灼熱戦闘ミニステ―ル ~ロボに変身するなんて聞いてない!~

冬月 蝋梅

第1話 超大型異生物3号クレラン出現!


燃えていた。


つい数時間前までどこにでもあるはずだった町が、燃えていた。


 平時は通勤ラッシュで車が通っていた高速道路は無残にも砕け、あたたかな憩いの場だった公園は土砂で埋まってしまった。


 そんな街中に大きな影を落としている存在がいた。

 一見すると直立した豚に見える。だが青くぶよぶよした皮膚を持ち、何より両方のわき腹から生えた大きな角が、そいつが尋常の存在ではないことを示していた。


 のちにクレランと名付けられるは、今も車を踏みつぶしながらここではないどこかへ歩いていた。


 時々遠くから轟音が轟き、砲弾が飛んでくる。

 しかし、クレランに当たったそれらはすべてはじき返され、明後日の方向に飛んでいく。そしてクレランは、まったく衝撃を受けた様子がないまま遠くを見定めた。

 直後、クレランの鼻部分から発生した雷が、猛スピードで遠くへ向けて放たれる。

 しばらくして轟音とともに、遠くで爆発が起こった。


 なおも歩いていくクレラン。

 「もはや万事休すか(*1)」と思われたその時…


 突如、クレランの前方に白い光が発生した。


 コンマ0.1秒にも満たない時間、たったそれだけの時間の発光の後、そこには異様なものがあった。


 明らかに人型のフォルムは、しかしクレランに比べ大きめ。

 紅白に塗り分けられながらあきらかに金属とわかる光沢。

 エックス字型のスリットに映るオレンジ色の光をともした顔。

 過剰なまでに大きく、すべてを受け止めるような黒い大きな胸板。

 真ん中のクリスタル上のパーツを中心に幾何学模様を描いた腹。

 まるで鋭利な刃物の塊を思わせるような左右非対称の肩装甲。

 美しい曲線を描く二の腕。

 右に2つの銃口を持つピストルのようなものを取り付けた腰。

 徹底的にそぎ落としたアスリートのような足。

 そして背部からのびる計5つのバーニアノズルが、それが飛べる可能性を示していた。

 

 それは謎の異生物から人類を守る、所属不明のロボット兵器であった。

 防衛軍発案の仮称を『R-1』という。


 Rー1はおもむろに右手を左肩に伸ばすと、肩の装甲をもぎ取った。

 その肩装甲は変形し、ミニステールの全長の半分ほどの長さのサーベルとなった。

 さらに左手を腰部に回し、銃のようなものを取り出すと、それをクレランに向けて発砲した。


 瞬間、発生する光線に対しクレランがとったのは右のわき腹から生えた角に当たるように動くこと。

 角付近のわずか10メートルほど手前に発生した光の壁にあたり、R-1の光線は本体を貫くことはできなかった。


 返す刀でクレランは鼻から電撃を発生させるが、こちらはR-1の胸部装甲に当たり霧散させられてしまった。

 飛び道具は分が悪いと考えたのか、R-1に接近していくクレラン。

 それに対しR-1は、一瞬体を震わせ、右手に持ったサーベルをもちながら後方に跳躍した。

 それを気にせずに接近したクレランは、それまでずっと閉じていた口を開けたと思うと、中からあまりにも長い触手のような舌をだした!


 ゴンギャー!!!


 この世のものとも思えぬ咆哮を響かせると、さらにスピードをあげてR-1に近づき、舌を右手のサーベルの柄に巻き付けた。

 たまらずサーベルをはなすRー1。その隙を見逃さずクレランは接近すると、その角をR-1に向けてぶつけようとする。

 だがR-1は左足を振り上げて右わき腹の角を蹴り上げる。

 たまらずのけぞってしまったクレランに向けて、左手の銃を撃つR-1。

 今度は効いたのか、少し苦しむそぶりを見せるクレラン。

 

 R-1は右手を平手にするとそれが高速回転し始めた。そのままクレランの頭を殴ると、その舌が巻き付けていたサーベルを放してしまう。

 そして右足で地面を蹴り高く飛び上がるR-1は、左足後ろから延ばされた大型の刃物を使ってクレランの腹を蹴った!!


 大きく傷つき青い皮膚にオレンジ色の後を残したクレランは、急に大の字になったと思うと紫の光を発し始め、次の瞬間爆発をした。爆発の後にはなぜか爆破痕が残らず、ただ足跡だけそこにクレランがいたことを物語っていた。


 着地をしたR-1は、サーベルを拾い元の位置に戻した。そして周囲を少し警戒するそぶりを見せた後、突然白い閃光を発した。

 そして、出現と同様にまったく痕跡を残さずにR-1は姿を消した。


 後に残ったのは、ところどころ黒い煙を上げる町だけだった………




==========================



 

「以上が、第3号異生物クレラン撃退の様子を録画したカメラ映像群です。」


大型のモニターの横で大山田一佐がそう締めくくると、暗かった会議室に明かりがともされた。


「……何なのだあれは。明らかにロボットではないか」


参加をしていた政府高官の一人は、机の端で一言漏らした。


「しかし、超大型異生物め。100億以上の新型戦車中隊をもちり芥に変えるとは(*2)!おかげでまた部隊の再編が必要ではないか!!」

「××市の復旧も10年…いやそれ以上はかかる。」

「こんなことなら町ごと更地にしてくれたほうが復旧しやすかったですな」

「超大型の第一号が現れた○○市なんていい例だ。あそこはもはや復旧を放棄して機能を隣の県庁に移したからな。」

「だがやはり超大型の発生は恒常的になってしまったな。次にこの近辺だという推測も立てられんし。」

「重要なのは戦力だよ樋口君。昨今の防衛隊はまるでいいとこなし。これでは内閣がまた変わるではないか(*3)」

「国連の援軍は思ったほど期待できんし」

「やつらは結晶が目あてなだけでは?この国にしか今のところ超大型は発生していない。その異生物の結晶となれば、どこの国でも欲しがるだろう」


 出席者は口々に議論を始める。しかしその言葉の裏に見えるのは、如何に自分たちへの批判をかわすかという方向だった。

 

「…皆様方、今回の議題はあのR-1です。そこをお忘れなく」


 大山田の一言で、ようやく出席者はこの会議の目的に話を移すことにした。


「しかしあのロボット…ロボでいいのか?」

「検査結果によると、表面は未知の金属でできているそうです」

「それだけでロボットと判断するのは早計だろう。中に人間が入っているかもしれんし」

「あぁ、あの装甲の下が肉の塊の可能性もあるな」

「人造人間ですか。はっ、そしたらあんなワープのような出現はどう説明すると」

「わたしはその世代ではなくてねぇ、どちらかというとあの金色の合体するやつ…何て名前だったかなぁ」

「むしろ外部から操作している痕跡がないのだ。あのサイズだと自重の問題も出てくるはず。」

「それ以前になぜ足跡が極端に少ないんだ。あそこまで強烈に地面を踏みつけているはずなのにアスファルトに跡が残らないとは。」


 大山田が手を挙げた。

「それについてなのですが……どうも重力が変化している可能性があるのです。」


 出席者一同がどよめいた。


「それが確かなら、是が非でも確保せねばなるまい」

「そうです。いま世界は異生物対策で軍拡の時代!いつ異生物退治の名目で核を撃ち込まれてもおかしくない!」

「そう考えるとあの機体に使われている技術は有益だ。下手したら核兵器をも超える可能性もある。」

「国防のため、なんとしてでもあの機体を手に入れる…いや、するべきだ」

「そうだ!管理してこそ公共の役に立つというものだよ」


 やがて参加者は一つの目的で合意した。

『あのロボットを我々の手で管理する』という一点で(*4)。


===========================================

 



「へくちっ!!……あぁ、冷えてきたかな?」


 これは、ちょっと遠くて近い平行世界の話。

 異生物と呼ばれる生物が発生する日本で、超大型生物を倒すロボットになる少女のお話。


 そのロボットの名は___


 



           灼熱戦闘ミニステール



___________________________________


(*1)当時の現場指揮官のインタビュー

(*2)なお、これは一台当たりの建造費用が100億円である。

(*3)ここ4年で2回変わっている。

(*4)なお、他国製であっても構わず管理するものとする。


___________________________________

今回のあとがき


気が向いたら続き書くかもしれない。

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