第12話 異端な医者

「アラン、大変だ。ベルが熱を出した」


「なんだって」


「ここらで近い村ってどこかな」


「……前行った村だと8日かかるぞ。川沿いにも村はなかった」


「そんな! 8日もかかっていたら熱が悪化してしまう」


 ルフの言葉には同意なのか珍しく眉間に皺を寄せて腕を組み考える。8日も放置していたら最悪死んでしまう可能性がある。かといって、近くに村はない。


「とりあえずイエラーを食べさせよう。多少の解熱作用があったはずだ。水も飲ませなくては。もし、食べれるようだったらブカのスープ飲むか聞いてくれ」


「うん! 分かった。イエラーと水を持っていくよ」


 アランは先が赤く白い分厚い棘のついたイエラーをナイフで剥いていくと透明な果肉が姿を現した。それを食べやすいように一口サイズに十個ほど切っていき、鉄の器に入れた。ルフはアランが汲んでくれていた水をコップに注いで、アランが切ってくれたイエラーの器と一緒にベルの元へと運んでいく。


「ベル。入るよ」


 ベルは返事をするのがしんどいのかなかったが、ルフはテントの中へと入った。ベルの隣に座ればアランが切ってくれたイエラーをスプーンで掬って差し出す。


「ほら、イエラーの葉肉だよ。多少解熱作用があるから食べてみな」


 するとベルはゆっくりと口を開いてイエラーの葉肉を食べた。あっさりとしていながら、みずみずしく冷えた感触にベルは心地よさを感じていた。


「ここからだと村ないのでしょ。いいわよアタイを置いて行っても」


「えっ! やだよ!」


「でも、アタイ荷物でしょ。どうせ助からないなら置いていきなさい」


「……まだ希望はあるぞ」


「えっ! アラン!」


 二人の話が聞こえたのかお玉を持ったままアランが顔を覗かせた。突然の行動に二人は固まったままだが、アランは気にせずに続けた。


「噂だがさすらいの医者がいるらしい。そいつに賭ける選択肢がある」


「どこにいるかは分かるの?」


「前の村でここら辺にいると聞いた。そう遠くはないだろう」


 その言葉を聞き一筋の希望が見えた。もし医者を見つけることが出来るならばベルが助かる可能性が高い。ルフが賛同しようとしたがベルが口を開いた。


「待ちなさいよその医者もタダじゃないでしょ」


「食料を要求されるだろうな」


「……貴重な食料よ?」


「ルフにはベルが必要なんだろ。それにオマエがいないと村に入ることもままならない」


「……そう、好きにすれば」


「そうする。ルフご飯を食べたら出発するぞ」


「う、うん!ベル。朝ごはんが終わるまで寝ていてね」


 話は終わりだだと判断したアランはテントから出ていく。ルフも多く眠らせるようにする為、笑みを浮かべながらテントを後にする。静かになったテントで悩まし気な表情でベルはまだあるイエラーと水を見つめた。そして重たい身体を起こしてイエラーをまた一口食べる。


「……アイツも気が効くじゃない」


 何処か嬉しそうな声で綺麗に切られたイエラーを完食したのであった。

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