第4話 転生の間 side 翔 中編

「そう、それこそが私があなたに会いに来た理由なのです」


 どういうことだ? 明日香のスキル選択がなぜ俺に関係ある? 頭の回転に自信がある俺でも予想がつかない。


「柊 明日香が選択したスキルは…………"スキルナビゲーター"です」


 システィーナが高らかに宣言する。


「は?」


 思わず間の抜けた声が出た。いや、実際に声は出てないんだけど。


 だってさ、"スキルナビゲーター"って何? ファンタジーどっぷりの俺ですらよくわからないスキルだぞ。ナビゲーター? スキルを案内するスキル? そんなの意味あるの? 戦闘能力皆無じゃん。

 そもそもスキルや魔法に縁のない人間がそんなの思いつくか? あっ! 逆にスキルが解らないから選んだってこと? ……終わった。明日香は唯一の恩恵を棒に振ってしまったようだ。


「"スキルナビゲーター"とは……」


 しかし、システィーナから伝えられたスキルナビゲーターの能力は、俺の想像を遙かに超えるチート能力だった。


「スキルナビゲーターとは既存のスキルではありません。あなたの妹は少々特別な状況にありましたので、既存のスキル以外からの選択になりました」


 特殊な状況って、『泣き止むまで待つのが面倒くさかっただけでは?』と思ったがあえて口にはしない。紳士なのだよ、俺は。


「スキルナビゲーターの能力はずばり、『あなたが自我を持つスキルとなって妹さんを導く』というものです」


「えっ!?」


 何? 予想外の能力。それってある意味俺も転生できるってこと? スキルだから身体はないのだろうけど、自我が残るだけ儲けものだよね? 

 なるほど、明日香は数ある有用なスキルを選ばず、俺と一緒に転生できるスキルを探してくれたんだな。何か嬉しくなってきた。やっぱり俺の愛は一方通行ではなかったのだ!!


 これだけでもありがたい能力だが、まだ続きがあった。


「さらにスキルをナビゲートするのに特別な力はいりませんので、あなたは新たに1つ、好きな能力を得ることができます。どの能力にいたしますか?」


 まじか、俺がスキルとして転生できるだけでもありがたいのに、ナビゲート自体に特別な能力はないから、スキルとしての俺に力をくれるとは。

 考えるんだ俺。ここは愛する妹の運命の分かれ道だぞ。中途半端に強い力ではなく、魔王や英雄すら軽く凌駕する能力を考えるんだ!


 まず、俺が戦える訳ではないから武術系スキルは論外として、魔法はどうなんだろう?


「スキルである俺は魔法を使えますか?」


「残念ながら魔法は魔力を行使して使用されますので、魔力のない者には行使できません。もちろん、スキルであるあなたが魔力を持つことはないでしょう」


 なるほど、そうなると、選択肢が限られてくるな。まず思いつくのは"鑑定"や"隠蔽"といった魔力を使わずに情報を操作するスキルだな。俺が情報を得れば明日香に伝えられるだろう。

 あとは"並列思考"や"思考加速"など、スキルである俺自身にも有効そうなやつか。しかしだ、魔王や英雄を超えるとなると疑問だな。あれば便利なのは間違いないが、それだけあっても強くはなれないだろう。

 だとすると"経験値倍化"や"スキルポイント倍化"はどうだろうか。俺が持っていれば、明日香にも効果がありそうだし、長い目で見ればかなりの恩恵がありそうだ。それこそレベルアップ時のステータス上昇率が高かったり、有能なスキルを覚えることができれば、計り知れない力を発揮するだろう。


「転生者はレベルアップ時のステータス上昇率が高いのですか?」


「いえ、あちらの世界では職業や種族に関わらず、レベルアップ時のステータス上昇値は0~5の間と決められています」


 そもそも、レベルを上げるためには戦闘能力を確保しなくてはならない。偶然、レベルが1つ2つ上がったとしても、ステータスがそれほど上昇しないならすぐにやられてしまう可能性が高い。


経験値倍化はだめか。


「では、スキルはどのように覚えるのでしょう? 持っていないスキルは簡単に覚えることができますか?」


「スキルを覚えるのは簡単なことではありません。生まれつき持っているスキルは別ですが、新しいスキルを覚えるのに、スキルポイントが100必要で、Lv2、Lv3、Lv4、Lv5と上げるのにそれぞれ、75,300,1700,5000ポイントが必要になります。

 ちなみに新しく覚えることができるスキルの種類は、そのスキルに関する行動を取るか、職業によって決まります。ポイントがたまったときに現れる、スキル選択一覧に覚えることができるスキルが表示されます」


 となると、"スキルポイント増加"も微妙だな。スキルポイントは溜まってもスキルを覚えるまでに死んでしまっては意味がない。もっと考えろ。1つしかないスキルを最大限に活かすには……んっ? 1つしかないスキル?



 思いついてしまった、究極のスキルを。この能力なら魔王や英雄なんて目じゃなくなる。問題はこんなパワーバランスを崩してしまうようなスキルが認められるかどうかだ。

 しかし、迷うことはない。愛する妹を守るために、俺は最強の力を得るのだ。


「決まりました。俺が欲しい能力は……」

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