第5話「旅に出ます、自分探しに」私は半分だけ嘘をついた。

「あ、八重子社長、真衣華です。」

「ああ、真衣華?こんな早くにどうしたの?クリスマスイブだから休暇でもほしいの?」

スマホの向こうから、八重子社長のとても上品な声が聞こえてきた。


「いえ。八重子社長、今日で事務所を辞めさせてください」

「何や急に、まさか結婚でも決まった?」

「それはありません、結婚は懲り懲りです」

「そっか、そしたらなんで仕事やめるの?」

「旅に出ます、自分探しに」

私は半分だけ嘘をついた。


さて、私のイメージの中には、丸いホールケーキが一つ置いてある。

満月みたいに丸くて、生クリームがホイップされていて、いちごとブルーベリーで

飾りつけしてある。私はそこに硬い銀のナイフを差し入れる。


「旅?自分探し?、私にはよくわからない言葉だけど・・・どっかに旅行に行くってこと?」

「はい」

「どこに?」

「西表島」

私は、もう半分の嘘をついた。

頭の中で、想像上のホールケーキをナイフで2当分した。

今更”自分探しの旅”こんなボロボロの私に、もはや必要ない言葉だよ。


「真衣華は旅に出たいということ?」

「はい」

「しかも今すぐに」

「はい」

八重子社長はしばらく黙った。


・・・・・・・


”八重子社長は、何を考えているのだろう?”


「とてもとても大事なことです、友達と約束してたんです

彼女と、いつか二人で旅に出ようって」

私は八重子社長に、もう半分の嘘をついた。

私は、頭の中にあるホールケーキに、もう一度ナイフを入れた。


「そっか、わかったよ、真衣華の旅を応援するよ」

「八重子社長、恩にきます」

しばらくして八重子社長が口を開いた。



「だけど、最後に一件だけ仕事してもらえない?今夜の8時に、車が一台待ち合わの場所に運ばれてくる。運転している男性がお客だよ」

私は最後の夜に、見知らぬ男と寝ることになった。

続く













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