第11話:PTSD(心的外傷後ストレス障害)

救急車が来るのを待ってる時って、やたら時間が長く感じる。

僕は紗凪を抱っこして、よその飽きガレージの屋根をお借りして

日陰に移動した。


ガレージの入り口の壁にもたれて足を延ばすと僕の太ももの

あたりに紗凪の頭を横向けに乗せた。


紗凪の洗い息はなかなか治らず額や頬にいっぱい汗をかいていた。

僕はハンカチを出して紗凪を額や頬を拭いてやった。


「ごめんね・・・愛彦・・・」


「しゃべらない・・・静かに・・・黙って」

「すぐ救急車来るから・・・がんばって」


そうこうしてるうちに救急車のサイレンの音が聞こえて来た。


「来た、ようやく来た」


なんでもいいから、早くしてほしかった。

僕はガレージから上半身を乗り出して救急車に向かって手を振った。


「ここです〜・・・ここ、ここ」


救急車が手を振る僕を発見して、目の前にすぐ救急車が止まった。

中から救急隊員が出てきて、あれこれ事情を聞かれた?

彼女の症状を簡単に説明すると、紗凪は救急車に乗せられ応急処置された。


「君は?、見内の人?ご家族?、兄弟?」


「僕は・・・彼女の友達・・・恋人です」


「そう・・・まあいい、君も一緒に乗って、状況知ってるの君だけだから」


そう言われて僕は紗凪の横に乗った。

でもって救急車の中でもまたいろいろ質問された。


「お嬢ちゃん・・・かかりつけの病院ある?」


「新浜角野総合病院・・・です」


紗凪は息絶え絶えで答えた。


救急隊員の人はすぐに総合病院に連絡を入れてくれたようで、僕たちを

乗せた救急車は新浜角野総合病へ向かって走った。


「そうだ紗凪のお母さんに連絡入れとかなきゃ」


僕は紗凪からスマホを借りて紗凪お母さんが働いてる職場に連絡を入れた。


救急車が病院へ到着すると紗凪はすぐに救急患者の部屋に運ばれていった。

そしてすぐに精密検査に回された。


心配することしかできない僕は待ち合い室で紗凪の検査結果を待ってると

紗凪のお母さんがかけつけてきた。


「牧村くん、ありがとう」


「お母さん・・・驚かれたでしょ?」


「そうね、でも君が紗凪のそばにいてくれてよかった・・・」

「また発作が起きたんだね・・・最近発作に襲われることもなくなって

来てたのに・・・」


「彼女、今、検査に入ってます」


ふたりで検査状況を待ってると、医者がでてきて結果の説明があった。

僕は紗凪とは他人だから、医者からの説明はお母さんが聞いた。


その後のお母さんから聞いた話によると紗凪は脳にも異常がなかったし、

まあ少し血圧が高かったくらいで健康そのもの・・・。

肉体的に命に関わるような大きな症状は見られなかった。


ただMRIとCT検査の結果、肝臓に白い影が発見されたんだそうだ。

例としてはもしかして腫瘍の可能性があるから様子を見て数日後に

細胞検査をしたほうがいいだろうってことになった。


医者の見立てを聞いて僕はとりあえず胸をなでおろした、とりあえずね。

結果には安心したが、肝臓のことが気になった。


紗凪のお母さんの話によると紗凪は中学の時、授業中に急に苦しみ出して

倒れたんだそうだ。

それは発作の始まりだった。


その時も救急車で運ばれたそうだが、やはり体に異常は見られず

もしかしたら精神的なものから来てるんじゃないかってことで

紗凪からの聞き取り情報による診断結果、倒れた原因はイジメによる

トラウマ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)だろうって診断が下った。

そのせいでパニック障害を引き起こすみたいだ。


発作はランダムに起き、数分、数時間苦、苦しんだ後はなにごともなかったように

正常に戻るらしい。

だが発作に襲われてる時は、このまま死ぬんじゃないかって恐怖との戦が続く。

その苦しみは当事者にしか分からない。


「それでね、紗凪は学校を頻繁に休むようになって・・・それでも最近は

発作も起きないで、よくなったのかなって思ってたんだけどね・・・」

「牧村くんと仲良くしてもらってお友達ができたって嬉しそうにしてたのに」


「そうだったんですね・・・知らなかったです」

「もしかしたら僕が紗凪に・・・紗凪さんに転入してきたわけを聞いたり

したからイジメられた時の記憶が漠然と蘇ったのかもしれません・・・

すいません、僕のせいです」


「大丈夫よ・・・紗凪は、なんとも思ってないと思うから・・・それより

牧村くんにそばにいてほしいって思ってると思うよ・・・」

「だからこれからも紗凪と仲良くしてやってね」


「はい・・・学校でもずっとそばにいて見てます」


きっと紗凪は楽しい時間を過ごしたら、そのうち心の歪みも治るはず・・・

僕がそうする。


「それより紗凪の肝臓に影ができてるって、私はそっちのほうが心配なの?」


「あ・・・そうですね」

「なんでも、なかきゃいいんですけど・・・」


結局、紗凪はその日のうちに病院をでた。


「愛彦ごめんね、心配かけて・・・」

「お母さんもごめんね」


「大丈夫・・・そんなこと気にしないで家に帰ってゆっくりして・・・」

「迷惑じゃなかったら愛彦くんも一緒に来てやってくれる?


「え?・・・いいんですか?・・・」


「紗凪のそばにいてやってくれると助かるんだけど・・・」


「あ、それじゃお邪魔します、遠慮なんかしません」


紗凪の場合は精神的な病気、外科手術みたいに悪い箇所を取ったら

よくなるって病気じゃない。

心の療養が必要・・・僕が少しでも紗凪のそばにいて心を癒してあげることが

できたら発作もおきなくなるかもしれない。


心的外傷後ストレス障害ってやっかいな病気がちゃんと治るまで・・・。

いや治っても、ずっと彼女に寄り添っていこうって僕は思った。


つづく。

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