第13話 最後までウザい謎の巨乳女子は誰だ??

前半の演奏が終わり、休憩時間になった。

明るい照明が付いて、ホールはおしゃべりの声や、

トイレに立つ人がひく椅子の音で

ザワザワし始めた。


よし、これはリアルだ。

さっきまでのは夢だ。

間違いない!


私は、試しに自分のほっぺたをつねってみた。


「痛い!!」


ほら、ちゃーんと痛い。ざまあみろ!


私は、ガランとした舞台を見た。

バンドが引き上げたステージには、ドラムセットがひっそり佇んでいる。


スネアドラムはTAMAのシグニチャーモデルSC145だ。

こいつは、1.5ミリのクロムメッキされた厚めのブラスシェルが特徴で、

アタックの鋭い、乾いた抜けの良い音がする。


しかもドラマーは、シェルの周りを、

さらにタオルとガムテでガチガチにミュートしていた。


”The Policeのスチュワート・コープランドかよ”


「The Policeのスチュワート・コープランドかよ」

誰かが隣で、私が思考したセリフを宣った。


もののけか!?


「ハイハットの鬼、ストップアンドゴーを繰り返す、超高速フィルイン、

どう?生きていれば、ローリング・ストーンズのニューアルバムだって聴ける、

ことによるとThe Policeの再結成だって見れるかもよお!」


見ると、私の隣には、胸元が大きく開いた黒いドレスをきた

巨乳のサンタちゃんが、ハイヒールを履いた細い足を組んで、

壁に持たれて立っていた。


私は、お約束通り目を擦った。

それしかできなかったもの。


”これは夢の続きか!?”


「あらまあ、これが夢ってことは、私かあなたか、どちらかが幻ってことかしら、

失礼な話じゃない?」


私は何も声に出していないのに、サンタちゃんは、私に的確な返答をするのだ。


こういうのは、なんていうんだろう?

水木しげる妖怪大図鑑を持ってくるんだった。


「言っとくけど、私は妖怪でも、もののけでもないから。

そんなのは、あちこちにうんざりするくらい生息しているからね」


サンタちゃんは、腰に巻かれた分厚い革製のホルスターにぶっ刺された、

黒くひかるS &W M29を右手の指先で愛おしそうに、

変態的な手つきで撫でている。

こいつ、やばいやろうだ。


「今まで人生は、ほんのお遊びよ。

これから人生の本当が始まるわ。

戦いと、裏切りと阿鼻叫喚に満ちた最高に楽しい世界よ。

あなたは、前の人生でそこにいたわ。

あなたはそろそろ帰らなきゃ。わかりまして?」


意味不明なことを、彼女はいった。

非現実な上に、日本語の文法がなってない。


多分、言葉よりも先に、手が出るタイプなんだろう。


サンタちゃんは、さっと銃を抜くと、胸の前で一回転させてから、

銃口を私の額にぴたりとつけた。


”やっぱりな”


「それともお望み通り、今ここで脳みそをホイップしてやろうか?」

ひんやりとしや金属の感触が、額に伝わる。


「サンタちゃん・・」

「骨の髄まで腑抜けたか?ミランダ?」


会場にブザーがなり、ステージにバンドが現れた。

後半の演奏が始まるのだ。


「あんたが死ぬときは、この私のS &W M29でぶち殺す。

それまで誰にも殺させないわ」


彼女は、銃をホルスタのしまうと、大きくスリットの入ったドレスの背中を見せて、

ドアの方に向かって歩いた。


「どこいくの?もう会えないの?」

私は、彼女の背中に話しかけた。

「いずれまた会えるさ、ちょっとトイレ休憩」




結局サンタちゃんは帰ってこなかった。

バンドの演奏はクリスマスにふさわしい素敵なライブだった。

ドラマーが、実につまらなさそに、オリジナル音源に忠実な演奏をしている以外は。


館内が明るくなり、観客は皆微笑みながら席を立っていく。多くのカップルはこれから少し高級な食事でもするのだろうか、そしてことによると朝まで二人で過ごすのかもしれない。


心が凍結できないでいる。こんなことは初めてだ。

しかし、待ち合わせの時間は迫っている。


「さてと」


最悪な気分のまま、

私は薄暗いロビーに出て蛍光灯に腕時計をかざしてみた。

アナログ式の腕時計の針は午後6時40分を指している。


「さあ、最後の仕事だよ」


私は、誰からも返事の期待できない言葉をつぶやいた。

続く

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