第15話:傘は素敵なことを隠すためにある。

その夜、僕は紗凪にメッセージを送った。


《昼間はごめんね、心にもないこと言っちゃって反省してる 》

《まだ怒ってる?》

《ベランダに出て来てくれないかな?》


しばらく待ったけど既読にすらならない。

紗凪からの返事は来ない。


完全に怒らせたか・・・。

彼女の気持ちが静まって、機嫌がよくなるまで待つしかないのかな?

なんだかこれ以上、言い訳がましく云うと逆効果な気がした。


触らぬ神に祟りなし・・・。

鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス、まあそういう心境でござろうか?

って冗談のたまわってる場合じゃないし・・・。


結局、夜中の2時頃まで待ってみたけど紗凪からはなんの音沙汰もなかった。


翌朝、朝は天気だった、だけど予報では午後から雨だぞって言っていた。

バカのひとつ覚えみたいなことはもうやらない。


で、バス停に行くと先に紗凪が来ていた。

朝、マンションで僕と顔を合わすと気まずいことになるのがイヤみたいに

先にバス停に来てる、きっとそう。


遠慮しがちに紗凪の斜め後ろに立つ僕、

なんだかまだ友達でも恋人でもなかった頃に戻ったみたいだ。


自分の彼女を無視するわけにはいかないから挨拶はした。


「おはよう、紗凪」


「おはよう」


紗凪は小さな声で、申し訳程度の挨拶を僕に返した。

一応ねって言うように・・・。


めちゃ寂しかった・・・もうため息がでる。


まじでこのまま終わっちゃうのかなって僕は本気で思った。

バスの中でも教室でも僕たちは一言もしゃべらなかった。


案外、別れたりする原因って、ちょっとした些細なことの積み重ねなのかも。

言った言葉は取り消せない。

言われた方はいつまでも覚えてる。

お互いそうやって傷つけあって、修復できなくなっていくんだ。


どうせ一緒に帰ろうって紗凪を誘っても無駄な気がしたので 授業が終わった

時点で僕は一人校舎を出た。


案の定、雨が降っていた。

まるで今の僕の切ないくてやるせない心を象徴するように・・・。


僕は一度空を見上げた。

そしたら僕の後ろで声がした。


「また?・・・またバス停まで走るつもり?」


え?紗凪?


そう思って振り向いたら、僕の斜め後ろに紗凪が立っていた。


「紗凪・・・」

「怒ってるんじゃなかったの?」

「クチも聞きたくないんじゃないの?」


「・・・僕たちもう終わりなのかな?」


「終わり?・・・なんで?」

「私、別れるつもりないよ・・・愛彦、そう思ってるの?」


「いや、僕だって別れたくなんかないよ」

「紗凪が・・・メッセージ送っても返事くれないし・・・」

「だからもうダメなのかなって・・・」


「あ、ごめん、その時間、寝てた・・・朝起きて気がついて」

「でも、まだちょっと素直になれなくて・・・」

「でもごめん・・・私別れたくない・・・」


そう言って紗凪は僕に腕にしがみついてきた。


「僕こそ、ごめんね・・・」

「じゃ〜僕のこと許してくれるの?」


「許すも許さないも・・・愛彦は悪くないよ・・・私がわがまま言っただけ」

「ひとりになって考えたら、なんであんなことでムキになっちゃったんだろうって

思って・・・」


「愛彦は私のことを思って、ああ言ってくれたんでしょ・・・私分かってるよ」

「私のこと一番気にかけてくれてるの愛彦だって・・・」

だから、愛彦は悪くない・・・ね、だから私のこと嫌いにならないで?」

「西田くんにはちゃんと断るから・・・ね?」


「嫌いになんかなるわけないだろ」

「けど僕のこの小さな心が傷ついたこと少しは理解してほしいかな?」


「ごめんね、愛彦が私のこと本気で嫌いになっちゃったらどうしようって

朝からずっと心配してたの・・・本当はもっと早く謝ろうと思ったんだけど」


「そんな状態でよく発作が起きなかったね」

「僕はそっちの方が心配だったよ」


「うん、そうならないようなるべく楽しいことも考えた・・・」


「お、偉いぞ」


そう言って僕は紗凪の頭をナデナデした。


僕らは校舎からゾロゾロ出てくる他の生徒のことなんか気にもしなかったし

目にも入ってなかった。


「お互いに謝って、これでチャラだな」

「もう怒ってないよな?」


「怒ってないよ」


「なら一緒に帰るかしかなろう?」

「お姫さまをエスコートするのは、それがししかいないでござるからな」


「でも私の病気いつ治るか分かんないんだよ・・・それでもいいの?」

「紗凪今、別れたたくないって言ったばっかじゃん?」

「病気だからってそんなことハンデになんかならないの、心配しなくていいから」


「」もう二度と喧嘩はしないし、紗凪を悲しませないから・・・」


「私を離さないでね」


「離さないよ・・・神に誓って・・・」

「結局さ、僕たち相思相愛じゃん」

「外は雨だけど、気持ちは一気に晴れたかな」

「さあ、帰ろ紗凪」


「それが・・・私、傘忘れちゃって」


「ワザとか?それとも本気?」


「ワザと・・・」


「怒るぞ・・・」

「じゃ〜ふたりしてバス停まで走るか?」


「ずぶ濡れになっちゃうよ」


「あのさ、僕が愛しい彼女を雨に濡らしたりすると思う?」


そう言って僕はカバンの中から折り畳み傘を出した。


「ほれ」


「あ〜持ってきてたんだ、傘」


「任せるでござるよ・・・バカのひとつ覚えみたいに同じドジは踏まない

でござる 」


「たまたまでしょ」


「たまたまでも偶然でも持って来たんだから結果オーライなの」

「なんかさ、僕たちの出会いも友達も恋もいつも雨が降ってた気がするな」


「そうだね」


「この傘小さいから、もっとそばにくっつかなきゃ濡れちゃうぞ」


そう言って僕は紗凪を引き寄せた。


「ちょ、ちょっとくっつきすぎじゃない?」


「くっつかなきゃできないでしょ?」


「なにが?」


「キス」


「え?・・・キス?・・・キスって・・・」

「でも、誰かに見られちゃうよ」


「大丈夫だよ、見えないよ」

「いい?、傘って雨が降った時だけに使うもんじゃないんだよ」

「 素敵なことを隠すためにもあるんだからね・・・」


つづく。


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