性の逸脱・オメガバース

第一話 改造

 私たち人間には、正確には六種類の性別が存在すると言える。


 中学の頃の保健の授業で学んだ。α、β、Ωの三種類に分類されると。


 けど別に授業で学ぶ前からなんとなく知ってはいた。テレビで、インターネットで、街中の広告で。すれ違う人々の話し声から。同級生が持ち込んできた話題から。


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 物心ついたときから私、須藤浩美は隣の家の同い年の西江瑠奈とその妹の麗美とよく一緒に遊んでいた。


 幼馴染として、そのまま同じ高校で同じクラスで過ごしている。麗美は中学三年生で受験勉強を頑張らなきゃと言って、私たち二人がかりで豪華な家庭教師もどきをして、そしてなんと無事私たちと同じ高校に合格。四月には私と瑠奈は三年生で、麗美は一年生だ。



 


 

 αβΩのどれに自分が属するかは中学三年生のとき義務として検査が行われて判明する。自分がどれに属すか、そういう話題はセンシティブなものとして扱われる。


 

 私と瑠奈は検査結果が分かった後にお互いに話した。それくらいの仲だから。


 どっちもαだと判明。瑠奈がαなのは驚かなかったけど私はαなんだって自分でも意外だった。そのことを言うと瑠奈も自分がαとは思ってなかったと答え、お互い謙遜しすぎだってーと静かに笑った。



 それから2年後くらいに瑠奈の妹の麗美はΩだとわかった。




 

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 私の両親はα女性とβ女性。かなり珍しい組み合わせらしい。


 私が小6の頃に見てしまったことがある。親の行為の最中ってやつだ。自分の家で自分の両親がそんなことしてるだなんて普通に驚いたし、珍しいもん見れたと面白がって友達に話してた。


 西江家の両親はα女性とΩ女性だって麗美から聞いた。


 よく家を留守にして姉妹が私のうちで何泊もすることが幼いころから多かった。幼馴染以上に三姉妹かというほど三人お互いのことを知っているのはこれが理由だと思っている。


 西江両親は仕事で一時的に海外に行くことが多く、なぜならどちらも研究職に就いていて難しいことをやっているからだと聞いていた。随分と優秀な研究者らしいがその娘二人に英才教育をするということは特になく、どちらかというと放置しがちな印象だった。


 

 

 目を背けていたかと言われたら、そうだと頷くのが正解なんだろうと思えるほど、どちらの家庭も”いい親”と断言できるかと言ったら微妙だ。


 

 私のαのほうの親は言葉遣いが悪いしβのほうの親に高圧的な部分がある。でもごく稀なことだ。スルーできるくらいだ。


 そして西江両親は家にいないことが多い。


 けど別に嫌な思いしたことあるわけじゃないし問題ないかと思っていた。ちょっと私の性格が、頭の中のどこかにネガティブな部分があるだけで、そんくらいじゃプラマイしたらギリプラスだろうし最悪でも0くらいだし。そんな細かいことで人生あれこれ影響でるなんてないでしょと考えていた。


 だが当時の私はそんなに物事を深く考えていたわけではない。すべて回想のために当時の感情をなんとかその時の状況から推測したに過ぎない。それくらい呑気に、普通の青春、普通の女子として生きてきた。


 


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 高校三年生になる前の春休み最終日、私と瑠奈は西江両親に誘拐された。


 なぜそうなったのかは私が知りたい。その疑問含め、そしてあの日なぜ私と瑠奈があんな目にあったのか含めてほとんど知らない。


 

 最初に目が覚めて気づいたのは私だ。手足が動かない。視界には電灯。屋内?


 顔は固定されていなかったため、見渡せる範囲を見渡した。


 そこで瑠奈がベッドに拘束されている姿が見えて、外科手術をしているかのような服装の西江両親の姿が見えた。どす黒い赤い色の物がいくつか。


 血だ。臓器もある。錯乱してしまった。それまで普通の女子高生だったんだから。


 大声を出して、瑠奈を目覚めさせたら私は突然、ベッドだと思っていた手術台ごと吹き飛ばされ、浅い意識の中で瑠奈が全身から触手を生やしたバケモノになる過程を見てしまった。


 


 次に目を覚ますと自室にいた。上記のことが今でも覚えている光景だ。


 母「ひろみー今日から新学期でしょ。遅刻するわよー」


 あ、あああすぐ行かなきゃと、あのことはどうせ夢だろうと思いアニメ第一話序盤の主人公かのように慌てふためいて朝飯のご飯をガツガツと早く食べ終えていつも通り、だが学年が変わったのでちょっと新鮮な気持ちで準備を終えて家を出た。


 

 初日から遅刻かなーと思ったがスマホを見ると案外そうでもないと気づき、なんだよせかすなよお母さんと思いいつも通りに学校まで歩く。



 Ωのフェロモンを感知した。


 

 これが最初に気づいた違和感である。周りを見渡してもそれらしき、直接的に言うならヒートになっている、体調が悪そうに見える人は見当たらない。だがΩがいることは分かる。


 4人いる。4人いることは分かる。位置は、匂いを辿るよう想像してみるとすぐにわかった。


 目の前を歩く同級生だが交流のない三名のうち一名。道路を跨いで反対側の歩道を歩いている下級生の集団の中に二名。


 後ろに一名。



 端的に言うなら、私はより強いαになってしまった。これが最初にわかった事実だ。


 

 教室で瑠奈とあった。また同じクラスだねと会話し、そういえば今日の夢?というか、なんか昨日の記憶がないというか、実際そのときの私は現実逃避してたに過ぎないが思い込みというものは恐ろしく、あの出来事を夢だと予想していた。


 そういえばなんか嫌な夢見たんだよ。私と瑠奈が手術台に乗せられてー、なんか悪い研究者に改造されるみたいな?と内心不安を抱えながら言った。瑠奈は自然に、何事もなかったかのようになにそれーと返答し、やはり夢だったんだと確信。


 人は安定を保つためならどんなにおかしいことからでも目を背ける。私はこのとき、昨日瑠奈は何してたのと質問しなかった。



 そのまま学校が終わった。クラス内の誰がΩなのか、同級生の誰がΩなのかをすべて把握してしまいながら帰宅した。


 

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