「ブーバ・キキ効果」って知ってる? ⦇長⦈

 こんにちは、たてごと♪ です。

 おにぎりが人に握られるのではない、人がおにぎりに握らされるのだ。


 ……はい(

 いろんなかたの物語を拝読していて、どうしても気になる事が、実はその大半に共通して有ったりしまして。

 いや、地名や人名などの、固有名詞についてなんですけどね。


  〝名前……おぼえらんねぇ……〟


 ぼくって、人名とかがズイズイひんしゅつする文章って、すごく苦手なのですよ。

 ずっと昔から、なんなら中学生くらいから既にそうだったので、トシのせいという事ではないはず……という事にしたい(

 だから『長い文章哲学魔王の〜()』でも、魔王をその長ったらしい名前ではなく、「魔王」や「少女」と呼ばせたり。

 主人公の戦士も「きょうの剣」。

 他の人物についても、「お下げの女侍従」や「女侍従長」などと、固有名詞を直接記述することを、なるべく避けて回ってるんですよね。


 他のみなさんはその辺、どうなのでしょう。

 一応、みなさんも同様に名前はおぼえづらい、という仮定をしたとして。

 じゃあ何で、名前はそんなにおぼえにくいのか。

 そういう話をしようと思います。



     †



 先に、〝おぼえやすい情報〟についての話をしましょうか。

 結構多くの人が勘違いしてる事だと思うんですが、


  ◦ 事柄は、その情報量が多ければ多いほど、おぼえやすい


という傾向があったりします。

 いや、情報が沢山あったほうがおぼえるの大変なんじゃないの、と思われるかも知れませんが、実は逆でして。

 人の記憶は「ニューロンれんもうがたおく」、つまり網状に関連づけられて記憶されるものなので、「既知の他の情報に関連づけやすい情報ほどおぼえやすい」っていう性質があるんです。

 だから、事柄ひとつに情報が多く含まれれば含まれるだけ、関連付けのされる確率が高くなって、そのぶん記憶に残る確率も上がる、と。

 おぼえにくいとしたらそれは、「ひとつの事柄が情報を多く含んでいる」のではなくて、「関連しない事柄が複数存在している」って場合なんですね。

 だから物語など記述するにしても、脈絡ないネタばかり詰め込むと、頭に入って来づらくなったりするという。


 例を挙げてみますと、単に〝1,056円っておぼえといて〟とだけ言われても、その記憶を維持するのはちょっと難しいでしょう。

 ところがこれが、〝1,024円っておぼえといて〟ってなると、一定の分野の人たちは一発でおぼえてしまったりする。

 まあ〈2¹⁰二の十乗〉なわけですけど、これはつまりITの分野でひんしゅつする数字で、「情報量1キロバイト」と言えば1,000バイトではなく〈1,024バイト〉を指したりするからですね。

 つまり、その分野に詳しい人たちにしてみれば、「1,024」という数字は〈1,024という数値〉以外に意味を持つわけで、それこそが「情報量が多い」という事なわけです。


 だったら「1,056」も、そういう付加情報を持ちうるとしたならどうか。

 例えば、その内訳として〈960円+消費税〉と分解できたとしたら、でも今度はその「960」という数字がややおぼえづらい。

 でもこれがさらに、〈80円の消しゴムをダースで買った〉とまで付け加われば、まあまあおぼえれるようになりませんか。

 結果、〝1,056円〟と〝80円の消しゴムをダースで買った〟では、後者のほうが圧倒的に情報量が多いのに、それに反しておぼえやすくなっている、という事になるわけですね。

 理由としては、「80円」単体でまあまあおぼえやすい事、「消しゴム」から「80円」は類推しやすい事、「ダース」は既知の特別な数量、「消費税10%」は社会常識。

 そうやって引っ掛かる情報が多ければ多いほど、記憶に残りやすいと。

 歴史の年号なんかに「」を当てておぼえるのも、要するにそういう事ですね。


 くわえて、〝そんな大量の消しゴム何に使うんだ〟などと、当然思うわけで。

 そんなふうに疑問を感じる事柄って、これまた記憶に残りやすいんですね。

 なぜなら、そうやって気に掛かる事柄というのは、将来に何らかの問題へ発展する可能性があるので、それに備えようとする傾向もまた、人には有ったりするからです。

 逆に、解消できた疑問については、もう将来に芽吹いたりしないと安心するためか、フッと忘れ去ってしまうことも有ったり無くなかったり、、

 ほか、恐怖を伴った事柄もまたかなり強烈に記憶に残るもので、つまりそれは同じ目に遭わないようにするためですが、まあこれは情報自体の話ではないですね。



     †



 で、ここで名前のほうにもどってみますと。

 例えば「クリスティーナ」という名前の人物が、いたとします。

 これがどういう人物だかわかりますか?

 もちろん、さっぱりです。

 なぜなら「クリスティーナ」ということばが、クリスティーナという人物を何ひとつ説明しないから。


  ◦ 〈クリスティーナという人物〉を語るうえで「クリスティーナ」ということばの情報量はゼロ


と言っても、過言じゃないでしょう。

 そして、いくら本文中でクリスティーナという人物について解説を加えようとも、それで「クリスティーナ」ということばの意味が変わるわけじゃあない。

 だから「クリスティーナ」という文字列をただ見せられても、具体的にどの人物を指してるのかを想起するのは難しい。

 それがらんようされれば、キャラの取り違えも起こる、そのせいでだれが何を言っているのかもわからなくなって、物語自体を見失ってしまう。

 そんな残念な事態も、予見されるわけですね。

 極端な話、いきなり


  〝ハロルドはテレーゼとこんいんし長男アレックスと長女マーシャをなし、アレックスはメイリンとこんいんし長男カインと次男ルキウスをなし、ルキウスはこんいんをなさなかったが養子として長男ガイを取り、ガイの父グレート・ガイは……〟


とだけれつされると、もうだれにも理解できないような怪文が完成するわけですね。

 ……これが理解できる人はバカg ……いえなんでもないです(


 それを防ぐにはまず、クリスティーナという人物が、受け手から強い印象を持たれなければいけない。

 それを果たせてやっと、受け手には〈「クリスティーナ」と呼ばれる人物の設定〉と〈今そう呼ばれている人物の言動〉が照合できるようになる。

 それができてやっと、最終的に「クリスティーナ」=〈クリスティーナという人物〉という識別が、できるようになるわけですね。

 そして、その段階においてなお。

 たとえばクリスティーナが〈隻眼の女剣士(カッコイイ‼)〉だったとしたなら、〝クリスティーナ〟と書くよりも〝隻眼の女剣士〟と書いたほうが、認識はされやすい、というね……。


 結局、固有名詞というのはどこまで行っても、わかりづらいものなんですよ。

 どんなにがんっても、「クリスティーナ」ということばにはやっぱり、〈隻眼の女剣士〉という意味はありません。

 「1,056円」について、どんなに〈80円の消しゴムをダースで買った〉という理解が深まったとしても、結局は〝1,056円〟って書くより〝80円の消しゴムをダースで買った〟と書いたほうが、圧倒的に通じやすいんですね。

 つまり、


  ◦ 名前とは意味を持たない単なる記号


というわけで。

 いえ、書き手の思惑的には多少の意味もあるんでしょうが、読み手にしてみればそういうふうに映る、という事です。

 だから、それが多数れつされたりしたら、ぼくにはちょっと無理なんですわ。

 日常でもよくありますよね、何を指してるか正確に認識できているのに、その名前が出てこないとか。

 そーいや、とある人が『ルンバ』の事を「ダンボだっけ?」とか言ってい(



     †



 ただ、名前自体はどうしても、決めざるを得ない。

 それでも日本語名の場合、ふつうに意味を解釈できる物になる事が多いので、ある程度までは人物の印象を、説明させる事はできます。

 むしろ、人柄に似付かわしくない名前をあえて振ることで、キャラを印象づける事もできるかもしれません。

 でもそれがカタカナ名となると、なんかもう一気に、何が何だかよくわからなくなる。

 いや、某ゲームの序盤で登場する『ジョバンニ゠ジコール』という人物が、本当に〝序盤に事故る〟やつがあったりはしま(

 たぶんこれゲーム史上でもっともヒドイ人名だよ……(


 そしてこれは、既存で有名な人物と同じものを当ててしまうと、その印象に引きずられてしまう可能性もある。

 まあそんなわけでぼくは、『長い文章哲学魔王の〜()』での固有名詞はどれも、どうせわかりづらいならかぶりにくいものをと。

 極力『Googleグーグルけんさく』で、名前としてヒットしない文字列のものを、用意しました。

 魔王「キュラトーゼレネンティエーツェ」は、もとより。

 主人公「スィーエ」、盟友「アンディレア」。

 ほか「リギシス」「リテローン」「シュノエリ」、地名として「ユードムア」「シャンディワマ」「エリンドヒルト」など。

 まあまあ有りそうで無いやつですね。

 魔王だけやたら名前が長いのは一応伏sゲフンゲフン

 そういう名前は基本、既存の名詞の切りりだったり、でっち上げだったりはしますけども。


 やっとここで出てくるのが、掲題の「ブーバ・キキ効果」。

 まず〝💭〟と〝🗯〟のような図形2つを人に見せて、〝どちらが「ブーバ」でどちらが「キキ」か?〟と質問します。

 すると母国語や人種、年齢や性別に関係なく、ほとんどの人が〝〈💭〉が「ブーバ」で〈🗯〉が「キキ」だ〟と、答えるんだそうです。


 つまり一定の音のれつというのは、どんなにデタラメに作ってもかならず、一定の「かん」というものを持つんですね。

 そこから得られる印象は、個々のことばの成り立ちにも関わるもの。

 特に「やまとことば」においては、かなり大きな影響を与えているものです。

 なのでこれは、特定の人物を指し示す手助けにも、ある程度寄与するのではと、考えるわけですね。


 まあこれ、異世界の事柄を記述する場合じゃないと、なかなか使えない手法なんですが(

 そう踏まえたとしたら、じゃあさっき挙げた自作の人名や地名、どんな感触を受けますでしょう?

 なんとなくにも、人柄や風土が浮かんでくるような気が、してきませんか。


 ちなみに一応、「発音のキツい音を持つことばほど、キツい質感を連想しやすい」という傾向が、有るには有ります。

 有るにしても、でも実際に作って、耳で聴いてみないと、その感触は確認できません。

 ちょっといくつか実験してみると結構おもしろい、というかハマるとこじれそう()ではありますが。

 気が向いたら、そういう遊びに手を出してみるのもまた一興、かもしれませんね。

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