『シャーロキアン 流の研究室』より抜粋②

タバコ研究 No11

『ピース』


 探偵小説と言えば煙草は欠かせない。特にハードボイルドの分野においては小道具以上の存在であって、象徴と言っても過言ではないと思う。ホームズは言うに及ばず、マーロウやサム・スペード、リュウ・アーチャーなど愛煙家は枚挙にいとまがない。彼らが活躍した時代には煙草を吸わない探偵が出てくると逆にそれが目新しさを感じさせたというから、どれだけ探偵のイメージとして浸透していたかがわかるだろう。


 日本のハードボイルドシーンでも煙草はよく出てくるが、僕は今回取り上げる『ピース』にとりわけ思い入れがある。


 なぜなら日本のハードボイルドの代名詞と言っても良い、はらりょうが生み出した『沢崎』が吸っている煙草だからだ。珍しい両切りのピース。沢崎は相当こだわりがあるようで、他人から普通のタバコをもらった時もフィルターをちぎってから吸っている描写がある。これは作者の原さんも同様で、彼も両切りのタバコを愛飲していたらしい。どうしてなのかはわからないが、著者近影はほとんど煙草を持っている姿である。沢崎のイメージを残したくて、撮影する側の都合でそうしたのかもしれない。


 このブログをご覧になる方々にはもはや説明の必要もないだろうけども、原さんの遅筆ぶりはつとに有名だ。続編が出版されるまで実に10年以上がかかっている。記憶では『愚か者死すべし』の文庫版の後書きだったかどこかで、サイン会の際に老年のファンから「次の10年はもう待てません」と言われたというエピソードがあった。大変申し訳なく思い、次は早く書こうと思った、といったことも記載があったような気がするが、なんとその次の作品が出たのは14年後である。どういうことやねん!


 ともかく、やっと『それからの昨日』が近々出版される。これは前作『それまでの明日』の直接の続編となるらしい。まったく、待っているファンの身にもなってほしい。こちらは彼のエッセイ集に書かれていた『原尞翻訳のマーロウ』も含めて楽しみに待っているのだ(もっとも、僕が『沢崎』を知った時にはすでに『それまでの明日』は出版されていたけど。リアルで待っていた人はたいへんだったろうなぁ)。ヘビースモーカーということだからあまり健康には頓着とんじゃくしていないのだろうけども、末長く沢崎に活躍してほしいものである。


 では本題! ピースのパッケージ外観はこちら。もちろん、沢崎が吸っている両切り! 本当なら缶ピースも並べたかったけど、都合で無理でした。あれ嵩張かさばりそうだしなぁ……

<以下略>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る