよ」


 村長に呼ばれたので、もしかして太陽についてかなと思い、村長の元へと行く。村長は近づいたルフを見る。


「ここじゃちょっと話しにくい内容だから、あそこの物陰で話してもいいかな」


「そうだね。俺は大丈夫だ」


 村長は申し訳なさそうに眉を下げて言う。確かに太陽についての資料は村長だけが受け継いできたものだと考えると、妥当だと思ったルフはコクリと頷くと、言われた物陰へと行く。祭りの騒がしさが遠くから聞こえてくる。薄暗く鼻の奥が痛くなる空気の冷たさは、誰も知らない見たこともない終わりが見えない太陽を探す自分の立ち位置を再確認させるようで居心地が悪かった。


「まずはノエーマ祭の準備に手伝ってくれてありがとう。君達が機械のコアを取りに行っている間に、私も資料を漁ったよ。そしたら、可笑しなことに気付いたんだ」


「可笑しなこと?」


「実はノエーマ祭の一部の資料が盗まれていた。それだけじゃない。所々引き抜かれていた。それが全て太陽に関わるものだったのだよ」


「えっ?」


 村長の言葉に思わず驚愕の声をあげてしまう。自分達が探し求めていた太陽の資料だけ引き抜かれているなんてことあるのだろうか。まるで誰かが意図的に太陽の事を隠しているようだ。せっかく掴めたかもしれない情報なのに、ここにきてまたしても空振りだなんてとルフは落ち込み、顔を俯かせてしまう。


「でも、処分し忘れていたのかは分からないけど、ノエーマ祭の成り立ちと太陽の行き方みたいなのは見つかったよ」


「本当ですか!」


「あぁ、念のために文字で書いたのだが、アラン以外読めないだろうからこの手紙はアランに渡すといいよ」


 そう言い、村長は手紙をルフに渡す。ルフは大事そうに受け取るのを見ると、村長は説明をし始める。


「まずはノエーマ祭の成り立ちについて話そうか。どうやらノマール祭はある一族との交流が始まりとされている。その一族というのがオーケアヌス族と言うらしい。彼らはどことなく現れて資源や技術を教えていた。その感謝としてノエーマ祭を開いたらしい。ちなみに彼らはわたし達のことをマニュス族と呼んでいたらしい。ただ何故か突然に彼らは来なくなり、祭りだけが残った状態が今ってことだね。ちなみに、太陽を教えたとされるのはオーケアヌス族と伝えられているよ」


「なるほど、オーケアヌス族が太陽を教えてくれたんだね」


 ルフは聞いて憶測を立て始める。恐らくケラー教が使う技術はオーケアヌス族から伝えられたことなのだろう。恐らく自分達イグニス教はオーケアヌス族と会っていない人達の集まりなのかもしれない。だから、太陽を知らずに、技術も引き継がなかった。にしても何故オーケアヌス族は来なくなったのだろう。そして、何処から来ていたのだろう。やはり謎が未だ残っている。太陽の資料を盗んだ人を見つけて話せたならば、目的に近づくのに生きてるすら分からない。もどかしい気持ちが顔を覗かせていた。


「そうだね。オーケアヌス族とは会ったことないけど、自分達の生活に深く関わっていると考えると、とてもありがたい存在だね。次に太陽に行く方法だけど、北極星を目指すといい。すると、太陽に続く道が照らされるとか」


「北極星か。何処まで歩いたらいいかは書かれてないんだよね」


「すまないが、書かれていなかった。これ以上は太陽について分かることは出来なかったよ」


「いえ、調べてくれてありがとう。とても助かった」


「いや、気にしないでくれ。これからも太陽探し頑張ってね」


 ルフは深々と村長に頭を下げてお礼を言うと、村長は気にするなと言いながら祭りに戻ろうかと促す。二人が戻ると、もう祭りは終盤になっていたようで、村人はまだらになっていた。ルフを待っていたベル達が気が付くと近づいてくる。


「ルフ、村長さんとなに話していたのよ」


「太陽についてだよ。祭りはどうだった?」


「それなら呼んでくれたらよかったのに。いけずだね」


「ごめん、皆楽しそうに話していたからだと思うよ。あっ、これ村長さんからアランにだって」


「あぁ、ありがとう」


 ベルが不満そうに聞いて、ソフィアはルフの横腹を肘で突いてくるので苦笑いを浮かべながら、謝りつつ村長から貰った手紙をアランに渡した。アランは受け取ると胸ポケットにしまう。よく見るとローがいないことにルフは気が付く。


「ローはどうした?」


「ローちゃんなら眠たくなって先に家に帰ったよ」


 ルフの問いにソフィアが答えた。確かにもう遅い時間だ。幼いローが眠くなるのも無理はないよなと思った。


「君達もそろそろ寝た方がいいね。片づけとかはわたし達大人に任せなさい」


「そうね。もうアタシは眠いわ」


「明日のこともあるし、寝ようか。おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 村長とベル達にお別れを告げて、自分達が寝る家へと帰っていく。家に帰るとローが布団の中で寝ていたので、起こさないようにルフは自分の布団に入り瞼を閉じて眠った。


 ルフが寝たのを確認すると、アランは村長から貰った手紙を読み始める。アランは読み進めるとある分に目が止まり、動きが止まった。


「嘘だろ……」


 アランの心の底から言ったその言葉は、虚しく夜の中へと溶けていった。

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