第27話

 僕の話を聞いた後、彼女は俯き何事かをボソボソと喋っていた。耳を澄ませて聞いてみると.............


「へぇ、そうなんだ。美嘉が寂しくて寂しくて死んじゃいそうで苦しんでる間に悟君はそんなことしてたんだ。でも、悟君はきっと悪くないもん。だって、悟君は王子様だから。私を悲しませるなんてことしないもん。だったら、その頭のおかしい女が悪いんだ。全部そいつが悪い。悟君が美嘉のことを裏切ることなんてしないもん。そいつのこと殺しちゃえばいいのかな?殺しちゃえば悟君はきっと喜んでくれるのかな?喜んでくれるよね。だってそうすればずっと美嘉と一緒にいれるもんね。美嘉と悟君は両想い。こんなに愛し合ってるのにそれを阻もうとするなんて誰であっても許せないよね。なら、そいつを殺しちゃうのが正解だよね。あはは、悟君。私、悟君のこと大好きだもん。そのくらいのことは出来ちゃうんだよ―」


 と危ないことを言い始めたので美嘉のことをまたそっと抱きしめる。


 そこで、彼女はハッっとして僕の方へと顔を向ける。


「ダメだよ、美嘉。人殺しはダメ。僕は美嘉に犯罪者になってほしくない」

「で、でも、わ、美嘉許せない。美嘉と悟君の中を壊そうとする人なんて許せないもん」

「それでも駄目。美嘉がそんなことしてずっとあえなくなっちゃう方が悲しいよ」

「さ、悟君。ごめんね。そうだよね、間違ってた。ごめんね、悟君」


 そう言って抱きしめてくる彼女のことを今より少しだけ強く抱きしめ返してあげると胸の中で身を捩って喜びを露にする。


「ね、悟君。じゃあ、悟君はこれからずっと美嘉の家で過ごすよね?」

「それは.............」

「ダメ、なの?悟君と美嘉は相思相愛なのに?ね、なんで?悟君、教えて。どうして?」

「僕は美嘉に寂しい思いをしてほしくないのは本当だよ。できる限り美嘉のそばにいたいって思ってる。でも、美嘉には一人でも生きていけるくらいに強くなってほしいんだ」

「.............?なんで?だって、悟君がいなきゃ美嘉は無理なんだよ?一人でなんか生きていけないよ?」


 とさも至極当然のようにそう言って首を傾げる彼女。


「もし僕が本当に死んじゃったときに美嘉には強く、幸せに生きていてほしいから」

「…あはは。何言ってるの?悟君」


 「悟君が次、本当に死んじゃったら美嘉も後を追って死ぬから関係ないもん」


 そう言って満面の笑みを浮かべた彼女の瞳はどこまでも黒ずんでいてとても寂しそうにしていた。


 思えば彼女はいつだって寂しがり屋だった。初めて会った時の彼女は見た目に反して寂しそうな眼をしていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る