第2話 副社長

 今日から東京本社での勤務だった。配属先の営業部に行くと、営業第一部の部長からみんなの前で紹介され、拍手で迎えられた。やっぱり、美人だと、女性はわからないけど男性からは好意的に迎えられるのね。その後、その部長から業務内容を説明するからと会議室に呼ばれたの。


「宮下さんには、営業部長をしている河野副社長のもとで営業要員としてのトレーニングを積んでもらう。日常は、全て副社長の指示で動くので、我々と接する機会は少ないと思うが、頑張ってくれ。では、これから挨拶に行ってもらいたい。副社長の部屋はあそこだ。」

「はい。」


 後で聞いたけど、容姿で副社長は私を引き抜いたようで、この部長は、副社長の指示で地方営業所から私を呼びつけただけみたいだった。だから、部長は、私を副社長に持ってくればよく、それ以上は、関与しないと決めていたらしい。


 副社長の部屋に向かい、前に座ってる秘書に了解を得て、挨拶に入った。

「失礼します。今日から、副社長のもとで働かせていただく宮下です。よろしくお願いします。」

「おー、来たか。営業経験はないと聞いているから、しばらくは、私と一緒に行動してくれ。今日は、17時に滝本電気に行って社長にご挨拶した後、会食を用意しているから、一緒に出てくれ。16時40分に車を秘書が用意しているから、一緒に行くぞ。それまでは、滝本電気とのこれまでの取引とかをまとめた資料を用意したから、読んでおいてくれ。会食は、六本木にある5つ星のABAホテルに入っている、ミシュラン3つ星のフレンチだから、どんな話題が合うかも考えておくように。先方の社長を喜ばすことが、あなたの今日の仕事だ。じゃあ、夕方に。」

「かしこまりました。」


 当社はIT会社で、滝本電気には、財務システムを導入していて、ビックユーザと記載されていた。それも重要だけど、副社長って、どんな人なんだろうと思い、秘書に聞いてみた。


「そうね。当社の天皇と呼ばれている人よ。社長はメインバンクからの天下りで、週に3日はゴルフ、1日は会社きて1週間分の新聞とかビジネス雑誌とか読んでいる。あと1日はリモートとか言っているけど、何やっているかわからない。結局、当社の事業には関心がないから、当社の事業は全て副社長に一任って感じ。副社長は、ご機嫌な時はいいけど、気に入らない社員はすぐにクビにしたり、顧客案件をストップしたりするから、誰も逆らえなくて、みんな言いなりって感じ。宮下さんも気をつけた方がいいわ。まあ、あなたはアイドルなみに可愛いし、スタイルもいいから、副社長はお気に入りのご様子だけど。」

「教えてくれて、ありがとう。でも、何を気をつけたらいいの?」

「まず、反論とかしないことね。そして、副社長には常に、敬意を行動で示して。社内ミーティングの時なんかは、参加する社員に言って、副社長が来るまでは、みんなを立たせ、副社長が座った後に、全員が敬礼して座らせるとか。言わなくても、みんな、そうすると思うけど、たまに新入社員とか知らずにいると、後で、あいつはクビにしろと指示が出て、いつの間にかいなくなってるって感じ。あと、副社長以外の役員とかとは、仲良くしない方がいいと思う。」

「よく、わかった。気をつけるわ。これからも、よろしくね。」


 夕方になって、滝本電気の社長にご挨拶、会食も順調に終わり、タクシーでお見送りをした。そして、副社長から、会食をしたレストランが入っているホテルのバーで、飲み直すぞと言われ、承知しましたとついていったの。夜11時は過ぎていたけど、男性の時に上司に連れて行かれた気分で安易に了解してしまった。


 会食でもワインを飲み、バーでもカクテルを2杯も飲んだのでだいぶ酔っちゃった。副社長と何を話したのか、あまり記憶していないけど、1時も過ぎたので、そろそろ帰りますと伝えたの。そうすると、もう遅くて危ないので、部屋をとっていると言われ、その部屋に連れて行かれてしまった。


 よくわからないまま部屋に連れいかれ、部屋のドアが閉められた途端、急に抱きつかれた。何が起こったか分からなかったけど、男性の力は思ったより強く、全く抵抗できない状況に怖くなってしまい、動けずにいた。そのまま、ベットに押し倒され、服も脱がされて抵抗できなかった。


「痛い。痛い。入れるのはちょっと。」

「なんだ、この年で処女なのか。燃えるな。まあ、最初だけだから我慢しろ。足を開けよ。」

「こんなことはだめです。え、え、ちょっと。」

「我慢しろって言ったろ。」


 副社長はその後、中出しをして満足したようで、シャワーを浴びてくるといって浴室に入った。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。涙を流しながら、ベットで天井を見つめていた。


「お風呂入ったから、お前も入れ。ベットはツインだから、俺は寝てる。明日の朝食はルームサービスでオーダーしているから、一緒に食べるぞ。6時に起こしてくれ。」

「わかりました。」

「宮下は、女優並みにルックスとスタイルがいいから、お客様は喜ぶ。これからも、いつも、俺の横にいて、ニコニコしてればいい。その分、給料も上げてやるから安心しろ。」


 それから、言っていたとおり、副社長に常に同行し、ニコニコしていた。それだけなのに、ボーナスは最高レベルの評価で、年2回とも200万円以上が出て、26歳の時には、同期トップでマネージャーに昇格した。


 その後も続き、海外出張も頻繁に連れ回された。出張時には、会社には副社長と私の部屋を予約したことにしておいて、実際は副社長の部屋に泊まらされ、浮いたお金で高いレストランに一緒に行った。ホテルもグルで、領収書とか偽造してたみたい。


 ある日、エレベーターで、副社長と一緒にいると、若い女性が乗ってきて、副社長に挨拶しなかった。エレベータを降りた時に、副社長が聞いてきた。


「あれは誰だ?」

「確か、山本常務が所掌する業務管理本部内の人事部にいる派遣社員だと思います。」

「俺に挨拶がないなんて、当社で働く価値がない。クビにしろ。」

「え、挨拶だけで派遣社員をですか? 最近入ったばかりだったと思いますが・・・。」

「なんか、文句あるか?」

「いえ、ありません。承知しました。」


 私は、人事部の課長のところに行き、副社長があの派遣をクビにしろって言われたので、よろしくお願いしますと伝えた。2日後、その派遣社員の顔を人事部で見なくなった。


 後で聞いたんだけど、人事部を所管する山本常務は、副社長のこの横暴さに、だいぶ腹をたて、私のことも許さないと言っていたらしい。そんなこと言われても、私も拒否できないんだから、仕方がないのよ。私を守れないあなたのせい。


 また、別の日には、副社長は、鈴木は気に入らないと言って、これまでかなりの金額の取引をしている提案案件をさんざんに言って、案件担当から引き下ろし、自分の子飼いに案件を引き継がせた。鈴木さんは、そのせいで受注金額が落ち込み、降格させられたらしい。


 ある日、副社長の秘書から声をかけられて、産休に入るのでしばらく休むと聞かされた。せっかくなので、夜一緒に食事でもどうって誘ってみたら、喜んでOKと言ってくれた。


「これからしばらく来ないけど、別の子が来るから、面倒見てあげてね。」

「わかったわ。元気な赤ちゃんが生まれるといいわね。」

「ところで、乙葉さん、副社長と寝ているでしょ。」

「え?」

「隠さなていいのよ。私も同じだから。実は、お腹にいる子、副社長の子供なの。でも、さすがにそう言えないから、旦那の子ということにしている。もちろん、旦那にもこのことは内緒で、同じ時期にうまくやったからバレていない。この会社には、乙葉さん以外にも、あと2人ぐらい、そんな関係を持っている女性がいるみたい。」

「そうなんだ。それは、なんと言っていいか。」

「私はいいの。毎日半分ぐらいしか仕事してなくても給料も出るし、土日も働いていることになっていて、給料は結構出てる。1週間に7日働いているのに問題にならないって不思議だけど、派遣会社は、お金もらえるならって、何も言わない。副社長が怖い人っていうのも知っているのかもしれない。」

「そうなんだよね。副社長って、アメとムチというか、あの恫喝する目も怖くて、いつも断れない。」

「そういえば、副社長のエッチって、特徴があるよね。絶対、コンドームつけないし、生理の時も関係なくやるよね。」

「同じなんだ。つけてくださいって頼んだんだけど、無視で、私は、避妊のピル飲んでる。また、生理の時は、シーツに血がつくし、不衛生だからやめてくださいと言っているんだけど、やめない。それは嫌だけど、どうしょうもない。」

「やっぱりね。まあ、乙葉さんは結婚していないんだから、子供は作らないように注意しないと。私は、DNA検査とかならないよう注意しておくわ。もう一つ、会社の経費で贅沢することには目がないわよね。」

「そうね。聞いたんだけど、昔は、社長、副社長も海外出張はビジネスクラス、ホテルは5万円までとなっていたところ、ルールを見直し、飛行機はファーストクラス、ホテルはスィートルームに見直したって。社長を丸め込んでるのよ。だから、しょっちゅう私を連れて海外に行き、ルール通りと正々堂々と海外旅行で遊びまくっている。私も海外に行って、美味しい料理をいただけるのはいいけど、なんか売春しているみたいで。」

「ルール改正についても知ってるんだ。でも、海外旅行のお供、お疲れさま。」


 そんな同じ悩みを共有しながら会話は続いた。

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