第21話 郷くんのつぶやき

 僕のクラスにとびきり美人が転入……じゃないな、復学したのは夏休み明けの昨日から。身体が弱く、ずっと休学していたらしく昨日の朝までクラスのみんな知らなかった。


 あの学級委員長の長瀬さんも知らなかった女の子の名は東雲沙月さん。


 クラスの女の子からは沙月ちゃんって親しみを込めて呼ぶ人が多い。


 女の子達が早くクラスに馴染めるように色々とお世話をしている光景は……尊い。


 しかし、僕は知っている。どこの学校にも存在するようにこのクラスにもスクールカーストがある。特に女の子のスクールカーストは男と違って複雑である事も。


 僕の一番の趣味はネットゲームだけど、人間観察も意外と好きだ。


 昨日からとびきりの美人がクラスメイトとなり、序列関係なく自分達のグループに取り込もうと行動を起こしている女子達。


 やはり序列一位と二位は行動が早い。学級委員長の長瀬さん率いる一位と二位に所属している桃原あいかことあいぷーが激しく激突している。


 ファーストコンタクトはあいぷーが主導権を握ったかのように思われたが、途中から長瀬さんが横やりを入れ放課後の校内案内を約束、実行した長瀬さんが初日を制した。序列一位でありクラスをまとめる学級委員長の手腕は見事だ。


 そして、二日目の今日。


 沙月さんと席が近いアドバンテージがあるあいぷーが講堂へ一緒に行く事を提案、了承を得る流れまでは良かった。しかし、嬉しさのあまり病弱である沙月さんに抱きつくというミスを犯してしまった。


 このミスをチャンスと捉えたのか、長瀬さんが昨日と同じ様にすかさず会話に割り込み、講堂へ一緒に行く権利をもぎ取った。


 ……さすがだ。


 序列一位、二位が圧倒的有利な状況に他グループが焦ったのか、ひとりの女子が小さく舌打ちした。


 この行為により一瞬で教室の空気が変わった。もしや、バトル的な展開か? と誰しもが思った。しかし突然沙月さんの表情が曇りだし、皆に動揺が走る。


 もしかすると舌打ちが聞こえてしまったのかもしれない。舌打ちした女子を見れば、しまった! って顔をしていて青ざめてる。


 しかし沙月さんの表情はすぐに直り、いつもの表情となって長瀬さん、あいぷー、三島と一緒に教室から出ていった。


 ちなみに腐女子の三島佳奈は特定のグループに所属していない渡り鳥のような立ち位置だが、比較的あいぷーといることが多い。


 沙月さんの思いがけないナイスプレーに男連中は安堵した。女のいざこざは見るだけで悲しくなるからだ。


 沙月さんが教室からいなくなったことで、他グループもそれぞれ講堂へ移動していくことでこの場は収まった。



 講堂では幸運にも沙月さんの後ろの席をゲットできた。教室では最後列にいる沙月さん。講堂で沙月さんを眺めながら授業できることに僕達は大いに喜んだ。


 この席からは沙月さんがよく見える。……まぁ後ろ姿だけど。


 後ろ姿もいいなぁ。って眺めていたら、沙月さんがもじもじし始めたのでトイレかな? って思ったけど違かった。


 理由はすぐに判明した。机の上の筆記用具を見たからね。


 隣にいる長瀬さんに一生懸命になって言い訳してる姿がめっちゃかわいい。他の男子もそんな沙月さんを見てニヤけた顔になっている。


 ……わかってる。僕もニヤけた顔になっている。


 木下がきらピュアの筆記用具を見て、あのギャップたまんねぇ。とつぶやいた。


 僕も同意見だ。美人がかわいい物を所持することで、こんなにも心がざわめくのだから。


 僕達は沙月さん達に聞かれないように小声で、素晴らしい。俺もあの文房具買ってお揃いにする。俺はノートから始めるわ。などを話していたら、突然沙月さんがこっちを見た。


 沙月さんと目が合う。


 ……なんて凛々しく美しいのだろう。僕の体温が一気に上昇する。


 そんな情け無い顔を沙月さんには見せられない。僕は顔ごと視線を逸らす。


 逸らした先に木下の後頭部が見えた。


 ……木下、おまえもか。


 僕達は男の子だからね。こればっかりはしょうがないよな。美人に見つめられたら……ねぇ。


 沙月さんの争奪戦のおかげで僕達男子は誰ひとりとして未だに話しかけられずにいる。そんな中で僕達を見てくれた。……いや、僕を見たに訂正しよう。その方が優越感が爆上がりする。


 それに痺れを切らした男どもがそろそろ行動を開始するだろう。早い奴は来週あたりから行動すると予想している。


 そんな男どもを差し置いて僕は一歩リードしたようなものだ。


 …………これはワンチャンあるかもしれない。



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いつもお読みいただきありがとうございます。

郷くんの妄想が含まれてるとかないとか(笑)

次話も出来次第上げていきます!

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