知識チート系、ねえ…… ⦇長⦈

 こんにちは、たてごと♪ です。

 「あれ、今日って何曜日だっけ?」という疑問を抱えつづけていくせいそう、その果てにぼく辿たどりついた真理は〝この世に曜日なんてものは無い〟です。


 ……はい(

 異世界系の物語で一定数存在する〝知識チート系〟ですけども。

 あれってちょっと、ぼくには合わないなあ、っていうのが有りまして。

 というのは、出てくるその肝心の知識というのが、だいたいぼくの知ってる事ばっかりで、退屈なんですよ。

 言っちゃあアレかもですが、「{つつじ}は〝躑躅つつじ〟と書くんですよ!」とか言われても「だからどうした」って感じでして。



     †



 例えばよくあるネタ。

 「農作物の収量向上」という課題に対する、〝クローバーを植えるタイプの輪作〟というやつ。


 農業をするとき、同じ畑で特定の作物を育て続けると、地力が落ちて収量が減るものでして。

 これを「れんさくしょうがい」と呼ぶんですけども、そうなる理由には二つあって。

 ひとつは、その特定の作物にかたよった必要栄養素を、吸い尽くしてしまうせい。

 もうひとつは、栄養バランスが崩れることによってじょう生息きんがかたよって、病気が発生しやすくなるせいです。

 そこで、作付けしない年をもうける「きゅうこう」という事をやるんですが、その休耕時にクローバーを植えておくと地力がよく回復する、っていう知恵が有るわけですね。

 でもそれについてみんな、まるでコピペのようにクローバーを、ただポンと出してるだけで。

 「なぜクローバーを植えれば地力が回復するのか」みたいに、突っ込んだ話をしてるのを見たことが無い。

 これがぼくには、退屈なんです。


 そもそものところ、主な栄養とは何かと考えると、それはタンパク質です。

 これは動物でも植物でも、変わりありません。

 だから実は、砂糖水を作って常温放置してても、そのままでは腐ったりしません。

 でもそこに口をつけて、えきでも混じったりすれば、それに含まれる粘膜にざっきんたかって、翌日くらいにはもうダメになるでしょう。

 そのタンパク質は、組成として窒素を含むんですけども。

 この窒素というやつは、大気の約八割を占めるほど大量にあふれてるにもかかわらず、ほとんどの生物がこれを、直接利用することができなかったりします。

 容器のじゅうてん剤として窒素ガスが用いられるのも、つまり生命活動にほとんど影響しない気体ゆえに、内容物を変質させないからなんですね。

 そしてクローバーは、この大気中の窒素を取り込める数少ない生物のひとつで、成長に必要な窒素の大半を、大気から取り込んでくれる。

 だから休耕するときにクローバーを植えて、次に作付けする時にそのまま土へき込むと、いい肥料になってくれる、というわけです。



     †



 ちなみに同じく大気窒素を取り込む作物としては、ほかに芋類があります。

 特にサツマイモなんかは、〝せた土地でもよく育つ〟とわれるほど。

 でも芋類は、その栄養がほとんど芋に行ってしまいますし、その芋を食わないで肥やしにしてしまうバカはいないので、クローバーのように地力回復に利用されることはまず無いでしょう。

 あと〝肥料なしで育つ〟とかいう誤解が出回ってるようですが、ただ単に化学肥料で言うところの窒素肥料が要らないってだけで、その他のリンやマグネシウムなんかの肥料は必要です。


 そんなによく育つ芋類ですが、でもこれは太古から現代に至るまで、主食という扱いにはなっていません。

 残念ながらその可食部に、人が吸収可能なタンパク質が、十分に含まれていないせいです。

 芋しか食べていないと、栄養失調で死ぬ。

 それが経験則的に知られていたから、肉や魚などの動物性タンパク質が潤沢な地方での、副菜にしかならなかったわけですね。


 ちょっと前に某Gacktさん()が、〝現代の米は精米歩合が高くて、ほぼ純粋な炭水化物だから、積極的に食べる理由が無い〟と言っていまして。

 それに対して、日本人としての心がどーたらこーたらと騒がてれましたが、ぼくもまったく彼の言う通りだと思います。

 その一方で「こくまい」だの何だのが持てはやされてますけど、そんな混ぜ物してるくらいなら精米歩合を落として、はい残したらいいんじゃないの、っていう。

 ななきぐらいまでなら、しょくもそんなに変わり無いですし。

 「はいまい」とか、もっともらしい名前つけて売り出せば、売れるんじゃないすか。



     †



 ところで現在では、食糧不足が叫ばれてます。

 人があまりに増えすぎたせいですね。

 いちおう、全世界での総量でならせば食糧は足りている、って計算にはなるんですが、食糧には消費期限というものが有るわけで。

 現地に届くまえにダメになってるようじゃ何にもならんですし、そしてそれ以前に作物を育てるための、肥料という物も当然必要です。

 日本でも窒素肥料に関しては、ほぼ輸入に頼りきりになっていますが、前述のとおり大気窒素を利用できる生物がほとんどいない以上、可用窒素は有限です。

 じゃあその窒素肥料は一体どうやって工面してるのかっていうと、大気窒素を化学的にアンモニアへ合成することで、確保してるんですね。

 その合成方法としては『ハーバー・ボッシュ法』というものが使われてるんですが、こいつは滅茶苦茶エネルギーを食う。

 そんな事から〝食糧=エネルギー〟とまでわれるほどで、実際にも食品とエネルギーの価格って、ほぼ連動してますよね。

 まあ、つい最近になって某東大()で、『太陽光のみで大気窒素からアンモニア合成』とかいう手法が、編み出されたようでして。

 やっぱり食い物が高すぎてえるとかイヤなので、これには期待したいところですね。



     †



 で、連作障害ですが、なにも休耕してクローバーを植えるだけが、その対処法ではありませんで。

 まず、連作障害の主原因は病気なので、これは農薬を使うことでほぼ防げますし、現代農業では大体そうやってます。

 日本は土地が狭いですから、休耕なんかさせてる余地も当然無くて、つまり「日本の農業は農薬に支えられてる」わけですね。

 その農薬についてギャーギャー騒いだりしてる人もいますが、ぼくらはそうやって作られた作物を、結局食べ続けてるわけで。

 それで目立った問題も出てないっぽいので、あれは問題が有るから騒いでるんじゃなくて、騒ぎたいから騒いでるだけなんだとおもいます(

 そもそも農薬使ってない作物って実際、病気がちな環境に置かれるわけですから、不健康ないし不衛生だったりもしますし。

 それどころか外敵を寄せつけないために、「」ですら、あったりもするんですよね。


 そしてその狭い日本で、古くから何が作られてきたか、って言うとやっぱり米なんですが。

 つまり、「すいでん」です。

 こいつはとんでもない発明品で、外部から水を引いてくるというそのシステム上、栄養バランスやじょうきんが常時調整されつづけるので、「」のですよ。

 だから輪作はもちろん、休耕すら必要無いわけですね。

 なのにこの水田という、連作の問題を抜本的に解決する素敵システムが、〝知識チート系〟で紹介されてる例が一つも無い!

 なぜだ!

 機関の陰謀か‼


 ……はい(



     †



 とまあ、「農作物の収量向上」というテーマだけで、これだけ語れるわけですが。

 もっと博識な人なら、もっともっと語れるでしょう。

 そこへ「クローバーを植えればいいんだよ!」だけ持ってこられても、「えっと、まあ……うん……」にしか、ならないわけで。

 せめて{つつじ}は、〈つつ状のしべ(花)〉という意味で「つつ」と書くんですよ、と。

 かつ、〈歩みが進まない〉って意味の「てきちょく」ということばがあって、そこから〝立ち止まるほどまでにれさせる〟という意味合いで当てられた熟字訓が「躑躅つつじ」なんですよ、と。

 それくらいは言って欲しかったなあ、みたいな。


 と言っても別に、飛びきりの素晴らし知識とかじゃなくていいのよ。

 むしろ全然しょうもないのでいいのよ。

 ただ、何かオモロイ事やろうとして、それが失敗したり失敗したり成功したり失敗したりとか、そういうのが見てておもしろいんじゃないのかな。

 ちなみにこれは、我々の業界では「はいはいこうはい」と呼びます。

 ……はい、いまでっち上げました(

 知識を単に提示するんじゃなくて、例えば〝現代の技術じゃないと実現できないアレ、これをこうすれば有り物でも行けるんじゃないか〟みたいな。

 そういう試行錯誤とか持ってきてもらえたら、主にぼくが喜びます(


 まあ、あれです。

 〝世の中には知らないほうが幸せな事もある〟とはいますけれども、これらもそれに該当するんでしょうかね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る