第2話 怪力王女

 王女は風のように街道を駆け抜ける。


 その姿は着ている白いドレスも相まって場違いだけれど、力強い踏み込みは石畳を掴み彼女の行くべき所へミリアを運ぶ。


 走る王女のその先に、馬車とそれを囲む複数の小さな影や大きな影が見える。


 影達は近づく王女に気が付くと騒ぎ出して、小さな影達はミリア目掛けて向かって来る。


「邪魔をするなら、ぶっ飛ばすです!」


 その挑戦に応じたミリアは立ち止まって足を肩幅に開き、小さな影に対して迎撃の構えを見せる。


 段々と近づいて来ると、小さな影の正体が露わになった。


 小さな影は狂ったように牙をむき出しにした黒色の狼で、囲む事もせず御馳走だと我先にミリア目掛けて跳びかかる。


「とりゃりゃりゃっです!」


 構えていたミリアは次々と襲い来る狼の頭に向けて、闘気を纏った両手を振るって平手を連続で見舞う。


 そんな事は知るかと食らいつこうとする狼だが、平手を受けると体が硬直して新たに足を踏み出せず、次々と地面へ墜落していく。


 頭部に浸透した闘気によって神経を破壊されたのだ!


 寄ってきた相手を行動不能にしたことに満足したミリアは、馬車の周りの大きな影もぶっ飛ばそうとにじり寄る。


「お母様が言っていたです」


 王女が語りながら馬車に近づけば、大きな影の正体は熊の様に巨大な黒狼で先手必勝とばかりに近づいてきた王女へ跳びかかる。


「困ってる人は助けてあげるです!」


 跳びかかってくる大きな狼に怯むことなく、下段に拳を構えたミリアは拳に闘気を集中させる事で輝かせて迎え撃つ!


「破ァです!!!」


 拳でカチ上げる一撃は食らいつこうと突き出された狼の下顎に直撃して、巨狼は縦に回転しながら吹き飛び街道のギリギリ横を深く抉って力尽きた。


「危ない所だったです」


 この王女、戦いの中でも門兵にお願いされた通りに街道へ気を配っていたのだ。


 戦いの後はお母様との約束の片づけをやらなければならない。


 助けられた商人の目の前で繰り広げられるミリアの後片付けは、商人を硬直させるのに十分だった。


 ミリアは小鬼の時と同じように、街道から少し離れた所に拳で殴って穴をあけると神経が破壊されて綺麗に死んだ狼を次々と放り込んで、その穴を震脚で崩落させた。


 大物である大きな狼は街道脇を抉って半分近くが埋まっているので、近くにあった丘へ両手を差し込んで闘気で固め、丸ごと豪快に持ち上げて狼の上に乗せる事で埋めてしまった。


 街道脇に不自然に発生した丘の下に巨大な狼の死体があるとは、目撃した商人以外誰も思わないだろうから片付けは完了だ!


 後片づけの衝撃から復帰した商人が助けに感謝して、ミリアへ謝礼や歓待を持ちかけるが、王女はそれを断って土のついた手を払い背を向けて去っていく。


「礼は不要です」


 これは無償の施しを振り撒いている訳では無くて、もちろん理由がある。

 知らない人について行かないのも、物を貰わないのもお母様との約束なのだ。


 邪魔者をぶっ飛ばした王女は再び走り出して段々と速度を上げ風になる。


 そんな事を知らない商人は走り去っていく無欲の英雄を尊敬の眼差しで見送った。

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