第3話幻の名車

僕の体を耐え難い眠気が襲っている。

世羅の胸に抱かれて、僕は前後不覚にも眠ろうとしている。


世羅はそっと優しく僕の頭を撫でる。

「再生魔法を使ったからね。体が疲れてるいるのよ。ダーリン、ゆっくり眠ってね。わらわがいたら誰もおそってはこれないから」

世羅は言い、僕の頭や背中をなでる。

しかし、女子ってのはこんなにもいい匂いがするものなのか。僕は感動すら覚えた。


「お休み、ダーリン。チュッ♡♡」

えっもしかして、キスされたのか。

その血のように赤い唇はとんでもなく柔らかくて気持ちいい。

大人になってキスするなんて初めてだ。いわやるファーストキスというやつだ。

まさかその相手が恐るべき吸血姫になるとは思ってもみなかった。

せっかくキスの感覚に浸っていたのに僕の体は眠気に耐えられず、完全に眠ってしまった。



目が覚めると僕は世羅に抱きしめられていた。僕は吸血姫に抱かれて一夜を過ごしたのか。


カーテンの隙間から日の光が差し込んでいる。どうやら朝のようだ。

「おはよう、ダーリン♡♡」

満面の笑みで世羅は僕を強く抱きしめる。

はー女子はなんて柔らかくて気持ちいいのだ。


僕は思いきって自ら手をのばして、世羅のボリュームのある体を抱きしめる。

世羅の体は冷たいがそれがまた心地よい。火照った体を冷やしてくれる。

それにどこをとっても柔らかくて気持ちいいのだ。しかもいい匂いがする。僕はそのいい香りを胸いっぱい吸い込む。

もしこの行為に世羅が機嫌を損ねて、僕を殺してもそれはそれで本望だ。

恐るべき魔王の一人で吸血姫に告白して、その自室で一夜を過ごした僕はやはりどうかしているのだ。


「あはっ、ダーリンがむぎゅっしてくれた♡♡」

どうやら機嫌を損ねずにすんだようだ。むしろ喜んでくれている。やはりバカップルのとる行動をすれば世羅は喜ぶようだ。

しかし、それは命がけの行動なので慎重にいかねばならない。


「ねえ、ダーリン。デートしようよ」

それは想像をぜっする提案だった。

この封鎖都市を支配する七人の魔王の一人とデートをするだって。

過酷な環境で生き残るだけで必死だった僕にもちろんデートプランなんてたてる余裕はない。もともと非モテの僕はデートなんかしたことはない。

この荒れ果てた雪白市のどこに世羅を連れて行けばいいのだ。


「ふふんっ、ダーリン♡♡ドライブしよう」

豊かな胸をはり、自慢げに世羅は言う。

これは自慢したいときの世羅の癖のようだ。しかし、世羅はスタイルがいいな。そこいらのグラビアアイドルなんて相手にならないぐらいに、世羅のプロポーションは抜群だ。


世羅はドライブと言った。ということは車に乗ってどこかに行こうというのか。


「じゃあ、わらわは着替えてくるからダーリンは朝ごはん食べて待っていてね」

そう言い、世羅は別室に消える。

僕は昨日の残りの乾パンを食べて、ミネラルウォーターで流し込む。


しばらくすると世羅は別室にから出てきた。

世羅はレザーのジャケットにミニスカートというスタイルであらわれた。

お世辞抜きにめちゃくちゃかわいい。

頭にレース用のゴーグルを乗せている。

そこいらのモデルなど歯がたたないぐらい世羅はかわいい。

「世羅、めちゃくちゃかわいい」

おもわず言ってしまう。

「そうダーリン、うれしい。雑誌に載ってたモテファッション着てみたかったんだよね。今まで見せる相手なかったから、やっと見せられたよ」

世羅は僕の手を握り、部屋の外に連れ出す。


階段を降りて、地下の駐車場に向かう。

世羅の白い人差し指には車のキーがかけられている。

「これがわらわの愛車スバル300でーす」

世羅は一台の自動車を指さし、自慢する。

あの巨乳をはるポーズだ。


この車は社会見学でみたことがある。往年の名車ではないか。丸みを帯びたかわいらしいデザインの車だ。車内はそれほど広くなく、二人が乗るのがやっとのようだ。


世羅は車の後ろを開け、二リットルのペッドボトルを取り出す。なんとそれを給油口に入れてしまった。

えっ水をガソリンタンクに入れている。

二リットルすべてを入れ、世羅は鼻の穴を膨らませて目をキラキラさせて僕を見る。

そんな姿もむちゃくちゃかわいい。


都市伝説で聞いたことがある。戦前のドイツで水をエネルギー源に走る車が開発されたと。しかし、それはアメリカの石油会社により、その研究成果は握りつぶされたというのだ。


「ふふんっ、わらわが改造したのじゃ。わわらにかかればこの程度の改造は朝飯前なのじゃ」

鼻息も荒く、世羅は自慢する。

「世羅、すごいよ」

僕は感嘆の声をもらす。

これははっきり言ってオーバーテクノロジーだ。こんなのが人類社会に伝わればエネルギー革命がおこるのは絶対だ。


「さあさあ、隣に乗ってよダーリン」

僕は言われるまま 助手席に座る。

世羅は運転席に座る。

車内は未来的なデザインだった。最新式のさらにその先のデザインに僕は見えた。

シートも適度に固くてそれでいて座り心地は抜群だ。


世羅はシートベルトを締める。世羅の巨乳に食い込むシートベルトが絶景だ。

あれだ、パイスラというやつだ。


「さあ、裂け目を見に行こう!!」

世羅ははりきってい言う。

車はほとんど音をたてることなく発進し、地下駐車場をあとにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る