第15話 距離感
保健室に立ち寄った時間が思った以上に短かったため朝のホームルーム前に教室についた。
教室に入った私を出迎えてくれたのは保健室に連れてってくれたあいかさんと、昨日あいかさんと追いかけっこした佳奈さん、それに学級委員長の美里さんの三人。
あいかさんが大丈夫? って声をかけてきたので大丈夫です、ありがとう。って返事を返した。
ちょっとだけ精神が不安定になってただけで実際に具合はどこも悪くないからね。
あいかさんが私の顔を覗き込み、うん、さっきより顔色良くなってるね! 良かった! ってにっこり笑顔で言う。
……この子、ええ娘やぁ。
心のつぶやきがエセ関西弁だったが気にしない。
「あいかから沙月さんのこと聞いて心配してたところだったの、本当に大丈夫?」
美里さんが念押して聞いてくるのに対し、大丈夫です、ちょっと不安な事があって考えていただけですから。って応える。
美里さんは、あぁ、なるほど、まぁそうね。って言ってなんか納得しちゃった。昨日の新湖先輩の件と勘違いしてるのかな?
えっ、なになに? ってあいかさんが美里さんに聞いたけど、美里さんは内緒です。ってバッサリ切った。さすがクールビューティー!!
えー、教えてよー。としつこく聞いてくるあいかさんを無視する美里さん。意地でも言うつもりはないようだ。
話題を変えるべく、心配かけてごめんなさいって謝ったら、そこは謝ることじゃないよ。気にしないで。って返ってきた。
「沙月さんはずっと自宅療養していたんだから何かあったら頼ってもらっていいから」
美里さんの言葉にうんうんと頷くあいかさんと佳奈さん。
……この子達、ええ娘やぁ。
心がほっこり暖かくなり、笑顔でありがとうございます。って言ったタイミングで予鈴と私の声と重なった。
三人の顔が驚愕に変わる。
予鈴と重なったことにそんなに驚くの?
私は予鈴のせいで聞こえなかったのかもしれないと思い、もう一度感謝を述べたら、顔を赤くながら頷き、それぞれ自席に戻っていった。
……予鈴と重なったことがそんなに面白かったのかしら。んー、女の子はよくわからん。
つつがなく一時間目の授業が終わった。二時間目は講堂での授業のようで、皆移動するための準備を始めた。
私も周りと同じように準備を始めると、あいかさんが声を掛けてきた。
「沙月ちゃん、一緒に行こ!」
別に断る理由がないので、いいですよ。って応えると、ありがと〜って言って抱きついてきた。
「えっ、ちょ、ちょ、えっ!?」
抱きついてくるなんて思ってもいなかった私は突然の事にキョドる。
「……まぁ、まぁ!」
佳奈さんが私達のことを見て若干顔を赤らめながらニコニコしてる。佳奈さんって腐女子じゃなかったっけ? こっちもイケるくちなのか!?
てか抱きつかれた! このままじゃバレちゃう!!! 早く対処しなきゃ! でもどうやって? わからん〜!
女の子同士のスキンシップに戸惑う私。
「沙月ちゃん、いい匂いする〜」
匂い嗅ぐな〜!
「ちょ、ちょっと! 何やってるの!」
つかつかと私達に歩みよってきた美里さんがあいかさんを私から引き離す。
「沙月さんは病弱なのよ! 身体に負担掛けるようなことしてダメでしょ! 朝に保健室連れていったのもう忘れたの?」
「はっ! そうだった。……ごめんなさい。沙月ちゃん」
俯きながら謝る佳奈さん。
病弱でも負担でもないけど、とりあえず離れてくれて良かった。ナイスだよ、美里さん。
「まったくもう、何かあってからでは遅いのよ! 気をつけてよね。……沙月さん、大丈夫?」
美里さんの手が私の頬に添えられ覗き込んでくる。
近い近い! 顔が近いよ! なにこれ? これが女の子の距離感なの? わからない!
「えぇ。あれくらいは大丈夫だけど、突然だったからびっくりしました」
脳内がパニックになっている事を悟られないように頬に当てられた手をやさしく退かすと、近くから、まぁ! まぁ! と佳奈さんの声が聞こえる。
……佳奈さん、あなた両方なんですね。確信しましたよ。
「そう。負担になってないのなら良かったわ。それじゃあ一緒に行きましょ」
そう言うと私の手をとり、にっこり笑顔を向ける。
おおぅ、クールビューティーの笑顔、ぱねぇなぁ。
「先に沙月ちゃんと一緒に行こうと約束したのは私だからね! 私も一緒に行くから!」
あいかさんも一緒に行きたいらしい。まぁ、約束したし別に問題ないか。
「ええ、もちろん、いいわよ」
美里さんも一緒に行くことに異論はないようだ。
……チッ。
なんかね、どこからか舌打ちが聞こえたような気がするんですけど。怖いんですけど! 佳奈さんの、まぁ、まぁってのがうざいんですけど!
そして当然のように一緒に佳奈さんも移動したのは言うまでもない。
--------------
いつもお読みいただきありがとうございます。
パーソナルスペースは人それぞれです!
次話もお読みいただければ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます