第24話 世界の歪み

「アランからしたら、懐かしいじゃないかな?」


「そうだな。懐かしい。この水汲みもよくやらされた」


 水汲みへと向かったルフとアランは鉄のタンクを持ち、川から流れる水を汲んでいく。川はいつも薄く氷を張っているから叩き割るのだが、ルフはその作業が好きだった。だから、よく故郷でも水汲みをしていたのだが、汲む時には鉄のバケツだったが、ノワル村では違う。鉄のタンクに何やらホースがついていて、それを川につけると自分で汲んでもらえるから、冷たい水に手を突っ込まなくていいし、一度に沢山の水を汲めるのがいいなと感じた。アランは慣れた手つきでボタンを止めると二つとも水が満杯になったようで背負うとバケツ以上に重い。ルフがよろめきそうになっているの心配そうに見るアランに、ルフは笑みを見せる。


「大丈夫。思ったより重たかっただけだから」


「そうか。無理はするなよ」


 アランのさりげない気遣いがルフは好きだ。ベルが熱を出した時もそうだが、彼は冷静だけど、冷たいわけではない。ちゃんと心が暖かい人だ。だから、村人の人も暖かく迎えてくれたのだろう。そう思うと以前言っていたアランの父に会えたならいいのになと思う。生きている保証はないとはいえ、きっと会えずに終わったらアランは未練を抱えたまま生きていかなきゃいけないと考えるとルフは自分のように悲しくて苦しく感じた。せっかくアランの故郷に来たのだから、アランの父についてを聞いてみたらいいかもと思っていると、美味しそうな匂いが漂い始めた。村が近づいて来たのだろうと分かると、ルフのお腹の虫が鳴いている。それを聞いたアランはクスリと可笑しそうに笑う。


「久しぶりのご馳走だから待ち遠しいな。早く帰って食べようか」


「う、うん! アランも久しぶりの故郷のご飯だしな。俺のお腹ペコペコだよ」


 お腹の音を聞かれて恥ずかしく思うルフは、若干顔を赤くしながらも早く村に帰ろうと言い駆け足になっていく。後を追うようにアランの足並みも早くなっていけば、いつの間にかどちらが早く着くかの競争になっていった。白い息を吐きながら歩く道はとても輝いていて綺麗に見えたのは勘違いではないだろう。そう、ルフは信じたかった。


「おかえり。ルフくん。アランくん」


 子供達の面倒を見ていたローが気付いたようで、ルフとアランの方を見ながら言う。子供達も真似してか、おかえりと声を揃えて言う。すっかり村の子供達と打ち解け合っている様子にルフもアランも微笑ましそうにしていた。


「ただいまロー。村の友達とは仲良くなったようだな」


「うん、ぼくと同じ年の子あまり見かけないから、とても嬉しい。ただ絵本の絵は分かっても文字は分からないから、逆に読み聞かせてもらってた」


「イグニスでは確か偉い身分の人しか文字習わないし、オレのところはオーケアヌス語を使うしな」


「オーケアヌス語? マニュス語じゃないのか?」


 ローは見せられていたであろう絵本をルフに渡すと確かに絵の横に、見たことのない文字が書かれている。アランは懐かしいなと言いながら、聞き覚えのない言語を言うので、ルフは聞き返した。


「あぁ、ケラー教では小さな頃から話すのはマニュス語だが、文字はオーケアヌス語という古代文字を習うんだ。他にも鉄の扱い方や、電気の扱い方とか男女身分問わずに教わる。この絵本は電気の成り立ちを子供にも分かるように書かれた教科書みたいなもんだ」


「へー、そうなんだ。すごいな。俺は文字書けないから今度ベルやアランに教えてもらおうかな」


「ぼくも教わりたい! 電気の使い方とか知りたい!」


「いいが、電気は下手したら感電死するから弱いものから慣れていこうな」


 アランはローの頭を撫でると、ローは嬉しそうに目を細める。ローのことは皆末っ子の感覚であり、つい甘やかせることが多々ある。村にはローと同い年や年下の子がいるから、いい刺激になったのではとルフは感じていた。暫くすると村人の女性達やベル、ソフィアが色とりどりの見たことのない料理を運んできた。村人皆で料理の周りに座ると村長の男は立ち上がり、話始める。


「今回はアランの帰還とその仲間達との出会いを祝福して乾杯!」


「乾杯!」


 掲げられる綺麗な彫りが施された金属のコップを掲げて出会いを祝う。甲高い金属の音が響き渡り、歌や踊りを見ながら、美味しいご馳走を舌鼓をする。ノワル村のことや、ケラー教についてを聞きたり、アラン以外の四人は故郷についてや旅で寄った村についてやイグニス教のことを語る。楽しい時間を過ごしている途中で村長は思い出したように五人に話しかける。


「そういえば明日ノエーマ祭を開催するのだが、もし良ければ参加しないか?」


「あぁ、そうか。もうそんな時期か」


「ノエーマ祭って?」


「ノエーマ祭はケラー教にとって大事な祭りなんだ。機械からコアを奪い、太陽に見立てて収穫できた事への感謝を捧げるのだ」


「太陽だって!」


 村長から太陽の話題が出るとは思わずルフは驚きで大きな声を出してしまう。村長はルフ達の反応に目をまん丸にしているので、ルフは落ち着くために一回深呼吸をして村長に問いかける。


「ごめんなさい。実は俺らは太陽を探す旅をしているんだ。まさかここで太陽の単語が出るとは思わなかった」


「なるほど……。わたしは前の村長つまりアランの父からノマール祭を教えられたのだ。最低限のことしか聞いていないから、何故コアを太陽に見立てるかは分からない。もしかしたら、ノエーマ祭になにかしらヒントがあるかもしれない。わたしも何かないか探してみるよ」


「ありがとうございます」


 ルフの言葉にうーんと悩まし気に村長は顎を右手に触りながら考える。どうやら、前村長つまり前村長から詳細までは聞いていないらしい。申し訳なさそうにする村長に対して気にしないでくれとばかりに手を振るルフに、調べてみようと言ってくれたのでルフは頭を深々と下げてお礼を言う。その様子に村長は優し気な笑みを浮かべる。もしかしたら祭りの際に太陽の在処を知ることができるかもしれない。高まる期待を胸に客人用の家で眠ることとなった。

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