【SS】終末の大通りを黒猫が歩く

モルフェ

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男「お、黒猫だ」


黒猫「……」


男「そんなとこにいると、危ないぞ」


黒猫「にゃーん」


男「チッチッチ」


黒猫「にゃーん」


男「あ、魚肉ソーセージがあったな」ゴソゴソ


黒猫「……」


男「ほれ、こっち来いこっち来い」


黒猫「にゃーん」トコトコ




男「ほら、こっちこっち」


黒猫「にゃーん」トコトコ


男「ん、ここなら安全」


黒猫「……」モグモグ


男「可愛いなあ」


黒猫「……」モグモグ


男「お前、野良か?」


黒猫「……」モグモグ


男「首輪してないしなあ」




黒猫「にゃ」


男「あ、そう、バイバイ」


黒猫「……」トコトコ


男「明日も持ってきやるよー」


黒猫「……」トコトコ


男「……」


男「野良っぽい割には毛並みはよかったなあ」


男「……」


男「帰るか」




―――――


男「いよう」


黒猫「にゃーん」


男「今日はチーズを持ってきてみたんだけど」


黒猫「……」ハムハム


男「うまい?」


黒猫「……」ハムハム


男「ははは、腹減ってんだな」


黒猫「……にゃ」


男「ん、明日は何がいい?」


黒猫「……」トコトコ


男「可愛いなあ」




―――――


男「いよう」


黒猫「にゃーん」


男「今日はオニオンリングを」


黒猫「ふしゃー!!」


男「な、なんで怒ってんだよ」


黒猫「ふしゃー!!」


男「た、食べませんか」


黒猫「……」フルフル


男「そっか、嫌いなのかな……」




―――――


男「いよう、今日は……」


少女「……」


男「ごめんなさい、間違えました」


少女「ううん、間違ってない」


男「いや、あの」


少女「今日はソーセージ? チーズ?」


男「え……」


少女「それとも違うもの?」


男「えっと、スルメ……」


少女「ちょうだい」


男「あ、うん」




少女「……」シガシガ


男「……」


少女「辛!! 味濃すぎ!!」ペッペッ


男「あ、ごめん」


少女「猫にこんな味濃いもの食わそうと思うなんて、この悪魔!!」ペッペッ


男「君人間じゃん」


少女「ちゃんと黒いでしょ」


男「服がね」


少女「耳もあるでしょ」


男「それフードだよね」




少女「かぎしっぽも」


男「それもパーカーから生えてるだけだよね」


少女「……」


男「まあ、いいけど」


少女「ご飯ありがとう」


男「はいはい」


男「で、本当の黒猫は?」


少女「だから、私が……」


男「はいはい」


少女「信じてない」


男「うん、その通り」




男「スルメが微妙だったのなら昨日の残りのチーズも少しあるけど……」ガサガサ


少女「そっちがいい」


男「はい」


少女「……」ハムハム


男「どう?」


少女「……」ハムハム


少女「うまい」


男「そりゃあよかった」


少女「最初からこっちがよかった」


男「そりゃあ悪かった」




男「あ、君が本当に黒猫だったら、の話なんだけど」


少女「なに?」


男「これ、首輪でもあげようと思ったんだけど」チリン


少女「……」


男「さすがに女の子の首に巻くのは……倫理的にどうかな」


少女「ほしい」


男「あ、そう」


少女「手首に巻く」


男「ああ、そうね、それがいい」


少女「……」


男「ん」


少女「巻いて」


男「はいはい」




少女「似合う?」


男「ん、ありだね」


少女「なんで『K』って書いてあるの?」


男「黒猫と言えば『K』だからだよ」


少女「よくわからん」


男「そういうものなんだよ」


少女「そ」


男「君、名前あるの」


少女「ないの」


男「じゃあちょうどいい」


少女「なにがちょうどいいって?」




男「だから名前」


少女「なんであんたに名前つけてもらわなきゃいけないのよ」


男「……そうね」


少女「名前なんかいらないの」


男「そうかい」


少女「でもこの『K』は外さないでいてあげる」


男「はっは」


少女「なによ」


男「このツンデレめ、と思ってね」


少女「馬鹿じゃないの」


男「……」




少女「あんた、こんな時間に出歩いていて家族は心配しないの」


男「君には言われたくないけど……」


少女「私のことは気にするな」


男「うちの親はこの時間、まだ家にいないから」


少女「共働き?」


男「仲良くパチンコ」


少女「あー」


男「どうしようもない親さ」


少女「……そう」




男「あ、別に同情してほしいなんて思ってないからね」


少女「ど、同情なんてしてないし」


男「あー惜しいな」


少女「は?」


男「『ど、同情なんてしてないんだからね!!』なら完璧だったのに」


少女「馬鹿じゃないの」


男「……」




少女「で、毎晩ご飯買って帰るわけ」


男「妹がいるからね」


少女「いくつ?」


男「今4歳……かな」


少女「離れてるわね」


男「ああ」


少女「4歳の子を家に残して親はパチンコ?」


男「そういうこと」


少女「じゃああんたも早く帰ってあげなきゃ」


男「もう寝かしてきたから、大丈夫だよ」


少女「そう」




少女「ねえ」


男「ん?」


少女「なにか、願い事をかなえてあげる」


男「はあ?」


少女「願い事、ないの」


男「……」


男「馬鹿じゃないの」


少女「……」ゲシゲシ


男「痛い!! 痛いごめん痛い!!」


少女「ふしゃー」ゲシゲシ


男「言ってみたかっただけですごめんなさい!!」


少女「ふしゃー」ゲシゲシ




男「願い事って……そんなおとぎ話みたいな」


少女「ご飯のお礼」


男「はあ」


少女「恵んでくれたご飯3回分の願いをかなえてしんぜよう」


男「ははー」


男「って言うと思ったか」


男「大人をからかうのはやめなさい」


少女「大人ってね、私あんたよりも長く生きてるんですけど」


男「嘘吐け」




少女「ほらほら、すごいお願いでも、しょうもないお願いでもいいんだよ」


男「……」


少女「ないのか」シュン


男「あーあれだな」


少女「?」


男「流星群が見たい」


少女「は?」


男「流星群だよ」


男「空一面の星の流れが見たい」


少女「はあ……そんなんでいいの」




少女「じゃあ……」


男「?」


少女「……」ブツブツ


男「呪文かなんかか」


少女「さ、空見てみて」


男「ん?」


男「うおっすげえ」


キラキラ


少女「きれいでしょう」


男「はは、すっげえ」




男「これ、いつまで見れるんだ?」


少女「今晩中は流れてるよ」


男「はは、寝るのがもったいなくなるな」


少女「こんなお願い事したのはあんたくらいだよ」


男「正直信じてなかったからな」


少女「でしょうね」


男「他にも、こんな風に願いをかなえてあげた人がいるのか」


少女「うん、何人かね」


少女「色んなお願いを聞いてきたけど、流星群ってのは初めてよ」


男「でも、これはすげえわ」


少女「信じた?」


男「ああ、信じた」




少女「あと二つあるよ」


男「んー」


少女「どうする?」


男「それ、明日でもいいか」


少女「?」


男「一気に使っちゃうともったいない気がするからさ」


少女「まあ、いいけど」


少女「そのかわり、明日もチーズちょうだい」


男「はいはい」


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